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LIVE REPORT

The Wisely Brothers ライヴレポート

【The Wisely Brothers ライヴレポート】 『1st Full Album「YAK」Release Tour「YAK YAK TOUR」』 2018年4月7日 at 渋谷WWW X

2018年04月07日
@渋谷WWW X

今年2月にリリースしたメジャー1stアルバム『YAK』を引っ提げ、The Wisely Brothersが大阪、名古屋、東京を回ったリリースツアー『YAK YAK TOUR』が4月7日に渋谷WWW Xでファイナルを迎えた。会場の装飾を自ら手掛けるところから楽しむことにこだわったライヴは終始、バンドと観客がなごやかな空気を分かち合う幸福な時間となった。

これまで気取らず、飾らず、ありのままにバンドの姿を見せてきた彼女たちだが、今回のメジャーデビューをきっかけに変わってしまうんじゃないか?...ひょっとしたら、そう思った人もいたかもしれない。確かに、この日のライヴは2時間という長尺の中で、『YAK』における楽曲の広がりがもたらしたバンドのスケールアップをしっかりとアピールしたものだった。その意味では、バンドは確実に変化しているのだろう。

しかし、その一方でステージに立っている3人の佇まいや間合い、そして3人の普段のお喋りに付き合っているような気分になれるMCは彼女たちそのものだった。例えば「モンゴル」という曲のタイトルを観客に言ってもらって、ワッと盛り上げるためのスキット(“私、相撲に挑戦したいんだけど、相撲の盛んな国ってどこだっけ?”“え、どこどこ?”)も、もうちょっとテキパキとやったほうがいいんじゃないかと思ったが、逆にテキパキとやってしまったら彼女たちらしくないんじゃないか。むしろ、照れがあるようなぎこちなさが、彼女たちらしさのように思えた。

ライヴは『YAK』からの「give me a mileage」でゆったりとスタート。彼女たちが力を入れているというハーモニーワークをたっぷりと聴かせると、「メイプルカナダ」で一気にテンポアップ。そこからつなげた「キキララ」では跳ねるリズムと真舘晴子(Gu&Vo)が奏でるトロピカルなフレーズに観客が体を揺らし始めた。演奏したのは、『YAK』の全11曲を中心にセットリストを組んだ全20曲。演奏そのものはトリオ編成ならではのシンプルなものながら、無邪気に弾けたり、真舘の吐息交じりの歌声が気怠さを加えたり、単に“ガレージロック”のひと言では語りきれない魅力があるが、レパートリーに前述の「キキララ」、ディスコビートの「彼女のこと」、レゲエの「マーメイド」といったリズム面のアプローチが際立つ曲が加わったことで、観客もこれまで以上に楽しめるライヴができるようになったことは、バンドにとって大きな一歩になったはず。そんな楽曲を多彩なフレーズとタイトなプレイで支える渡辺朱音(Dr&Cho)の貢献には、ぜひ注目しておきたい。

口々に“早かったねぇ”と今回のツアーがあっと言う間だったことを振り返りながら、“あと2曲あるから、もう2曲噛み締めよう”と「トビラ」と「庭をでて」の2曲を演奏して本編を締め括ったあと、アンコールを求める観客の声に応えてステージに戻ってきた3人が『YAK』の連想からヤク(ウシ科の動物)になっていたのはびっくりだったが、ヤクの着ぐるみを手作りしてしまう遊び心もまた彼女たちなのだろう。群雄割拠とも言える現在のバンドシーンで多くのバンドが上を目指しているが、今の彼女たちが大事にしたいと考えているのは、それとはちょっと違うことらしい。

メジャーデビューをきっかけに彼女たちが変わってしまうのではなく、逆にメジャーシーンのほうが変わるんじゃないか。この日のライヴを観ながら、そんな期待が胸に膨らみ始めた。アンコールの「マリソン」は会場全体を音で包み込むようなゆったりした演奏がダメ押しでバンドのスケールアップを印象付けたが、まるで弓弾きしているようにも聴こえた和久利泉(Ba&Cho)のたゆとうようなベースラインがうっとりするほど心地良かったのだった。

撮影:石戸ひな/取材:山口智男

The Wisely Brothers

ワイズリーブラザーズ:都内世田谷総合高校の軽音楽部にて結成。名付け親は真舘の父である真舘嘉浩(Manhattan Records、music.jpロゴ、夏の庭、装丁するデザイナー)。2014年より下北沢のライヴハウスを中心に活動開始。16年7月にタワレコメン、Apple Music『今週のNEW ARTIST』選出され、17年5月号の『装苑』にて『未来をつくるUNDERGROUNDER』で紹介され、スペースシャワーTV『NEW FORCE』にも選出。18年2月にアルバム『YAK』でメジャーデビューを果たす。