僕の脳内MVでは本上まなみさんが主人公です。

―― 同時リリースとなるコンセプトアルバム『OT WORKS Ⅲ』についてもお伺いしていきます。まず岡崎さんは、タイアップ系の楽曲をオリジナルアルバムには入れないと決められているんですよね。

タイアップ曲はオリジナルアルバムと分けてまとめていきたい、という話はデビューしてすぐにレコード会社に伝えていました。たとえばパピコさんのCMを作るときに書いた「お風呂上がりにパピコを食べる歌」なんかは、曲のなかにめちゃくちゃパピコが出てくるし、パピコを売り出すにはどうしたらいいかという歌詞なんですよ。それがオリジナルアルバムに入ってくると、急にそこだけめちゃくちゃパピコの世界になってしまう。

僕はタイアップ曲を書くとき、できる限りクライアントさんに寄せたいという意識が強すぎるゆえに、他の収録曲とのバランスを取ることも難しい。普通はタイアップ曲ってオリジナルアルバムのリード曲になることも多いと思うんですけど、僕はあえてそこを分けようと。それによって心持ち的にめちゃくちゃスッキリしましたね。

―― 曲を書きおろす際、タイアップ先に全振りできるのは大きな武器ですね。

そうなんですよ。「隠喩とかじゃなく、こんなにワードをがっつり入れてくれるんですね! ありがとうございます!」とか、クライアントさんがすごく喜んでくれるので、やっぱり嬉しいです。「岡崎体育はめちゃくちゃ商品名を曲中で言いますよ~!」って宣伝にもなっていますからね。『OT WORKS』シリーズはそういうプロモーションも兼ねているアルバムかなとも思います。

―― 『OT WORKS Ⅲ』収録曲でとくに制作が難しかった曲を挙げるとすると?

うーん、5曲目の「富山におるちゃ」ですかね。というのも、NHK富山放送局さんのマスコットキャラクター「きとっピ」のテーマソング曲なんですけど、僕、富山県にまったく行ったことがないんですよ。

―― どのような経緯でオファーが来たのですか?

岡崎体育HPのお問合せフォームから「ぜひテーマソングを」とご連絡いただいたんですけど、「岡崎体育さんらしい曲を」という発注だったので、もしかしたら今までの『OT WORKS』シリーズを聴いてくださっていたのかもしれません。ただ、行ったことすらなかった場所なので、歌詞を書くのが難しかったですね。

―― 富山県のどこの何を書くのか、とっかかりも難しそうですね。

そうなんですよ。<8号線から見えた立山連峰の雄大さに>とか<雪化粧した富山湾の美しさに>とか全部インターネットで調べました。「富山 名所」「富山 美しい所」で検索して。

photo_03です。

あと<なんだかんだ言っても富山におるちゃ>って方言が出てくるところあるじゃないですか。ここ最初は<富山にいるちゃ>って歌っていたんですけど、「いや、ほんまに合ってるのかな。俺がネット情報を鵜呑みにしただけだからな…」と思って、Twitter(X)で富山県の方々に訊いてみたんですよ。そうしたら、「いるちゃ、なんて言わないですよ~。おるちゃ、です」ってご指摘を受けて。訊いといてよかったぁと。それでその部分だけレコーディングし直したんですよね。そういうところも大変だったりしました。

―― サビの<きっと きときと きっと>は、キャラクター「きとっピ」の名前とキャッチーなフレーズがうまく重なりましたね。

<きときと>も富山の方言なんですよね。「きとっピ」というキャラクター名もそこが由来だそうで。キラキラ輝いているイメージというか。たとえば富山で取れるお魚とかに対しても使える方言みたいなので、富山県の街を盛り上げるような意味でも<きときと>という表現は入れたかったんです。結果的に聴いてくれた富山の方々からの反響もよくて嬉しかったです。NHK富山放送局さんから新鮮なでっかいカマボコをいただきました。

―― では、他に収録曲でとくに歌詞がお気に入りの曲というといかがですか?

4曲目の「季節の報せ」ですね。関西の夕方に放送される情報番組『news おかえり』オープニングテーマで書かせていただきました。春夏秋冬、自分を取り囲む身近な風景を描いた曲で。昔に書き溜めしていたフレーズたちをいくつか繋ぎ合わせて歌詞を作りました。

―― フレーズごとの四季の表現が美しいですね。これは岡崎さんが地元・京都で見ていた景色ですか?

京都で見ていた景色と、東京に引っ越してから近所を散歩しながら目にした景色、どちらも含まれていますね。四季の身近な移り変わりとか、生活に根づいた風景とか、よく散歩中に携帯にメモするんですよ。歌詞中に登場する<室外機>とかも好きで。どこの家にでもあるものだけど、室外機がゴーって鳴っていると、「あぁこのひと今、クーラーつけてんねんなぁ」って想像したり。そういうのが心地いいなぁって。

あと<呉服屋の軒先に並んでる三割引きのカーディガン>とかも実際に近所にあるし。この曲はそれぐらいささやかな日常とか、誰かの生活とかをひとつの作品としてパッケージングできた達成感がありました。モノづくりの幸せを感じる曲ですね。

―― この曲は主人公の人称が<私>であるのも印象的でした。

岡崎体育の曲で珍しいですよね。だいたい<俺>か<僕>なので。なんで<私>にしたんやろなぁ…。まぁでも曲の雰囲気を考えて、<私>がしっくりきたというか。自分が目にした景色ではあるんですけど、心のどこかに本上まなみさんがいましたね。僕の脳内MVでは本上まなみさんが主人公です。

―― わかる気がします。丁寧に暮らしている本上まなみさんの姿が浮かびます。

まさに! 丁寧に暮らしていらっしゃる本上まなみさんのイメージで書いた歌詞です。これはタイアップがあったからこそうまくハマった曲でもあると思います。お昼から家事をして、疲れたタイミングでやっとテレビをつけて、この曲が流れてちょっとでも元気出てくれたらなって。そういう思いもあったので、少し跳ねたリズムと柔らかいメロディーを意識して曲を作りました。

―― こうしてタイアップ楽曲を作るときと、0からご自身で生み出すとき、どちらがより作りやすいのでしょうか。

タイアップ楽曲です。注文があればあるほど作りやすいタイプ。小学生の頃は、図画工作の時間とかむしろ苦手だったんですよ。たとえば、「みんなで赤いうちわに足をつけてタコを作りましょう」という授業があっても、僕だけ赤を白に塗り替えてイカにして、先生に怒られるみたいな。はみ出したい気持ちがいつもありました。でも大人になって、その反動というか。発注通りに作ることにこそ幸せを感じるタームに入りましたね。

―― 岡崎さんにとって歌詞とはどういう存在のものですか?

最初にお話したように、子どもの頃は英語の歌ばかり聴いていたので、歌詞のメッセージ性や意味はあまり重要視していなかったんですよ。でも大人になってから、くるりとかフジファブリックとか、日本語のロックを聴くようになって。「こんなに美しい表現が音楽でできるんだな」と気づき、自分自身も歌詞というものに興味を持つようになっていったんですね。

そして今の僕にとって、歌詞はゲームでいうセーブポイントみたいなものかもしれません。そのときの自分の感覚を垂れ流すのではなく、作品として1回セーブできる。それによって区切りをつけられるというか。人生のなかで思うこと、考えることって、年を重ねるにつれ変わっていくじゃないですか。だからこそ、その時々の自分をセーブできて、あとから見返すことができる存在は大事ですね。

ネタ曲だとしても、言葉尻なんかをかいつまんでみると、実は変化が表れているんですよね。たとえば昔はめちゃくちゃ関西弁で書いていたけど、標準語の歌詞が増えていて、「俺、東京に来たんやなぁ」って実感したり。自分でも気づかないうちに、すべて言葉に表れていくものなんだなと思います。

―― ありがとうございます! 最後にこれから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

やっぱりラブソングですかね。携帯小説みたいに甘い歌を等身大の言葉で作ってみたい気持ちはあります。タイアップ系じゃない岡崎体育の曲だと今のところ「私生活」ぐらいじゃないかな。しかも中学生ぐらいの片思いの歌詞なので。もうちょっといい意味で浮ついた、今の自分のラブソングを書けるようになったら、ひとつまた新しい扉を開けられるのかなと思っていますね。


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