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LIVE REPORT

鈴木このみ ライヴレポート

【鈴木このみ ライヴレポート】 『Voice of Symphonic Vol.1 「鈴木このみ コンサート ~Special Symphony~」』 2023年4月8日 at 恵比寿THE GARDEN HALL

2023年04月08日
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まずは彼女の意欲、チャレンジ精神を称えたい。エレキギターやシンセサイザーを用いたバンド編成ではなく、弦楽器と管楽器を中心とした生音での演奏で歌うというのは、なかなか勇気がいるものだと思う。そう言うと、“バックがどうあれ歌は一緒でしょ?”とお思いの方もいらっしゃるだろう。これがだいぶ違う。この日それを目の当たりにした。音圧がまったく別物なのだ。バンド編成の音は直線的だ。全ての音が固まりになってステージから客席に向かってくる。それに対して、この日の編成はサウンドがフワッとステージ上から四方八方に広がっていくような感じ。音に奥行きがあるという言い方でもいいだろうか。歌はそこに乗っているだけではなく、ストレートにオーディエンスに向かっていくような印象があった。つまり、歌のフォルムがくっきり、はっきりとするような感覚があるのだ。アカペラに近い...と言いたいところが、それともちょっと違う。“アカペラ=無伴奏声楽”は文字どおり伴奏がないので、独唱の場合、その歌声以外に音がない。比較対象がないので、極端に言えば、その歌の音程、音階がどうあっても問題はないのである。だが、今回のようなスタイルでは、歌の背後に和音があるので、それとずれたりすると、聴き手に違和感を与えてしまうことになる。しかも、演奏がフワッとしているぶん、歌と位相差があって、(この言い方でいいかどうか迷うけれど)ごまかしは効かないと思う。かなり歌い手を選ぶ編成と言える。想像するに、勢いで迫るロック系のヴォーカリストは、たぶんこういうスタイルが苦手な方も少なくはないだろう。その観点で言うと、この編成でのコンサートを開催することを決意した鈴木このみは、アーティストとして相当にタフになってきたということは言えそうだ。ファンのみなさんはご存じのとおり、昨年9月、『ANISAMA SYMPHONIC NIGHT 2022 hosted by 京まふ&Ani Love KYOTO』に出演しているので、このスタイルは今回が初めてではない。しかしながら、あの時は単独での歌唱は4曲だったのに対し、今回はアンコールを含めて16曲と、4倍のボリュームである。ノリでやれるものではなかろう。その昨年の京都で確かな感触を得たからこその今回だったのだろうが、それにしても、肝の据わったものだと思う。さすがに10年選手。15歳から築き上げてきたシンガーのキャリアは伊達じゃないのだ。

オープニングのM1「AVENGE WORLD」にしても、続くM2「真聖輝のメタモルフォシス」にしても、音源ではストリングスが結構な分量あしらわれているので、原曲をよく知る人なら、“今回の編成でも受け手の感触はあまり変わらないのでは?”と思うかもしれない。だが、はっきりと違う。劇的な変化と言っていいと思う。前述したように、サウンドが歌よりも前に出ない。電気を通した楽器が減るだけでこれほどに印象が変わるのかと、冒頭からこのコンサートの意義のようなものを感じられた。その印象は後半まで変わることなく、M11「歌えばそこに君がいるから」やM12「蒼の彼方」にしてもそうで、“俗っぽくない”と言うと語弊があるかもしれないが、“Special=特別感”は申し分なかったと言える。歌がサウンドから独立して聴こえるぶん、発見もあった。鈴木このみの歌唱力の高さは今さら言うまでもないが、やはりそのクオリティーの確かさはこれまで以上に際立って聴こえたのは間違いない。聴きどころはいくつもあったけれど、個人的にはM3「THERE IS A REASON」がとても良かった。楽曲後半の転調する箇所。音程といい伸びといい、実に迫力があった。コンサートの出だしであったので、いわゆる“掴み”としては完璧だったと言っていい。

また、彼女のシアトリカルなヴォイスパフォーマンスの確かさを感じ取れたのも、この日の収穫だったと思う。歌の細かなニュアンスまでも確認でき、表現力の高さがはっきりと感じられた。とりわけM8「残像未来」とM13「PROUD STARS」が良かった。M8は音源ではオルタナティブロックとでも言うべき代物で、全面にフィーチャーされたエレキギターの密集感が楽曲のポイントでもある。今回そのギターがまったくないのだから音像は相当に異なる。今回のセットリストではその変貌っぷりが最も高かったのはM8かもしれない。でも、だからこそ、歌がより印象に残ったというか、歌にフォーカスが当たったように思うし、そこが圧倒的に聴きどころではあった。M13に関して言えば、もともとこの曲はピアノとストリングス中心であって、アレンジ自体は大きく変わってないように思われたかもしれないが、ビートが抑えめになったことで、楽曲全体が洗練されていたように思う。上品になったと言ってもいいだろう。マイナー調の歌のメロディーが強調されたようにも思うし、より感情も込められているようにも思えた。《また争うこと戦うこと 繰り返すのだろう》といった歌詞も、時節がらメッセージ性が浮き彫りになった感もあり、それは彼女の歌の説得力によるところが大きかったはずだ。その他、音源を忠実に再現したようなM9「思い遣り」もなかなか聴きどころがあったことと付記させてもらう。

彼女自身も語っていたように、この日はこれまでのようなライヴではなく、コンサートであり、その会場全体の空気感の違いは傍から見てても興味深かった。椅子席ではあったけれど、“立たないでください”という忠告があったわけではないので、“どこかでオーディエンスは立ち上がるんだろうな”と思っていたら、そんなことはなかった(少なくとも自分が拝見した昼公演はそうでした)。また、マスクした上での声出しもOKになっていたけれど、MCでの声援は多少あっても、演奏中のシンガロングはまったく言っていいほどなかった。手拍子はあるにはあったが、自然発生的に...というよりは、ステージ上から促されたクラップがほとんどだったと思う。純粋にその場で繰り広げられる歌と演奏を只々楽しむ。そういう音楽体験もあっていい。こんなコンサートを経験すると、声を出して騒げるライヴも楽しみになるし、ライヴで騒いだあとは、また落ち着いてコンサートを聴きたいという、好循環が出来上がるのではなかろうか。その意味で、今回の『Voice of Symphonic Vol.1「鈴木このみ コンサート~Special Symphony~」』は鈴木このみというアーティストのステップアップであったと同時に、鈴木このみファンも新たな音楽の楽しみ方を獲得した一日だったと言えるではないかと思う。

撮影:小林弘輔/取材:帆苅智之

鈴木このみ

スズキコノミ:1996年11月5日生まれ、大阪府出身。11年に『第5回全日本アニソングランプリ』決勝大会でグランプリを獲得し、翌12年に「CHOIR JAIL」で15歳でデ ビュー。TVアニメ『ノーゲーム・ノーライフ』オープニングテーマ 「This game」、TVアニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』オープニングテーマ「Redo」など多くのTVアニメ主題歌を担当。TVアニメ『LOST SONG』では田村ゆかりとW主演声優を務め、オー プニング主題歌「歌えばそこに君がいるから」も歌唱。16年より4年連続でアジアツアーを行なっており、上海、シンセン、香港、台湾、フィリピンにてワンマンライヴを開催。20年には夏クール放送のTVアニメ『デカダンス』のオープニングテーマ「Theater of Life」、TVアニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』2nd seasonオープニングテーマ「Realize」、TVアニメ『恋とプロデューサー~EVOL×LOVE~』のエンディングテーマ「舞い降りてきた雪」のトリプルタイアップを獲得し、初のシングル3カ月連続リリースを行なった。

SET LIST

試聴はライブ音源ではありません。

  1. 2

    02. 真聖輝(ひかり)のメタモルフォシス

  2. 5

    05. Tears BREAKER with violin

  3. 6

    06. 春を告げる(yamaのカバー)

  4. 9

    10. TVアニメ『LOST SONG』キャラクターソングメドレー

  5. 10

    想いの翼

  6. 11

    〜大地に抱かれ

  7. 12

    〜風の理

  8. 13

    〜癒やしの歌

  9. 18

    <ENCORE>

  10. 19

    01. Love is MY RAIL -running start-