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LIVE REPORT

JYOCHO ライヴレポート

【JYOCHO ライヴレポート】 『JYOCHO presents “Machiya Extra Session”』 2021年8月29日 at WALL&WALL

2021年08月29日
@WALL&WALL

京都発のバンド、JYOCHOが8月29日に東京・青山にあるイベントスペースのWALL&WALLでアコースティックワンマンライヴ『Machiya Extra Session』を開催した。

もともとは今年5月に大阪と東京の2カ所での実施が予定されていたが、現在の先行き不透明な状況を受け、複数会場での開催を断念。このたび東京のみ、二部制という形式で振替公演が行なわれることになった。WALL&WALLに足を運べないリスナーへの対応策として、当日は有観客だけでなくオンラインで生配信も実施。世界各国に向けてライヴの映像が届けられ、日本以外にも、インド、ポーランド、イギリス、カナダ、香港、台湾など、多数の国からファンが視聴に訪れた。本稿では第2部公演の模様をレポートする。

さまざまな種類のランプや観葉植物、パーソナルチェアなど温かな装飾で彩られたステージに、白を基調とした衣装を纏ったメンバーが登場。コンクリート打ちっぱなしの隠れ家的な空間には、アコースティックセッションに相応しい、演者も観客も着席でゆったりと楽しめる雰囲気が漂っている。そして、「Lucky Mother」でライヴがスタートすると、一音一音が本当に存在感のあるだいじろー(Gu&Cho)のアコギをはじめ、猫田ねたこ(Vo&Key)の耳をやさしく撫でるような柔らかな歌声に心地良い鍵盤、はち(Fl)が奏でる華やかで優雅なフルート、全体をしっかり支えながらも遊び心のあるsindee(Ba)とhatch(Dr)のリズムが、あっと言う間に辺りを情緒感のある色に染め上げていく。

続く「pure circle」のイントロで、“こんばんは、JYOCHOです。今日はお越しくださってありがとうございます。アコースティックワンマン、ぜひ最後まで楽しんでいってください。よろしくお願いします!”と猫田が挨拶。メンバーに導かれて客席から手拍子が生まれる一体感、曲調に合わせて回転したり明滅したりする光の演出がたまらなく素敵で、ステージ上の5人にも自然と笑みがこぼれる。だいじろーのタッピング奏法などテクニカルなプレイも冴え、マスロックやプログレッシブロックを思わせるサウンドが鮮やかに拡がったりと、序盤にして見惚れてしまうポイントが多すぎるくらいだ。

約一年半振りのライヴだというJYOCHO。それだけに最初のMCタイムでは、“すごいねー。2ステージ目やのに、1回目のテンションでいけるね!”(sindee)、“さっきも言ってたじゃないですか。楽しすぎて、何回でもやれるねって”(猫田)と、メンバーも一段と楽しそうな様子を見せていた。

“私たち今年の春から『Machiya Session』っていう動画をYouTubeにアップしてきたんですけど、そのセッションが映像から飛び出した生演奏を楽しんでいただけたらと思います”と話す猫田の言葉どおり、「Lucky Mother」「pure circle」に続いて、『Machiya Session』シリーズとして公開しているナンバーをこの日はたっぷりと披露。「hills」ではミラーボールが場内をプラネタリウムのような空間に変え、バンドの繊細なアンサンブルをさらに崇高なものにしてみせる。光がきらめく中でのパフォーマンスに、思わずうっとりしてしまったファンも多かったに違いない。

猫田によると、会場の素敵な舞台装飾は“JYOCHOの部屋”がテーマとのこと。そんな居心地の良い空間ゆえか、日本を含め世界各国で観ている配信のお客さんに向けてメンバー全員で“ハロー!”と呼びかけたりしながら、リラックスしたムードで和ませてくれる。

切ないギターリフを軸に展開していく「遠回りのアイデア」、だいじろーがパッド操作もしてアクセントをつけた「わたしは死んだ」、《すべてに意味があるのならば 受け入れること知るだろう》という歌詞に想像が膨らむ「美しい終末サイクル」とつなぐ中盤のブロックは、哲学的なリリックや変拍子を多用した複雑なリズム、胸躍るフレーズ、行き届いた構築美など、穏やかで温かい面とほの暗くひんやりとした面を併せ持つJYOCHOの世界観により没入できる時間となった。中でも、緩急の効いたアレンジで約7分にわたってそのすごみをじっくり味わえた「こわかった」は白眉。また、猫田の透明感あふれるヴォーカルにだいじろーのコーラスが重なる、ふたりのハーモニーの美しさにもますます磨きがかかったように思う。

“いやいや、楽しいですなぁ”(猫田)、“そのさぁ、1部からたまに出てた口調なんなの?”(だいじろー)、“ですなぁキャラ、なんなん?”(sindee)と、演奏が終わればガラッとくだけた雰囲気になるメンバー。緩い感じのまま、猫田が“筋肉が見える馬が苦手”という話題に脱線したかと思えば、“しばらくライヴができていなかったこの一年半、SNSでファンが寄せてくれたコメントにすごく励まされた”と真面目に胸の内を語るシーンも。

先日オフィシャルサイトなどでアナウンスされたとおり、本公演をもってドラムスのhatchが脱退するのだが、しんみりした感じは出さず、時間が押してしまうほどに楽しくしゃべって、最後まで和気あいあいとしているのも彼ららしい。リーダーのだいじろーは“カナダツアーから僕たちは始まりました。初ライヴがカナダ。めっちゃクレイジーですよね。住んでる場所もバラバラで練習もあまりできなくて大変だった時期もあったけど、hatchくんはそんなバンドを支えてくれたメンバーで。変わらず仲はすごくいいし、どんな決断であれ、そこに善悪はないと思ってるので、これからもJYOCHOとhatchくんを応援していただけたら嬉しいです。hatchくん、ありがとう!”と話し、hatchも“愉快で大好きなバンドです。みんなのおかげで見せていただいたいろんな景色を、今後の糧にします。本当にありがとうございました”と返した。

そして、クライマックスはだいじろーのタッピングを中心に颯爽と駆け抜けた「つづくいのち」。“大変なご時世に突入してしまいましたが、JYOCHOとしてできることを日々考えてます。この困難をみんなで乗り越えていけたら、その先に素敵な未来が待っていると僕は信じてるので、一緒に頑張っていきましょう”というだいじろーの言葉に続けて、ライヴ初披露となる最新曲「光あつめておいでよ」で本編を締め括った。

アンコールでは、書き下ろしの新曲「みんなおなじ」が10月6日より放送開始となるTVアニメ『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』のエンディングテーマに決まったという嬉しいお知らせも。だいじろー曰く“今の自分が書きたい、みんなの歌になりました。アコースティックでやさしくて温かみのある音色に仕上がったと思っています”とのことなので、聴けるのを楽しみにしておこう。

『Machiya Session』シリーズの集大成となるライヴ。最後は“これぞJYOCHO!”というアンサンブルが際立つ、バンドとhatchの新たな旅立ちを祝うような代表曲「family」で大団円を迎えた。

撮影:上原俊/取材:田山雄士

JYOCHO

ジョウチョ:2015年3月に解散した宇宙コンビニのリーダー“だいじろー”のソロプロジェクト。プログレッシブ~ポップスなどさまざまなジャンルを通過した音楽性に、テクニカルなトラック、温かみ、激情をふんだんに盛り込んだ、まさに情緒感たっぷりな、JYOCHOにしかできない独自の世界観を構築する。