6月30日のしとしとと雨が降るキリスト品川教会 グローリア・チャペルにて、琴音自身約1年6カ月振りとなるワンマンライヴ『琴音 Live 2023 -君に-』が開催された。厳かな雰囲気が漂う教会に作られたステージに向けて、観客は横並びの椅子に座り、彼女の登場を待っていた。
美しく教会中に響き渡るピアノのイントロから始まったのは、まるで讃美歌のように荘厳な雰囲気を持つ「優しい予感」。透明感がありながらも、しっかりと意思を感じる歌声が会場中を包み込む。次第にアコースティックギターとバイオリンの音色が重なり、幻想的な空気を作り込んでいく。
“みなさんこんにちは、琴音です。本日は会場、音楽を通して、より私を発信していけたらと思います”と言葉をひと言ひと言置くように話し、「ここにいること」へ。真っ直ぐに届いてくるメッセージを聴きとっていくと、次第に彼女と聴き手、たったふたりだけの空間にいるような感覚を覚える。それは曲の力はもちろん、その歌声に吸い寄せられるような力を持つからだろう。
続く「しののめ」でもアコースティックギターの優しい音色にそっと乗っかるような歌声が心地良く響く。会場が真っ暗になることなく、薄明りの中で行なわれるからこそ、感じるアットホーム感もすごく素敵だ。穏やかで、気持ち良くて、日々の疲れをそっと解いてくれるような歌声は、聴くほどに身体中に染みわたっていく。さらに圧倒的なスケールの歌声が広がる「ラブレター」では、物語性のある歌詞世界にどっぷりと浸らせていると、すっと会場がやわらかく明るくなり、MCタイムへ。
ドラマティックで壮大な歌声を持つ彼女のMCは、淡々と言葉を発しているが、よく聴くとどこかネガティブで、たまに自虐的で、でも希望をしっかりと抱えている。そのギャップが“面白い”のだ。ここでも前回ツアーの時は19歳で、そこから約1年6カ月が経ち今は21歳になったことから“重要な時期がすっ飛ばされた”とバッサリ(笑)。さらに、学生でなくなると友達もどんどんいなくなるんだとポツリ。会場からは笑いがあふれ、会場を和ませた。
その後はビートの効いた「君は生きてますか」を力強く届け、自らアコースティックギターを抱え演奏した「あなたのようになるために」では会場中からクラップが響き一体感が生まれると、嬉しそうな笑顔で歌う姿がとても印象的だった。続く「ライト」ではさらに会場を巻き込み、「Brand New World」ではソウルフルな歌声でお客さんたちの気持ちをさらに盛り上げ、第1部が終了。
休憩をはさみ、真っ白なジャンプスーツに着替え、髪の毛をアップにして印象を一変させると、「Love Birds」から第2部がスタート。美しい高音がすっと会場に溶けていき、また新たな空気感でライヴがスタートすると、「波と海」では青い照明が教会を包み込みまるで深海に潜り込んだかのような世界観を演出。ゾクゾクするような歌声と緊張感漂うサウンドに夢中になっていると、続く「真価論」では、自然とお客さんたちからクラップが始まり、「波と海」とはまったく違う世界観にもかかわらず、まとまりのあるつながりでお客さんを魅了した。
MCではこれまでずっと決め打ちだったフリートークも、徐々に自然と話せるようになったことを話し、お客さんのかけ声に応える場面も。その場をしっかりと楽しむ余裕を身に着けた彼女は自分の軸をひとつでも持つことが大事と話し、“音楽と出会っていなければこうはなっていなかった”と素直に話していく。共感でひとつになった会場に「戯言~ひとりごと~」を放ち、“ここからはもっと盛り上がっていただきたい!”という言葉とともに「きっと愛だ」がスタート。“一緒に歌ってください!”という声に応えるように、声出しがOKになった会場にはお客さんの歌声が響き渡り、その声を聞く彼女はとても嬉そうな笑顔を見せた。
止まらないクラップの中、「音色」で楽しそうに踊るように歌う琴音。そして、「願い」は、中学3年生の頃に作った曲だということを話し出し、当時家庭科授業の実習で保育園に行った際、親子の絆や愛を素敵だと思って作ったことを教えてくれた。そんな当たり前のように見えて、当たり前ではない、小さな絆や幸せを見出し、曲に、歌にしていく彼女はこれからもきっと素敵な、共感できる歌を作っていくことだろう。
そして、最後の曲「君に」を歌うことを話すと“え~!”の声が。その声を聞いて“ライヴの良さってこれですよね”と嬉しそうに話し、照れ隠しなのか“満足したので次の曲へ”と話すもお客さんたちから止められ、“このライヴが終わり外に出たら、みなさんも私も、いつもの日常に戻ります”と話し出し、“今日という一日が、みなさんの原動力や元気となりますように”とメッセージを残し、ラストの「君に」へ。メッセージ色の強いこの曲は、この場にいた多くの人たちの心に、間違いなく、今を生きる原動力や元気を与えたはずだ。
驚くほど早く再登場して行なわれたアンコールでは“待たせるのが嫌なんです(笑)”と話し、アコースティックギターを抱え「夢物語」を弾き語りで披露。幸せを願うこの曲を本当のラストに持ってくるのが、ものすごく彼女らしく、愛おしい。気持ち良さそうに歌う彼女の歌を、楽しみながら、噛み締めながら嬉しそうに聴き入るお客さんたちの表情がとても印象的だった。
驚くことに彼女はまだ21歳。メッセージ性の強い楽曲から、ふと小さな幸せに気づける曲まで、時にアコースティックギターを抱え、真っ直ぐに、素直に届けてくれる。きっとそれはこれからも変わらないだろう。彼女が最後に“またいつか、音楽の鳴る場所で”と締めたように、またいつか琴音の音楽が鳴る場所で、彼女の美しくて強い歌声が聴きたい。そう素直に思える素敵な一夜だった。
撮影:大川晋児/取材:吉田可奈
琴音
コトネ:新潟県長岡市出身、2002年生まれのシンガーソングライター。18年にオーディション『Eggs presents ワン!チャン!!~ビクターロック祭り2018への挑戦~』でグランプリ、テレビ朝日『今夜、誕生!音楽チャンプ』ではグランドチャンプを獲得し、19年3月にE.P.『明日へ』でメジャーデビュー。2021年には、フジテレビ系月9ドラマ『ナイト・ドクター』オリジナルナンバー「君は生きてますか」を歌唱した。
