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LIVE REPORT

七海ひろき ライヴレポート

【七海ひろき ライヴレポート】 『HIROKI NANAMI One-man LIVE 773 “DAYLIGHT”』 2023年9月21日 at かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール

2023年09月21日
@ かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール

未知の領域に足を踏み入れるのは、人間にとって非常に勇気の要ることである。たった一歩を踏み出すのに躊躇し、時に後戻りをしてしまうこともあるだろう。だが、もし、そこに信頼に足る先導者がいたならば、恐れは振り払われ、自分ひとりでは為しえなかった一歩を印せるに違いない。まさしく、七海ひろきというアーティストは、そんな偉大なる先導者であるのだと『DAYLIGHT』――つまり“夜明け”の名を冠したステージが教えてくれた。

コロナ禍を経て、久々の声出し解禁となったライヴツアーの最終日。ステージ中央に燦然と七海が現れ、今年4月に配信リリースされたロックチューン「林檎の花」を放った瞬間、場内は大歓声とペンライトの真っ赤な光に染め上げられた。追い求めるほどに触れられぬ花に対する“なぜ”の想いを背後のスクリーンと、そして歌声に力強く表し、さらに“最高に盛り上がっていこうぜ!”と壇上から下りて歌い上げたのは「START!!」。4年前のデビュー作で “ここからが始まり”という決意を刻んだアッパーチューンに、集まったファンは凄まじい勢いでペンライトを振り上げ、拳を突き上げる七海とともに“START!!”の声を高らかにあげていく。一転、主演ドラマ『合コンに行ったら女がいなかった話』の主題歌でもあった「HEART BEAT(七海ひろき Solo ver.)」では、ピンクのペンライトを左右に振る客席から《Na-na-na-na〜》”の大合唱が。会場がひとつになって声を合わせるという待ち望んだ景色に、そして一糸乱れぬ動きの一体感に、その源であるファンの熱い愛を感じて序盤から圧倒されてしまう。

当然“もう、すでにアツくない?”という七海の問いには“アツーい!”の声が返り、今回の大阪&東京公演の会場は2019年の初ライヴと同じ場所であったことに触れ、“なんだか、すごく“DAYLIGHT”って感じしない?”と、七海いわく“カチコチだった!”という当時を回想。MC中にスムーズに水が飲めるようになった、撮影で小道具がふたつ同時に持てるようになったと、普段のパフォーマンスからは想像できない一面を垣間見せ、以降のステージで“あの時よりは成長したんじゃないかな?”という言葉を証明していく。スモークとレーザー光線がステージを彩る「FATE」では、その仕草や表情から瞬く間に幻想的な世界観を作り上げて舞台人の本領を発揮し、ミディアムバラード「もう一度...」を続けてオーディエンスにやさしくアプローチ。さらに10月18日にリリースされるニューアルバム『DAYLIGHT』では、今回のツアーと同じく“夜明け”をテーマに、ロックな曲がふんだんに収録されていること。ゆえに“(ツアーの)衣装もロックテイストです!”と告げて、レザー調のジャケットで胸を張り、満場の“カッコ良い!”の声を浴びる。そのまま低音ヴォーカルを活かした灼熱のロック曲「Micro Universe」、スタンドマイクを巧みに操りながら前へと迫り出してクラップを煽る「Starting Over」と、いきなりアルバム新曲を畳みかけて場内を沸騰。3曲目の「RUN」では事前練習した振りとかけ声を見事に繰り出すオーディエンスに“みんなバッチリすぎて完璧だったよ!”と顔をほころばせ、“自分の物語として作詞した曲なので、感慨深く思いながら、みんなと最高に楽しもうと歌いました”と胸のうちを明かしてくれた。

ロックチューンで熱い空気を醸しつつ、着席しての後半戦ではさらなるバリエーションを披露。“心を込めて歌いたいと思います”と始まったミディアムスロー曲「ポラリス」では、ピアノ一本をバックに迫真のヴォーカルで観る者の胸を揺さぶり、軽快な「アルデンテ」へとつないで、切なさと温かさという真逆のベクトルから“七海ひろきのラブソング”を魅せていく。そして、サポートバンドのインタールードを挟み、シックな黒コート姿に衣装替えして再びステージに現れると、またもやアルバム『DAYLIGHT』からリード曲「Giovanni」を披露。自身を取り囲むように降下してきたLEDバーの隙間から手を伸ばして歌う姿は実にエモーショナルで、歌詞に描かれた主人公の心境が切々と伝わってくる。バンドアレンジされた「Ambition」ではジャジーにスイングして、醸し出す妖艶なムードで大歓声を招き、トドメとばかり「花に嵐」ではシアトリカルなダンスも交え、オーディエンスを悩殺。長いコートの裾を翻してターンしたり、膝をついたりと、観る者をエスコートするかのようなノーブルなアクションは七海が培ってきた得意技だ。色めき立ち大歓声を贈る客席に“イヤモニしてても歓声が聞こえると“通じ合っている!”って思える”と喜びを表すと、本編ラスト曲について、こう前置いた。

“私にとって、とても大切な曲になりました。初めてのアニメ主題歌で、第1話を観た時の高揚感は今でも忘れられません。みんなのおかげだと思っているので、魂を込めてガッツリ歌っていきます。準備はいいか!?”

そんな号令に続いて轟いたのは、TVアニメ『Helck』第1クールのOPテーマとしてオンエアされた1stシングル「It’s My Soul」。場の空気を切り裂くようなロックサウンドに乗って感情の猛りを声で、動きでぶつける七海がニヤリと笑みを浮かべる場面に背筋がゾクリと震える。赤く光るペンライトを力の限り振り上げるオーディエンスと、互いのエモーションがひとつになった時、天井から白い羽が振り落ちるという神々しい景色でフィナーレへ。それは、ファンの声という大きな力を手に入れて“ロック”という新たな地平へと踏み出したアーティスト・七海ひろきの、まさしく“DAYLIGHT=夜明け”を祝福するかのようだった。

ツアーのリハーサル風景から“みんながいるから“夜明け”を迎えられる!!”という直筆メッセージを映したエンドロールが会場いっぱいの“ひろき!”コールを巻き起こすなか、なんとアンコールでは一階客席に七海が登場。「Special summer」でタオルを振りながら、ファンの間近に迫ってコンタクトを交わすのだから、オーディエンスは大興奮だ。続いて、アルバム『DAYLIGHT』の初回限定盤に収録される、“七海ひろき お化け屋敷スタイリッシュ突破?!”なる特典映像を一部上映のサプライズも。何事もスタイリッシュに攻める七海のオリジナリティーと、ファンを楽しませたいというサービス精神には感服するほかない。初めてのライヴから4年振りに同じステージに立てたことを“すごくエモーショナルなこと”と語り、こう続けた。

“私がどんなに進むのがゆっくりでも、みんながついてきてくれる。そのおかげで私は前に進むことができる。だから全部みんなのおかげ! どんなに苦しくても太陽は昇る、夜明けは来る。みんなに最高の夜明けが来ますように”

そうしてツアーを締め括ったのは、ツアーとアルバムのタイトル曲でもある「DAYLIGHT」。モニターには手書きの歌詞も映し出され《不器用に輝いた褪せない記憶》《故郷の海で風が光る》といったリリックが、この曲もまた七海ひろき自身の物語が綴られたものであることを知らせてくる。ダブルアンコールで再登場すると“これからも一歩ずつ前に進んでいきたいと思います。大好きだよ!”と客席に向かって投げキス。その言葉が嘘のない真実であることは、この日のステージを観れば明らかだった。

スタイリッシュなパブリックイメージの内側に、熱く燃える魂を秘め、それをロックという形でよりリアルに体現しながら、MCでは時に自身の弱さまでもさらけだす。七海ひろきというアーティストは、どこまでも誠実で、だからこそファンは安心してその背中を追うことができるのだろう。結果、気づけばファン自身がそれまで踏み込んだことのない領域にまで進み、未知の世界で新たな喜びを味わうことができる――“DAYLIGHT”の名のとおり、そんな希望の光を感じられるツアーだった。

撮影:高田真希/取材:清水素子

七海ひろき

ナナミヒロキ:89期生として宝塚歌劇団に入団。宙組、星組にて男役スターとして活躍。2019年3月に宝塚歌劇団を退団後、声優・俳優としての活動をスタート。同年8 月にキングレコードよりアーティストデビュー。以降、話題作のメインキャストや舞台主演を多数務め、声優としてはTVアニメ『かげきしょうじょ!!』里美星役や、『ヴィジュアルプリズン』イヴ・ルイーズ役、俳優としては『舞台『刀剣乱舞』綺伝 いくさ世の徒花』細川ガラシャ役、『舞台『刀剣乱舞』禺伝 矛盾源氏物語』歌仙兼定役。そして、初主演ドラマ『合コンに行ったら女がいなかった話』ではイケメン男装女子の蘇芳役に抜擢され大きな話題を呼んだ。