本当に<どこに向かえばいいの?>ってわからなくなって。

―― 3曲目「WE CAN!」は“ジュビロ磐田”の2019シーズンソングですね。歌詞の着想はどのように得たのでしょうか。

ジュビロ磐田のスタジアムに行かせていただいて、初めてプロサッカー選手の試合を生で観ました。家に帰ってからすぐギター片手に、そのとき感じたことをその日のうちに曲にしたんです。それぐらいに感じるものがいっぱいありましたね。あと、ジュビロ磐田の年間スローガンの“繋ぐ”という言葉が印象的で。この歌のサビにも意識して、何度も“繋ぐ”というワードを入れました。

―― この歌詞はサッカーにまつわるワードが綴られていますが、音楽活動にも通じる気がしますね。ファンの方やスタッフの方と<声を繋ぎ>、<パスを繋ぎ>、ゴールへ向かってゆくと言いますか…。

そうなんですよね。サッカーでは、サポーターの声が選手に届いて、選手が選手にパスを回して、最後にゴールを決めるというチームワークがありますけど、それはわたしたちの日常のいろんなところにもあるんじゃないかなと考えながら書きました。私にとっては、ライブが終わって、みんなから「今日は楽しかったー!」って言葉をもらう瞬間が、ゴールだと思っています。そういうゴールがたくさんあって、その繰り返しですね。

―― また、佳奈さんにも<夢見ることは無駄じゃないと 教えてくれた>ひとはいますか?

はい、本当にいろんなひとがいますね。まずは、歌詞の魅力を教えてくれたアンジェラ・アキさん。あと、中学校の頃の音楽の先生。その先生はいろんなことを私に教えてくれて、おかげで歌手になりたいという気持ちが強くなったんです。そして、今年はワンマンツアーがあったんですけど、そのツアーのときに<夢見ることは無駄じゃないと 教えてくれた>のは、会場にいたお客さん。「あ、私、ここにいていいんだ」と心から思えました。

―― 4曲目「私へ。」は、先ほど『今の自分の感情をありのままに綴った歌詞』だとおっしゃっていましたが、どんなきっかけから生まれた曲ですか?

まだ薄暗い道を 歩き出す今日も私
色のない街が通り過ぎてく
気づけば日は昇っている
どこに向かえばいいの? 誰に話せばいいの?
伝えようとしても本当の気持ちは
いつしか言えなくなってた
私へ。」/足立佳奈

昨年、ドラマ『チア☆ダン』に少し出させていただいていたとき、めちゃくちゃ朝が早くて、撮影のために午前4時とかに家を出ていたんですね。そのとき、まさに<まだ薄暗い道>でふと「私って、歌を歌うためにアーティストとして活動させてもらっていて、今は他のこともやらせてもらっていて、大学生としても過ごしていて、でも結局、自分自身は何がしたいんだろうな」って思ったんです。もちろんいろんな活動をさせていただいて嬉しいし、それはいいことなんですけど…。

自分のなかで、やりたいことを絞り切れていないというか、確立していないというか、本当に<どこに向かえばいいの?>ってわからなくなって。そのときの気持ちをバーッと綴りました。とくに冒頭の<色のない街が通り過ぎてく>というフレーズには、周りはどんどん変わっていくのに、自分だけ変われないような、留まっているような感情が込められていますね。

―― なるほど…。自分は何者なんだろう、と。

そうなんです。でもそれこそ<誰に話せばいいの?>って思って。家族やファンの方やスタッフさんに話したら、心配させちゃうし、友達に話しても「じゃあカラオケ行って発散しようよ!」みたいな感じになって、それはそれでなんか違うし(笑)。

―― そのちょっと鬱々とした気持ちはもう抜けましたか?

まだ短い経験ではありますけど、MCをやらせてもらったりとか、ちょっとお芝居をさせてもらったからこそ「やっぱり私は歌を歌っていきたいな」という思いを改めて感じることはできましたね。だから<踏み出そう今>というフレーズは“頑張ろう”という決意表明かな。それに、もし『チア☆ダン』がなかったら、こういう歌も書けませんでしたし、すべてが音楽に繋がっているんだなって今は思えますね。

―― この歌でとくに思い入れの強いフレーズを教えてください。

<受け止めて 向き合って もう一度>ですね。もちろん自分自身のことを好きだと思えるひともいるけど、私みたいに「自分なんて…」って思う子は結構いると思います。でも、誰より自分を知っているのは自分だし、受け止めてあげるのも自分なんですよね。だからまずは本音を<受け止めて>、そこから「じゃあどうしようか」と現実と<向き合って>、徐々に自分を好きになっていけたらなって。そういう想いを込めて綴った、大切なフレーズです。

photo_01です。

―― 歌詞を書くとき、好きでよく使う言葉ってありますか?

ラブソングなら<今すぐ想いを伝えるよ>とか<あなたに歌うよ>というようなフレーズをすぐに書いてしまいます(笑)。さっきもお話したように、私自身が想いを伝えちゃいたいタイプなので。だけど、伝えられない子にとっては共感できない歌詞になってしまうかもしれないので、そのバランスを考えるのは毎回ちょっと大変ですねぇ。自分の恋愛観が出すぎてしまわないように気をつけます(笑)。

―― 逆に、使わないようにしている言葉はありますか?

あ~…それは、多分まだ出逢ってないかもしれないです。自分が使えない言葉ならありますね。たとえば<愛してる>というワードだったら、私自身が<愛してる>という感情をまだ理解できないから使えない、とか。もっともっと自分の成長と共に言葉選びは変わってくるんだろうなって思います。

―― 佳奈さんにとって“歌詞を書くこと”とはどんなことでしょうか。

手紙を書くのと同じですね。1曲1曲それぞれに宛て名があります。たとえば「little flower」だったら、恋をしている同世代のひとへ。「ウタコク」だったら、今告白しようか迷っている女の子へ。「WE CAN!」だったら、ジュビロ磐田に関係しているみんなへ。「私へ。」だったら、私自身や、自分の進路で悩んでいる学生の子へ。必ず自分のなかに「~へ」という気持ちがあるものです。

―― 最近「この歌詞が良いなぁ」と思った曲やアーティストを教えてください。

コレサワさんの「笑えよ乙女」という曲ですね。歌詞に<ふつうの乙女に生まれたあたしだから悩めること>ってフレーズがあるんですけど、そのポジティブな考え方に最近はすごく助けられています。お母さんうるさいなとか、友達とうまくいかないなとか、みんな個々にいろいろあると思うんですけど、それは<ふつうの乙女に生まれたあたしだから悩める>特別なんだって。休日もいつもコレサワさんのCDをかけて過ごしてますし、大好きです。

―― ありがとうございました!では最後に、佳奈さんがこれから挑戦してみたい歌詞とはどんなものでしょうか。

実体験ではなくて、もっと想像力を使って歌詞を書けるようになりたいなと思いますね。こう…ストーリー性のあるような。今までも挑戦してみたことはあるんですけど、自分が経験してないと書けないことが多くて、いつも物語の途中でやめてしまっていて(笑)。だから絵本や小説のような歌詞も生み出すことができるように、もっと創作の幅を広げていきたいですね。


前のページ 1 2 3