
―― 今さんには歌詞エッセイも書いていただきました。「合法パンチ」は、“言葉の暴力の罪”について、「魔性の女A」は“ルッキズムとの向き合い方”について考えたことが、楽曲制作のきっかけだったそうですが、ご自身のなかで何か問いが生まれたときに、歌を書かれることが多いのでしょうか。
おっしゃるとおり。多分、ほぼすべての曲に問いがあります。小さい頃から私には「討論しよう」って口癖があって。でも、討論って難しいじゃないですか。なかなか感情を抜きにして喋ることってないですし。昔、友だちを泣かせてしまったこともあって。だから当時、私と討論してくれる存在は父だけだったんです。それが悲しかったんですよね。
しかも、年齢が上がるにつれ、討論したい内容は増えていくし、複雑になっていくし、デリケートになっていく。たとえば、「戦争について」とか。それを私がSNSに、「これについてどう思いますか? 私はこう思います」って書いたり、友だちに急に、「あなたはどう思う?」って投げかけたりしても、討論が成立することのほうが少なくて。
―― 討論ではなく、傷つけてしまったり、ケンカになってしまったり。
言い方も難しいし、相手の心に余裕がなかったりもしますよね。素直に言葉を交換できない壁があると思います。それが音楽だとその壁を取っ払えるんです。あくまでアートとして冷静に意見交換ができる。だから「合法パンチ」でも「魔性の女A」でも、私は世間に問いかけをしています。誰かにその問いを見つけてほしいし、アンサーがほしい。
そして、コメント欄でアンサーを見て、「なるほど。こういう考えもあるのか。私は浅かったかもしれない。じゃあ、次はこう思うんだけど、みんなはどう思う?」と、また次の曲を作る。つまり、寂しいんですよ。でも、音楽のなかならずっと討論していられる。“討論する手段”としてずっと音楽をやっている気がしますね。
―― 討論するテーマは無限にありそうですが、曲を書けなくなることもありますか?
何を討論したいのかわからないとき、自分のなかで混乱してしまって、書けなくなる瞬間があります。討論するときには、明確な問いがあるじゃないですか。それが見えなくなるんですよね。感情が邪魔をして、ノイズがかかるというか。だから、とにかく書きながら、自分自身と向き合って、そのノイズを取っ払っていく作業をします。
―― 問いに対する答えではなく、問い自体を探すんですね。
ノイズを削除して、綺麗な問いが生まれると曲ができますね。逆に、「うるさい、ムカつく」みたいなことを書いていった結果、たどりついた場所が問いではない場合もあります。「この悩みって、結局は答えがないし、誰にもわからないよな」って。そういうときは、葛藤の過程をそのまま曲にします。すべては曲を作るために必要なスランプですね。
―― 今作「メンタルレンタル」は、どのような問いを立てたのでしょうか。
SNSで、「心に飼い始めたギャルがうつ病になっちゃった」という投稿を見かけたのが発端でした。それに対してまず私は、「他の人格を飼うことの欠陥」を考えたんです。もちろん“飼うこと”で一時的に救われるひともいるし、ひとつの手段としてはよいと思います。でも、何かを飼っている状態って、自分の主人格を放置してしまいがちなわけです。ケアすることさえ忘れてしまう。だから気がつくと、全体的に悪化しているのかもしれない。
そこから、「飼うことに疲れたらどうすればいいの?」という問いを立てて、私なりの新たな考え方として、「借りるという方法はどう?」という提示をしたんです。借りるほうが、飼うより厳しいと思います。いつかは返さなければならない自覚があるから。ただ、「借りて手助けしてもらおう。元気になったら返そう」という視点のほうが、健康的なんじゃないかなと。そうやって生まれたのが「メンタルレンタル」という曲ですね。
―― では、いちばん最初に生まれたフレーズというと<心に飼い始めたギャルも もう憂鬱そうです>でしょうか。
そうですね。そこから次の<他の誰にもなれぬなら "飼う"より"借りて"みよう 僕のまま>という核ができて。「借りる」→「レンタル」→「メンタル」→「メンタルレンタル」という連想ゲームでサビが生まれました。イメージ的にはDVDのレンタルショップ。今はもうだいぶ減ってしまいましたけど。そこで作品をレンタルしているような感覚です。
―― 「メンタルレンタル」は、TVアニメ『勇者のクズ』第1クールエンディングテーマですが、アニメサイドの方から何かオーダーはありましたか?
「ヒロインの亜希ちゃんメインの曲を書いてほしい」という点だけでした。でも、書いていくうちに、亜希ちゃんだけの視点ではないなと。主人公のヤシロもまた、亜希ちゃんの在り方にどこかで憧れている。互いにメンタルをレンタルし合っているところがある。そこが私のずっと抱いていた「メンタルレンタル」というテーマに一致していったんです。
―― 今さんご自身も、誰かのメンタルを飼われたことってありますか?
自分が曲ごとに作り出した、空想上の人物を飼うことが多いですね。そのキャラクターだから言えることがあるんです。たとえば「凡人様」だったら、“神様ぶっている無敵の主人公”みたいな。それは私が“討論”をしていくなかで生まれている人格だから、もちろん私自身でもあるんですけど、ふとした瞬間に忘れてしまうんですよ。
だから、迷ってしまったり、沈んでしまったり、そういうときにこそ自分の曲を聴きます。すると、過去の自分の強気な人格に励まされて、「もう自分が答えを出しているじゃん!」って思える。「合法パンチ」も「魔性の女A」も「メンタルレンタル」も、私にとって大事な主人公たちがいる場所ですね。
―― 今作のなかで、とくにお気に入りのフレーズを教えてください。
最後の2行、<自分探すのをやめたら 少し自分に近づいた気がした>ですね。このフレーズはいちばん最後に書けたのですが、私はいつも曲を書きながら、“問いの答え”にたどり着くんですよ。「メンタルレンタル」のすべての歌詞は、この2行にたどり着くためにあったんだろうなと思えました。
あと、個人的には<気がした>という点も大事で。言い切ってしまったら、絶望しているひとを突き放してしまう気がして。作り手側はそういうつもりがなくても、「ああ、途中までこの闇に寄り添ってくれていたのに、この主人公は最後に救われてしまったんだ。私はそうなれないよ…」と感じてしまうひとがいるかもしれない。同じような経験が自分にもあったので。あくまで“希望的”に終わらせることができてよかったなと思います。