東名阪での実施を予定していたものの、残念ながら大阪公演が府の外出自粛要請により中止となり、2公演のラストである東京。だが、久しぶりに観客と対面する喜び、そして今、坂本真綾への楽曲提供のみならず、演奏でも参加した「躍動」への注目なども相まって、配信ライヴのモニターの先へも率直にバンドの熱量を届けるスタンスが確認できた夜になった。
11月18日にリリースしたEP『BE ALL LIE』のオープニング曲「心の在り処」をMIXしたSEが流れる中、バンドイン。前作EP『ES』(2019年11月発表)と相関関係にある2作をどうライヴで立体化していくのかと想像を膨らませたが、意外なことに1曲目はEP『Shift』(2018年11月発表)からの「日々、月を見る」。古閑翔平(Gu)が書いてきた歌詞の世界観はずっと“あるふたり”の距離や状態であり、相手のことを思うからこそざわめく自分の心情だ。今の4人の演奏力、表現力でこれまで発表してきた楽曲がまるで脳内のシナプスのようにつながる感覚を得た。バックライトを効果的に使い、着席したオーディエンスが演奏と黒川侑司の歌により没入できる演出も美しい。大きなグルーブを持つミディアムテンポのユアネスらしさの最新形を「ヘリオトロープ」で完遂し、淡々と黙々と演奏に集中する姿勢も堂に入ったように感じた。
また、彼らの複雑な変拍子やマスロック的な音楽性の尖った部分を改めて今の力量で畳みかけた「あの子が横に座る」から、新作のタイトルチューン「BE ALL LIE」に至るブロックは強烈な印象を残した。ジャンルありきではなく、イマジネーションに基づく曲構成の巧みさ、そして緻密さとダイナミズムを併せ持つ演奏。黒川の歌のうまさはもとより、演奏の巧妙さに嫌味がない理由は、ひとつひとつのフレージングの必然性や彼らの誠実なキャラクターに裏づけられているのだとはっきり認識した。中でも、クワイヤ的なコーラス、田中雄大(Ba)がシンセベースと生ベースを効果的に使い分けてブラッシュアップされた「CAPSLOCK」、メンバー自身も演奏に震え上がるという「BE ALL LIE」の張り詰めた緊張感は特に印象に残った。小野貴寛も単に手数が多いというより、ドラムでも音を差し込んでくる。ひとつ階段を踏み外したら瓦解してしまいそうな展開を、4人で呼吸を合わせて一個の構造物へ昇華した感じだ。
そして、エレクトリックバンドスタイルを11曲目の「pop」でいったん終わらせ、黒川が兼ねてから“自分ひとりじゃなくバンドでやってみたかった”というアコースティックアレンジを本編の最後に配置。音源ではピアノ伴奏だった「二人静」は黒川のアコギ弾き語りで、温かみを感じるアレンジに。アップライトベースとカホン、ウィンドチャイムとタンバリンで演奏した「凩」はまさにこの季節の風を体感させる。オーディエンスに裏拍のハンドクラップを求めて演奏した「100m2の中で」は、オリジナルの性急に希求するようなニュアンスから印象をがらりと変えて、共感できるエレジーに。どんな場所、どんな編成でも曲の強さでさまざまなリスナーの足を止めることができるんじゃないだろうか。そんな頼もしさを感じたブロックだったのだ。それにしてもアコースティックアレンジで本編を終えるというのも定石にハマらないユアネスらしい。だが、今回の着席スタイルにはしっくりきたのも確かだ。
楽曲数が増えたことでアンコールにも応えるようになった彼ら。今年、バンドの作風を広げる契機となった「籠の中に鳥」で、どこまでも伸びやかなメロディーとしっかりそれを支えるバンドの骨太さを印象づけて全編を終了。自在に作曲のレンジを広げるソングライターと、そこに献身する歌と演奏がこのバンドの他にはない強みであることはライヴでもより明確になった。無二のスタンスのこの先が楽しみでならない。
撮影:中村記紗/取材:石角友香
ユアネス
ユアネス:福岡で結成された4人組ロックバンド。琴線に触れるヴォーカルと美しいメロディーを軸に変拍子を織り交ぜるオルタナティブなバンドサウンドを構築。詞世界を含めひとつの物語を織りなすような楽曲が特徴的で、重厚な音の渦の中でもしっかり歌を聴かせることのできるライヴパフォーマンスも注目のニューカマー。2019年11月リリースのEP『ES』と密接につながるEP『BE ALL LIE』を20年11月に発表した。