シンガーソングライターのゆいにしおが7月1日、東京・渋谷WWWでワンマン公演『ゆいにしお Birthday Oneman "Our Wonderland"』を行なった。そのタイトルにもあるように、2日後に誕生日を控えた彼女のアニバーサリーライヴであり、最新曲「ワンダーランドはすぐそばに」のリリースを受けてのワンマンでもあったのだが、この日はなんとメジャーデビュー決定という嬉しい報告も。ここからさらにみんなで音楽を、そして日々を楽しんでいこうーーそんなポジティブでハッピーな空気に包まれた、スペシャルな一夜となった。
開演のムードを盛り上げるバンドメンバーのセッションがスタートし、客席が心地良く揺れ始めたところでゆいにしおが登場。大きな歩幅で元気良く、笑顔で手を振りながら彼女がセンターに立つと、ステージが一気に明るくなった。1曲目は「Drink, Pray, Love!」。彼女が作り出す音楽はいわゆる現代の渋谷系やシティポップといったジャンルで認識され人気も獲得しているが、ライヴではそこにもっとポップでしっかりロックな一面もプラスされていて、ヘッドフォンの中の世界を超えるさらなる魅力に一瞬で引き込まれていった。エレキギターをハンドマイクに持ち替え、この季節にぴったりな「pool mood」と塩を撒く振り付けがユニークな「塩」を続けて披露。透明感と力強さが同居したヴォーカルからも、ライヴならではの熱をしっかり感じることができた。
“ゆいにしおのワンダーランド、『Our Wonderland』へようこそ! 今日は憧れだった渋谷WWWでバースデーワンマンを行なうことができてとっても嬉しいです。最後まで楽しんでいってください!”
喜びいっぱいの表情で短く挨拶をし、ここからはアコギでのパフォーマンス。感情を爆発させたような歌声が印象的だった「フレンド」から「Unlucky Girl」、そして「帰路」と続いたこのゾーンでは、実際に歌詞にも出てくるこの会場周辺やどこかの街のあちこちで、今夜も繰り広げられているであろうシチュエーションが描かれていく。終電間際のありふれた景色や何気なくつないだ手のそのあとなど、街灯が照らし出す小さなドラマはどれも切なくて愛おしい。その瞬間の空気や主人公の目線みたいなところまで感じ取れるゆいにしおの歌詞は、切り口も紡ぎ方も素晴らしく絶妙であることを改めて痛感させられた3曲だった。
ライヴ中盤ではピアノで1曲とアコギで2曲を弾き語り。曲間のMCでも言っていたが、今私たちが音源として愛聴しているゆいにしおの楽曲にはアレンジの工程でもともとのコードを微調整したものもあるらしく、今回は作った時のニュアンスも楽しんでもらえたらという意図も込めての弾き語りだったようだ。シンプルな音だからこそ浮き彫りになるメロディーラインの美しさと、少しだけほろ苦さを含んだ歌声が真っ直ぐ胸に響いてくる。飾らないプライベート感に寄せるのではなく、自分の色、自分の芯をしっかりと打ち出した彼女の弾き語りはとても説得力のあるものだった。
バンドメンバーがステージに戻り、タイトルどおりの美味しいキーワードが並んでいるけどちょっぴり切ない「町中華」から後半戦がスタート。人気曲「マスカラ」は前半をピアノと歌でじっくりと歌い上げるスペシャルアレンジになっていて、この楽曲が持っている魅力的な表情をまたひとつ引き出していた。和やかなトークを挟みながらバンドメンバーを紹介し、「スカイツリー」「DAITAI」など客席を巻き込みながら盛り上がるポップな楽曲を続けて披露。マスクをしていてもきっと、ステージからはみんなの笑顔がはっきりと分かったはずだ。
本編最後のMCでは音楽活動を始めた頃から現在に至るまでを振り返る。3年前に「角部屋シティ」というかけがえのない作品をリリースし、いろんな人が聴いてくれたこと。と同時に、もっともっとたくさんの人に届けたいのにというもどかしい気持ちがあったこと。それでも、宝物のような存在であるみんなの存在が制作の意欲につながっていたことーー。正直な気持ちを丁寧に伝え、ついにこの秋、日本コロムビアからメジャーデビューすることが決まったと発表した。“この3年、長いようで短くて、短いようで長かった。今まで本当にいい曲を作ってきたんだから、絶対に届けたいという気持ちが自分にもスタッフにもあった。それが叶ったかたちだと思う”と、この日一番の笑顔を輝かせる。そして、“メジャーデビューといっても入口に立っただけ。不安もあるけど、私たちとみなさんがいる場所こそがワンダーランド。これからもっと素敵な場所に連れて行きたいと思っているので、みなさんの内側から生まれたラヴをちょっと分けてもらって、これからも応援してくれると嬉しいです!”と言葉を続けると、会場からはさらに大きな拍手が寄せられていた。ドラマ主題歌としても話題の「ワンダーランドはすぐそばに」、そして「息を吸う ここで吸う 生きてく」とライヴハウス以外の場所でも多くの人の耳と心をキャッチしてきた2曲を最高の笑顔とともに披露し、本編は終了した。
アンコールではなんと、日本コロムビアのはっぴを着て登場したゆいにしお。1ミリの迷いもなく袖を通したであろうその姿は本当によく似合っていて(笑)、写真撮影のための決めポーズもばっちりだ。いくつかの幸せなお知らせを伝え、バンドメンバーを呼び込んだところでバースデーケーキのサプライズ! 2日後に迎える彼女の誕生日、そしておそらく、メジャーデビューという次なるフェーズを迎える新たな『ゆいにしお』を祝うケーキでもあったのではないだろうか。その後に披露された「tasty tasks」もそうだが、日々のいろんな食べ物と一緒に刻まれた素敵な瞬間を、彼女にはこれからもどんどん歌っていってほしいと思う。味覚の秋に届けられるゆいにしお初のフルアルバム『tasty city』、さらにリリース記念のワンマンツアーが早くも楽しみだ。
撮影:ひの/取材:山田邦子
ゆいにしお
ゆいにしお:透明感の中にも深みのある声と、心地良いメロディーが持ち味のシンガーソングライター。2016年から愛知県にて弾き語りで活動をスタート。18年に開催された日本コロムビア主催『半熟オーディション supported by Eggs』でグランプリを獲得。19年5月に自身初の全国流通盤である1st ミニアルバム『角部屋シティ』をリリースし、20年9月には2ndミニアルバム『She is Feelin’ Good』の発表で活動の幅を全国に広げた。22年11月に3rdミニアルバム『うつくしい日々』をリリース。