超絶ベーシストIKUOが4年振りにリリースしたソロアルバム『Easy come,easy core!!』を携えた全国ツアーが3カ所4公演にて行なわれた。そのセミファイナルである8月12日の高田馬場CLUB PHASEでの昼公演は、まさにイージーコア・IKUOバンドがしっかりと成立。これを機にさらなる可能性の追求への強い意志が、プレイ、歌、そしてMCに力強く宣誓されるのを見た。
IKUOの故・愛猫“みーくん”が描かれた今回のCDジャケットの大きなバックドロップが会場を見守る中、ニューアルバム1曲目のインストナンバー「EBM」がSEとして流れ出す。照明で薄紫に浮かび上がったステージに、まずはLeda(Gu)、KenT(Dr、The Winking Owl)が現れ、間を置きIKUO(Ba&Vo)が登場。逆トライアングルを描くフォーメーションにて、そのSEをバンド演奏へとスライドさせていく。IKUOの5弦ベース、Ledaの8弦ギター、KenTの多い手数とツインペダル...各人の超絶が余すところなくぶつかり合い楽曲を昇華。いきなりここではないどこかへと引き連れてくれる。
作品以上に景色感や、それでいてしっかりとスピード感と躍動感を味合わせてくれた同曲を経て、ここからはIKUOの歌が加わる。パーッとした景色感を伴い《新しい地図を開いていこう》と会場をひとつにせんと放たれた「Hands Up!」では、サビにてとてつもない開放感と爽快感を味合わせてくれた。同曲ではKenTも一打毎にスティック回しをと、魅せる場面も。そう、演奏を聴かせるのみならず、魅せ、そして魅入らせる。そんな意識もライヴ全編に渡り、この日は三者からうかがうことができた。
“今日はセミファイナル。だけどまだセミファイナルじゃない。だって、まだ外では蝉が鳴いてるから(笑)”と会場を和ませ、ここからは新旧織り交ぜて贈られた。“マニュアルなんて破り棄てビーマイセルフでいこう”と、かつての自分の決意を思い起こすように歌った「Jumping out」が会場をバウンスさせれば、乗り遅れるなよとばかりにドライブ感と上昇感が起爆した「Confession」を投下し、各人の超絶テクが場内に襲い掛かってきた「N.S.R」では、これでもかとお互い譲らないIKUOとLedaのバトルとリレーション。そこに絡むKenTのドラムソロ、そのあとのLedaギターソロ、そして最後に各人合わさった怒涛性には美しさすら感じた。
“やる度にグルーブも生まれアイコンタクトも増えてきている”とIKUOが各メンバーを紹介。“歳をとると時間の流れが速い。だからこそ一瞬一瞬を大切にやっている”と自身の信条と原動力の源を告げる。そして、ここからは2曲、ダイナミズムあふれる新旧のインスト曲たちが贈られた。“ペットは死んだら虹の橋に行き、そのたもとで飼い主のことを待っている”との寓話をもとに、かつての愛猫に捧げられた「Arch of the rainbow」では、3ピースならではの一体感と3ピースとは思えないテクニックの応酬がぶつかり合い、最後のユニゾン部では大河が大海に行き着く壮大さと爽快さに出会わせてくれた。また、変拍子を交えた「RED ZONE」ではIKUOの長い長いベースソロも! ラストのスピード感とともに、擁された哀愁さが場内に広がっていくのを見た。
今回のツアーについて“楽しさしかないツアーだった。今回、作品やツアーにこのふたりに声を掛けたのは、自分と同じくテクニックの披露に快感を覚えるタイプだろうと察したから。実際それを体感し、さらに高め合った感があった。このツアーをこの3人で行なって本当に良かった”と振り返り、続いては新旧の歌モノが2曲。鍵盤の音や同期も加わったドラマチックな前作からの「What’s up?」ではサビでミラーボールが周り、感動さを寄与。みーくんの鳴き声から入った「僕らの約束」では、“僕らの約束を果たすため、これからも前を向いて進んでいく”との頼もしい決意や誓いが響いた。
“最近は歌うことが楽しい。歌がどんどん変化し成長している実感がある”と語ったあと、今回のツアーは亡くなった際にはかなりのペットロスに陥ったみーくんをいつも背中に感じながら歌ってると続け、このメンバーと、このスタイルの最高さと、そこから何かを見つけた感を得たことに言及し、“今後も絶対にこの形態で続けていきます!”との力強い宣言をしてくれた。
ここからは後半戦。ニューアルバムからの曲たちが怒涛に連射される。再び高みへと引き連れるようにドライブ感あふれる「Fly」を皮切りに、こちらも何度でも大空へ、そして明るい未来へと強く誘った「ヒラリ」、オーディエンスをグイグイと惹き込んだ「Pride in motion」がこの日一番の一体感を与えれば、本編最後はシンセ音を交えた「Road to tomorrow」で場内を駆け抜け満場に幸せなワイパーを育ませる光景を見た。
アンコールは2曲。まずはニューアルバムにも入っていた、The Knackの「My Sharona」のカバーが作品以上のラウドさを携え炸裂。作品同様、長いギターソロやベースソロにも存分に魅入らせてくれた。さらに“いろいろやってみて分かった作品制作やヴォーカル、ツアーだった。自分の往生際の悪さは天下一品。まだまだいけるし、やりたいこともたくさんある。僕は僕の憧れをこれからも往生際悪く追い求めていきたい”と告げ、ラストは自身の出自を再確認するかのようにソロデビュー曲「LONG WAY」を。これからも挑み続けていく覚悟を歌ったような同曲が会場を一緒に引き連れていくように、このセミファイナルを大成功にて締めた。
『Easy come,easy core!!』はソロ作品として制作開始するも、名うてのメンバーたちの想像を超えた技術と対応力により、しっかりとバンドというひとつの体を成し、それが自身にも新たな自己開発の未来を芽生えさせ、よりその意欲を育ませていたーー。そんなツアーになったのではないだろうか。自身の中でも新たな“追い求めていくべき何か”に向けて踏み出せたであろうことが言葉やプレイ、歌から終始あふれ出ていた。IKUOのベーシストやヴォーカリスト、クリエーターとしての今後がさらに開花し、覚醒していく前夜に立ち会えた、そんな嬉しい気持ちとともに帰路についた。
取材:池田スカオ和宏
IKUO
イクオ:超高速フレーズを弾きこなすベースプレイヤー。1996年にEx-iTでメジャーデビューした後、Lapis Lazuli、Cube-rayを経て、現在はBULL ZEICHEN 88、Rayflowerで活動中。また、03年に『テニスの王子様』OPテーマ「LONG WAY」でシンガーデビューを果たし、14年にはソロデビュー10周年イヤーを迎え、待望の初のソロアルバム『R.E.D. ZONE』をリリースした。超絶テクニックに加え、豪快なロックグルーブはセッションシーンでも評価が高く、T.M.Revolution、abingdon boys school、TETSUYA、JAM Projectなどのライヴ&レコーディング、Acid Black Cherry、Gackt、BREAKERZなどのレコーディングも手掛ける。セッション活動も活発に展開しており、数多くのミュージシャンから絶大な信頼を得ている。