約4年振りに開催された全国弾き語りツアー『四年想歌』は各地を巡り、5月14日に10公演目の東京・下北沢シャングリラでついにファイナルを迎えた。開演を告げるSEが流れる中、ステージに現れたカノエラナを迎えた大きな拍手。そして愛用しているギターのひとつ、ギブソンJ-45、通称“黒豆”を手にしたカノエが、最初に歌ったのは「トーキョー」。弦を力強くストロークし、軽快なビートを放ちながら歌う姿が、とにかくカッコ良くて仕方ない。多彩なニュアンスを交えながら演奏する彼女にとって、歌声の輝度を高めるためのかけがえのない相棒がギターなのだろう。“荒馬を乗りこなしながら原野を駆ける戦士のよう”――というような表現がふと頭に浮かぶくらい、その弾き語りはライヴのオープニング直後から圧倒的であった。
2曲目「ダンストゥダンス」を披露したあと、たくさんの勇者(ファンの呼称)がいるフロアーを嬉しそうに眺めたカノエは、本人も言っていたとおり、なんだか普通ではないテンション。“ニヤニヤが止まらない。ごめんね、気持ち悪くて(笑)。ファイナルなんで許して”という言葉が会場内のムードを和ませていた。そして、「グラトニック・ラヴ」「恋する地縛霊」「地縛霊に恋をした」も立て続けに披露されたが、随所で勇者と交わすコール&レスポンスの響きが気持ち良い。ライヴハウスに観客の活き活きとした声が戻ってきたことを改めて実感させられた。
今回のツアーで初めて弾き語りで披露するようになったのだという「My World」は、カノエラナそのものを歌った楽曲。その次に歌った「ヨトギバナシ」はアニメ『虚構推理 Season2』OPテーマ。アニメソングを手がけられるようになったのが嬉しくて仕方ない旨を直前のMCで語っていたが、この2曲を届ける姿からは現在の活動に対する充実感が伝わってきた。そして、全国ツアーの各地での思い出をじっくり振り返ったMCを経て、ギターをギブソンDOVE、通称“鳩子”に持ち替えると「ねぇダーリン」「あの子のダーリン」「愛でたしめでた死」を披露。ギターの温かな音色で彩られた歌声は各曲に刻まれている愛憎劇をまざまざとイメージさせてくれた。
“みなさん、もうお気づきかと思うんですけど、セットリストを最初から最後まで並べると、なんと前後で物語がつながっているんです。前の曲に出てきたことが次の歌詞に少し入っていたりするという今回のコンセプト。「ヨトギバナシ」のリリースおめでとうっていうツアーでもありますので。「ヨトギバナシ」は“物語を紡いでいく”っていう曲で、ひとりの語り部が夜な夜ないろんな世界に連れて行ってくれるっていう曲。“じゃあ、ツアーでやる曲を全部つなげようかな”と。考察をしてもらうと面白いのかなと思います”
...セットリストに施された仕かけについて説明したあと、再びギターを“黒豆”に持ち替え、「花束の幸福論」を皮切りに躍動感に満ちたサウンドで会場を明るく震わせていった。勇者の手拍子が曲に清々しいエネルギーを加えていた「心に愛論」。“手伝ってほしいことがありまして”と呼びかけて、歌声の合いの手を誘った「思春期中二話症候群」。そして、“次で最後の曲です”に対する“ええー!”という、長らくライヴの現場で聴くことができなくなっていた声を楽しんだあと、本編ラストに「秋の空またはオレンジの夕暮れ」を披露。オレンジ色のライトで染まったステージから届けられた歌声がさわやかだった。
男性の勇者による“カノエ!”に続いて、女性の勇者の“ラナ!”が続く――というアンコールを求める声に応えてステージに戻ってきたカノエは、ウィットに富んだグッズ紹介のあと、8月5日に東京・Spotify O-nestで『第85回 カノエ区 煩夜伽大会』を開催することを発表。昨年10月に行なわれた東名阪ツアー以来、約10カ月振りのバンド編成でのライヴへの意欲を滲ませていた。そして、ステージに運び込まれた黒い箱。その中には本編で披露した曲と同数の、まだやっていない曲のタイトルが書かれた紙が入っていた。無作為で引き当てた曲をアンコールの最初に歌うのが今回のツアーでの恒例だったらしい。このライヴで引き当てたのは「コンクリィとジャンゴォ」。遊び心たっぷりの表現で山手線を1周する歌詞になっているので、この曲のテーマは東京。今日の公演地は東京。本編の1曲目は「トーキョー」...という偶然の連鎖は、セットリストのコンセプトと完璧に合致する。奇跡のような選曲となったことにカノエも興奮していた。
“やっぱり物語というものはつながるんだよ。「ダンストゥダンス」も歌ったし。《円を描いて ダンストゥダンス》しちゃった(笑)。では、長い時間ありがとうございました。この曲をみんなと歌えたら、今と昔とでは全然違うんじゃないかなと思って。知らない方は、ここで覚えて帰ってください。知っている方は一緒にサビを歌っていただけると嬉しいです。次に繋がるための歌を歌わせてください”
...というMCの後に届けられたラストの曲「START」。勇者の歌声も加わると、とても幸せそうな表情を浮かべた。こうして終演を迎えた『カノエラナ 弾き語りツアー2023「四年想歌」』。記念撮影を行なったあと、何度もお辞儀をしながらステージをあとにしたカノエを力強い拍手が見送った。カノエラナの歌とギターの表現力は本当にものすごい。まだ観たことがない人には、機会を見つけて体験することをお勧めしたい。8月5日に行なわれるバンド編成でのライヴも、素敵な空間が生み出されることになるだろう。
撮影:エドソウタ/取材:田中 大
カノエラナ
1995年12月4日生まれ、佐賀県出身シンガーソングライター。無類のアニメ好きで多くのアニメ作品から影響を受け、独特な着眼点から生まれる歌詞や世界観に合わせて色とりどりに変化する歌声と歌唱力で同世代を中心としたZ世代から圧倒的な支持を集めている。