ビジュアルロック界に突如として現れた突然変異種バンド、THE MADNA。2021年12月のバンド結成から活動期間はまだ1年半にも満たないながら、すでにEP2作とシングル3作をリリースし、ミクスチャーロックを主軸としつつも枠にとらわれないフリースタイルなスタンスと存在感で大いにシーンを揺るがしている彼らが4月29日、東京・原宿RUIDOにてワンマンツアー『THE MADNA sweet dream TOUR’23 in a sweet dreams』のファイナルを迎えた。4月5日にリリースされた3rdシングル「sweet dream」のレコ発として開催、4月8日の広島公演をスタートに約1カ月間、各地で熱いライヴを展開してきた今ツアー。そのゴールとなった東京公演はまさに旅の集大成と呼ぶに相応しい狂熱のステージだった。
ゴールデンウィーク初日とあって会場が位置する原宿・竹下通りはいつにも増して混み合っていたが、場内にはそれに輪をかけた熱が渦巻いて、詰めかけたファンたちの尋常ならざる期待がひしと伝わってくる。長らく続いたコロナ禍の規制もここにきてようやく緩和され、ライヴハウスでもフルキャパシティーでのライヴが認められ、マスク着用は求められるものの客席での発声が解禁されたとあれば開演前から早くもピークに達してしまいそうな高揚ぶりも至極当然と言えるだろう。きっとバックステージに控えるTHE MADNAのメンバーだって同様に違いない。
“さぁ、声を聞かせてくれよ、東京”
あふれんばかりの気迫を纏って登場した4人、涼太(Vo)が開口一番、そう囁くや、バンドもオーディエンスもたちまち理性のたがを外し、瞬く間に原宿RUIDOは狂騒の坩堝と化した。「東京BAD STREET KING」が醸し出す横ノリの洒脱なグルーブでフロアーを掻き回したかと思えば、続く「蠢」ではとことんヘヴィにそのサウンドを突きつけ、さらに「GiANT KiLLiNG」でラウドに攻め込んで、オーディエンスに息つく隙も与えない。オーディエンスはオーディエンスで4人が渾身のエネルギーで叩きつけてくる音の塊を真っ向から受け止め、ハンドクラップにヘッドバングとこれまた全力で応戦。互いに本気をぶつけ合う激しくもハイテンションな求愛行動、これぞTHE MADNAの正しき逢瀬のあり方なのだろう。コロナ禍の真っ只中に結成されたバンドゆえ、ここまでなかなか叶わなかった生身と生身のやり取りを、ステージもフロアも一緒になって心底楽しんでいる光景はこの上なく美しい。
今回、「sweet dream」リリースのタイミングではモノトーンの衣装に身を包み、これまでのポップでカラフルなイメージを覆す、シックかつアダルトな色香を漂わせた佇まいへとキービジュアルを変更し、ファンやリスナーの度肝を抜いた彼らだが、そうした変化を恐れず、むしろ現状維持を良しとしない突き抜けてアグレッシブなアティテュードはライヴにおいてはいっそう顕著。端正な疾走感を湛えた「ビューティフルワールド」から煌めくポップチューン「8mmBOMB」、「sweet dream」のカップリング(Type-B収録)にして洗練されたアーバンな音像がバンドの底知れないポテンシャルをひときわ印象づけた「東京lonely girl」を立て続けに投下、極端に振り幅の広い音楽性でオーディエンスを翻弄し、クルクルと変わるその表情で魅了して離さない。理緒(Dr)が刻む精緻なビートと朋(Ba)の生み出すダイナミックなうねりとのコントラスト、太嘉志(Gu)による情感豊かで華のあるギターと涼太のどこか挑発的でいて憂いも切なさも秘めた歌声とのエモーショナルな相乗はTHE MADNAでなければ構築できない世界をありありと描き出して観る者を誘い、虜にしては二度と出られなくしてしまうのだ。
“今回、「sweet dream」のツアーということで、夢の世界にみんなを連れて行こうという気持ちでツアータイトルをつけました。でも、“夢”なんてそんなぼんやりしたものじゃない、めちゃめちゃアツくて、リアルなライヴが毎回やれていて。今日はもうここで死んでもいいって思えるくらい、この一瞬で弾け飛びたいってくらいの気持ちでやっていくから最後までつき合ってくれよな”
折り返しに差し掛かって涼太がそう語りかけ、突入したのは「sweet dream」。キラキラとした打ち込みのトラックとエッジの鋭いバンドアンサンブルとが一体となって聴き手に迫る破壊力、刹那的かつ初期衝動的な、けれど永遠の願いを込めて放たれる《おまえらのリアルを》というフレーズが生々しく刺さる。歌詞には《君のリアルを》と綴られているが、ライヴという現場でどうしようもなくあふれ出た“おまえら”に途轍もない愛情と信頼を感じると同時に、THE MADNAを駆り立てる原動力はこの“リアル”に他ならないのだとつくづく知らされた。瞬間でいい、嘘もごまかしもない、“おまえら”と彼らだけのリアルを求めて4人はここまで走ってきて、これからも走り続けていくのだろう。
この日のMCでは涼太と原宿との関係を告白するひと幕もあった。曰く“俺の東京での暮らしは竹下通りから始まった”。地元からただ漠然とバンドを組みたい一心で上京し、当時まだビジュアル色を強く残していた原宿のアパレルショップで働けば何かしら道が開けるはずだと竹下通りでバイトを始めたものの、実はその店はビジュアル系ではなくゴリゴリのパンクをコンセプトにしていたこと、ある日、近所のビジュアル系ショップの社長から“君、絶対そこにいる子じゃないでしょ!”と引き抜かれ、そこから今につながる人生が始まったことをユーモアたっぷりに語り、“でも、その十何年か後に原宿のライヴハウスでこんなふうにマイクを握って大勢の前で歌ってるとは思っていなかった。本当にありがとう”と改めて目の前のファンに感謝を告げた涼太。さらに彼は“バンドを組む夢は叶ったけど、人は欲深いもので叶えた先の夢をまた抱き始めるんだよ。もっとでかいところでライヴしたいとか、いろんな人に知ってほしいとか。俺もいろんな夢を抱いたけど、これが俺の最後の夢です”ともきっぱり言い切った。“これ”とはもちろんTHE MADNAのことだ。
“これ以上はないと思ってる。ていうか、これ以外はもうしたくない。これが最後の、この4人の男たちの夢なんだよ。だからみんなもこの夢に付き合ってよ。最高にイカれてて最高にイカした夢を一緒に見よう。ただ見るんじゃなくて一緒に作りにいこうぜ!”
そんな言葉とともになだれ込んだ後半戦はもはや怒涛の一語に尽きた。“飛んでこいや!”と涼太が煽ればステージめがけてオーディエンスが突進し、涼太もまたそれを歌いながら全身で受け止め...とガチのバトルが何度も繰り広げられ、そのたびにステージとフロアーの絆もますます深まっていく。ラストは昨年11月リリースの2ndシングル「CREAM SODA」。原宿をモチーフにして紡がれた歌詞も印象的なTHE MADNA流ミクスチャーロックの真骨頂だ。時代や流行に抗ってでも好きなものを好きでい続けると誓う、実にTHE MADNAらしいこの曲がツアーファイナル、しかも原宿という街のど真ん中で鳴っている事実にもグッと胸がアツくなる。太嘉志のギターソロに“おまえは最高のギターだ!”と叫び、続けて“最高のドラム!”“最高のベース!”と理緒、朋と順番に視線を移して口にする涼太のなんと誇らしそうなことか。そうして最後は“おまえらは最高だ! おまえらは俺らの宝物だからな! ずっと離れんじゃねぇぞ!”と客席にも呼びかけ、最強の一体感の中でライヴは終幕した。
去り際には、現在フルアルバムの制作に取りかかっていることを明かし、“無事に完成したらまた全国を回るから。期待して待っていて”と嬉しい約束も。それにツアーは終わってもイベントや対バンなど目白押し、まるで立ち止まる気配がない。果たして次はどんな彼らに出会えるのか? 期待はますます募るばかりだ。
取材:本間夕子
THE MADNA
マドンナ:2021年12月にデビューEP『Beautiful Inferno』を発表。メンバーの狂った遺伝子が混ざり合った予測不能なサウンドで、最後まで飽きさせない無限の可能性を秘めた傑作となった。22年11月に2ndシングル「CREAM SODA」を発表し、結成1周年ワンマンツアー『THE MADNA CREAM SODA TOUR「チェリーボゥイ&チェリーガァル」』を開催。23年4月に3rd シングル「sweet dream」をリリースする。