正直当初は、ここ最近の“平成男の昭和感”漂う路線を予想し会場に赴いた。しかし、実に5年振りとなった生バンドとの共演は、それとはやや趣きが違っていた。彼が過去に放ってきた幾つものエポックな楽曲たちが次々に現れたこの日のライヴは、本来各楽曲が持っていた世界観への浸らせのみならず、逆に最近の路線までも、この日ならではとして味合わせてくれるものがあった。
11月17日、『清 竜人 ワンマンライブ 2018 秋』が行なわれた。場所は渋谷TSUTAYA O-EAST。これまで彼の数々のプロジェクトを見守ってきた会場である。この日は場内に入るなり、ここ最近とは違った雰囲気が我々を待ち構えていた。従来のラグジュアリーなソファーや装飾品の代わりに楽器類がずらりと配されていたのだ。SEもなくバンドメンバーがまずはステージに現れ、スタンバイする。間を置き清も登場。深緑と紺の2トーンのシャープなダブルのスーツ姿だ。ダブルながらややスマートなのも“平成”さを醸し出している。
女性ベース、女性鍵盤、ドラム、キーボード、女性コーラス、ギターの編成がバックを務めたこの日。FMシンセによるフワッとしたイントロから「Love Letter」に。マイクスタンドを片手で持ち、ポケットに片手を突っ込んだ独特のポーズで清がムーディーな同曲を歌い始める。4ビートを交え後半はスイング感が加わるアレンジも特徴的だった同曲を経て、「TIME OVER」では軽快さが場内に呼び込まれ、清のヴォーカリゼーションも活発になっていく。スラップを効かせたベースや女性コーラスも楽曲にふくよかさを寄与。さらに情景観あふれるギターソロもキメてくれ、ラストは清もターンも交えた華麗なステップを披露してくれた。また、初期曲「ヘルプミーヘルプミーヘルプミー」では歌がジワジワゆっくりと楽曲のダイナミズムを伴って場内に広がっていくさまを観た。
不器用で武骨な主人公が思い浮かぶ「馬鹿真面目」はサビの歌い出しから始まった。レゲエの裏打ちリズムやラグタイムが混じり、より軽やかに響いた同曲。余韻に浸るように長いアウトロも特徴的であった。また、「涙雨サヨ・ナラ」の際にはステージ頭上のシャンデリアが点灯し、やさしくやわらかくグッドナイト感も交え伝えられた。そして、ピアノを基調にストリングスの音色も印象的だった「サン・フェルナンドまで連れていって」では行ったことのないサン・フェルナンドの街並みへと想いを馳せさせ、対して、ひんやりとした厳かな雰囲気の初期曲「All My Life」では人恋しさが場内にあふれていった。《繋がっていたい》との切なる想いを感情移入たっぷりで伝えた同曲。バンドによる高揚感にもグイグイ惹き込まれた。
“やはり生バンドで歌うのはいいですね”と清。今や一部の若い子に“カラオケおじさん”と呼ばれていると場内を和ませ、“それもありバンド編成で臨んだところもあった”と合わせて伝える。
中盤からは盛り上がるナンバーが連射された。ポップさが映える「きみはディスティニーズガール」では場内に躍動感が育まれ、合わせてハッピーさが寄与されていけば、マジカルで目まぐるしい「The Movement」を経た、「LOVE&PEACE」では愛と平和な雰囲気の中、女性コーラスも対比的な女性の言い分を歌い、逆に芳醇なアレンジが耳を惹いた「あくま」では清の歌い方も原曲とは違いどこか歌謡性を帯びていたのも印象深い。
対して後半はしっとりと聴かせ浸らせる曲が続いた。好きすぎて胸が痛いと訴える「痛いよ」では、感情移入然とした歌声とともに両手でマイクを包むように歌われた姿も印象的。また、原曲よりもさらにしっとりと歌われた「ボーイ・アンド・ガール・ラヴ・ソング」では、《こんなにも 愛してるよ》との神聖さにあふれた歌声が会場を包んだ。そして、本編ラストはデュエットしていたゲストの吉澤嘉代子を呼び込んで「目が醒めるまで (Duet with 吉澤嘉代子)」の再演。ドリーミーさを擁した同曲に艶やかでやや夢中チックな吉澤の歌声がジャストマッチ。“もう少し夢見てもいいですか?”と夢のような昔を振り返りつつも、それを絶たなくてはいけない揺れる心の機微を、やや未練がましい男と、あえて忘れようとする女性の心の協奏曲として見事に再現した。
アンコールは3曲。テンポもアップした「抱きしめたって、近過ぎて」をあえて明るく軽快に歌えば、「私は私と浮気をするのよ」ではバンドによるアレンジも手伝い、より強がりが増したかのように伝わった。そして、最後は“平成の男はつらいよ”とばかりに「平成の男」を、まるで笑い飛ばすかのように、これもこれまで以上に明るくポップに歌い上げた。それはどことなく、“それでも頑張っていこう!”と背中を押してくれているようにも響いた。
これまで昨今のライヴにて披露された曲たちも、今回の生のバンドスタイルを経て、それらとはまた違った臨場感や世界観を擁し我々の耳や心を奪ったのも興味深かった、この日。逆に清 竜人という柔軟性やフレキシブルさ、高い順応性を持った能力と、まだまだ底知れぬ今後がさらに気になり、興味を持ち、これまで以上に期待させる一夜でもあった。
撮影:釘野孝宏/取材:池田スカオ和宏
清 竜人
キヨシ リュウジン:2009年3月にシングル「Morning Sun」でメジャーデビュー。14年より一夫多妻制アイドルグループ“清 竜人25”としての活動を開始。プロデューサー兼メンバーである清 竜人とその妻たちで構成されるアイドルの固定概念を覆すまったく新しいエンターテインメントを展開するが、17年6月の幕張メッセイベントホールにて行なわれたライヴをもって解散。16年12月からは清 竜人25の活動と並行して、清 竜人とリスナーとの関係性が単なる演者と観客ではなく、同じ目線でライヴを楽しむというコンセプトの“清 竜人TOWN”の活動も展開。18年、レーベルをキングレコードに移籍し、ソロとしてのアルバム制作を約5年振りに開始した。