即日ソールドアウトとなった6月3日のTSUTAYA O-nestワンマン公演から2カ月半。荒川ケンタウロスが早くもライヴ再開後2度目となるワンマンライヴを開催した。
6月のライヴでバンドの復活を印象付けた彼らが自主レーベル“MY UNCLE IS VERY FAMOUS TENNIS PLAYER RECORDS”を立ち上げ、いよいよ本格的に動き出す。そして、そのことをアピールする絶好の機会となるこの日のライヴをメンバーたちができるだけ多くの人に観てもらいたいと考えていたことは、チケット1枚で2名入場できる太っ腹企画だったことからもうかがえた。
ステージに立つメンバー5人――一戸(Vo&Gu)、楠本(Gu)、土田(Ba)、尾越(Dr)、場前(Key)に気負いがあったのか、なかったのか。それはちょっと分からない。いずれにせよ、バンドの新たな一歩が余所行きのものにならずに、自分たちがどんなバンドなのか包み隠さずに観てもらうような親密なライヴになったところがとても良かった。それを考えると、2016年1月に渋谷WWWで観たワンマンライヴは、アルバム『時をかける少年』のリリースツアーのファイナル公演という性質上、若干余所行きだったのかもしれない。しかし、《夜が明けてく 旅が始まる》という歌詞が印象的だった「飛行蜘蛛」から始まったこの日は、4日前に自主レーベルからの第一弾としてリリースした配信シングル「暁」を含め、お馴染みの楽曲からまだ音源化していない新曲まで、新旧のレパートリーをざっくばらんなMCを交えながら、2時間にわたって伸び伸びと披露した。
1曲目は「飛行蜘蛛」。はやる気持ちをあえて抑えるようにゆるやかに始まった演奏は、3曲目の「アンセム」で楠本がE-BOW使いが絶妙なソロを奏でたことをきっかけに熱を帯び始め、「ハンプティダンプティ」でテンポアップ。そこから一戸の歌声も含め、演奏の力強さを観せ付けながら、一気に盛り上げると、今度は一転して、この日が初披露となる季節外れのクリスマスソング「Ring a bell」、フォーキーな味わいもある「暁」、そしてノスタルジックな「恋をするように」と、彼らが持つ歌心を物語る曲をじっくりと聴かせた。
そして、音源化はされていないが、すでにファンの間では定番となっている新曲「手紙」から始まった後半戦は、ファンキーな「天文学的少年」、ピーンと緊張が張り詰めるロックナンバー「映画」など、再びバンドアンサンブルの力強さをアピール。ピアノバラードの「あすなろ」ではメンバーたちが見事なハーモニーを重ね、ラストに相応しい熱演が客席を沸かせた「superstar」で本編は終了。もちろん、ライヴはまだまだ終わらない。
“まだまだフィーバーし足りないよね!”と一戸が客席に声を掛け、「10年20年」のコール&レスポンスでさらに盛り上げたアンコールでは、9月にリリースするという新曲「ハートビートからknockしてるbaby」で荒ケン流ディスコナンバーともシティポップスとも言える新境地に挑戦した。この日、バンドが演奏したのはアンコールを含め計21曲。実に多彩なレパートリーを持っていることを改めて実感。同時に、そこには懐かしさと切なさが入り混じる心に沁みる歌心と、それを支える熱いバンドアンサンブルがある。
そんな魅力を改めて印象付けたこの日、“これからも変わらずに良い音楽を作っていきます”と楠本は新たな決意を語った。そんな彼らを、彼らが作る良い音楽に惚れ込んだファンが支えている。最後の最後に演奏した「ティーティーウー」の歌詞が出だしでいきなり飛んでしまった一戸を、ファンが代わりに歌ってサポートしたことからも、それは明らかだった。そんなハプニングもこの日の観どころのひとつだった。
取材:山口智男
荒川ケンタウロス
アラカワケンタウロス:2009年7月に東京・国分寺で結成された、誰にである日常をドラマチックな世界に変える5人組。バンド名は長尾謙一郎の漫画『おしゃれ手帖』から。インディーズでシングル1枚、ミニアルバム2枚、フルアルバム1枚をリリースしたのち、15年2月、ミニアルバム『玉子の王様』でメジャーデビューを飾った。