パリ生まれ、南アフリカのケープタウン育ちの姉妹バンド・The Soap Girlsが、初来日にもかかわらず、ニューアルバム『IN MY SKIN』を引っ提げて全11公演のジャパンツアーを開催中だ。ここでは9月25日に行なわれた初日の東京・渋谷WOMBの模様をレポートする。
オープニングアクトにはThe Soap Girlsのレーベルメイトでもあるtokyo honey trapが登場。ガレージサウンドと妖艶なアクトでムードを高める。
本ツアーはファイナル公演以外は全て対バン形式で、がっつり互いに70分のステージが告知されているだけに、対バンのファンもかなり結集しているようだ。初日は事前に対談も行なったGacharic Spin(以下、ガチャピン)。海外ツアーで揉まれてきたという意味では先輩だと言える。冒頭からペース配分お構いなしに激しくアクションするアンジェリーナ1/3(マイクパフォーマー)を筆頭に、個性の異なる6人がラウドロックからJ-POPフィールのあるナンバーまで多彩に展開する力量にフロアーも全力で応える。「リバースサイコロジー」ではThe Soap Girlsもステージに上がり、ガチャピンのメンバーが緊張をほぐす懐の深さも見せた。
いよいよ主役の登場!...に先駆けて、ジャパンツアーでドラムを務める淳士が気合いの入った上裸スタイルでソロを叩く。自ずと盛り上がるフロアー。そこに意外と言ってはなんだが、静々とステージに上がるミリー(Vo&Ba)とミー(Vo&Gu)。ガチャピンとのコラボステージで着ていたタイトなチューブワンピから着替えて、彼女たちの戦闘服と言えるブラとパンツ姿だ。各々楽器を担ぐと、アルバム『IN MY SKIN』からシンプルなリフで引っ張る「Wasted」からスタート。2曲目の「Johnny rotten」(!)ではミリーがヒールを履いた不安定な状態でブリッジしながらベースを弾いたり、ベースに足をかけながら歌ったりと、暴れるのではなく、独自の身体表現に驚かされる。
楽曲は基本的に重めの8ビートで、グランジ色が濃い曲が多く、「She don‘t wanna」には初期Sonic Youthのような印象も。シンプルな3ピースだけに淳士のハードヒッティングかつ確かなドラムが完全に軸になっているものの、ミリーのベースがヴォーカルとともにメロディーラインの印象を決定づけていたり、ほぼ細かいカッティングに終始するミーのギターも音自体のザラついた感触で、バンドカラーを象徴していた。ユニークなのが2〜3曲ごとに挟まれる日本語のMC。言いたいことを訳してもらい、ローマ字で書いたカンペを何枚も用意していたのが本気で伝えたい気持ちを表していた。
アルバムのタイトルチューン「In My Skin」は“私の本当”と訳されていて、歌詞の内容は支配的な社会を自覚しているがゆえに、どこまでも自分を試そうとする普通の女の子の姿だ。この曲の冒頭でミーは淳士を指して、“彼が上着を着ていないのは暑いからで、私が脱ぐことも咎められることじゃないんじゃない?”という意味のことを日本語で話した。ごく普通に“暑いから脱ぐわ”という感じで、ブラトップを脱いだ彼女の一連の行動はあまりにも自然に映り、特に女性だから性的搾取をしないでほしいというベクトルとも少し違っていたと思う。ありのままに、自然に、やりたいことをやる。イノセントでピュアな印象すら増幅させたふたりは、後半でヘヴィな「Demons」や、ヴォーカルにエフェクトをかけたり、デス声でシャウトしたり、曲が表現したいことに忠実にパフォームしていった。ミリーは何度かフロアーに降り、オーディエンスと近い距離でコミュニケーションを図るなど、全編で本気を見せつける。本編ラストはアルバムの中でもラブソングとエールソングのどちらのニュアンスも持つ「Breathe」で、いいメロディーを持ったインディポップバンドとしての個性も垣間見せてくれたことも、The Soap Girlsの可能性を感じた瞬間だった。アンコールを含め、全17曲。若干、色眼鏡で見ていた自分の意識がものの見事に壊された爽快な70分になった。
日本ではまだ無名なふたりが身体と精神でオーディエンスと対峙するこのツアー。少しでも気になった人は残りの公演をチェックしてほしい。
撮影:小林ばく(c)/取材:石角友香
The Soap Girls
ザ・ソープガールズ:姉のミリー(Vo&Ba)と妹のミー(Vo&Gu)による姉妹パンクバンド。パリ生まれ、南アフリカ・ケープタウンから飛び出した彼女たちは、12歳でアイドルデビューしたものの、突如パンクロックに覚醒。180日間に渡る過酷なツアーもへっちゃらで、ガールパワー満載のパンクロックデュオとなった。2022年9月より、アルバム『私の本当 / IN MY SKIN』を引っ提げた初来日ツアーを開催!