主人公はやっぱり基本、僕自身だなと思います。

―― もう1曲、幸せソングとして7曲目に「未来図」があるのですが、なぜこの曲は2~4曲目の幸せブロックの流れのなかにはいないのでしょうか。

おっしゃるとおり、本来だったら幸せブロックのなかに入っているひとつの物語なんです。それをあえてこのタイミングにしました。6曲目「花びら」で<花びらが一つずつ枯れてゆく>わけですけど、“綺麗に咲き誇るはずだった僕たちの未来”っていうのを、「未来図」で描いているイメージで…。

―― 切ない…!

これ実はみんなにどのタイミングで言おうか迷っていたんです(笑)。でも自分的にはそういう意味があって。もし「ピリオド」からの「花びら」で相手を失くしてなければ、こういう未来の可能性もあったのに。あのときはこう思っていたのに。そういう回想と後悔の意味合いを込めて書いたのが、「未来図」なんですよね。

―― とくに「未来図」の<心の奥に潜む怪獣は 僕に任せてよ>というフレーズは、相手のどんなところも受け止める愛情深さを感じました。MVのコメント欄でも、このフレーズに注目している方が結構いらっしゃいましたね。

そうなんですよ。突然<怪獣>ってワードが出てくるから、よく意味がわからないひともいるだろうし。<心の奥に潜む怪獣>って、たとえば、学校や会社で怒られて何もかも嫌。そういうときの負の感情。不安とか心配とか悲しいとかが急に膨らんでいくときって、自分では歯止めがきかなかったりするじゃないですか。うわー!って、心のなかで怪獣が暴れ出すみたいな。そういうイメージだなと思って。

―― そういう負の感情を<僕に任せてよ>と言ってもらえるって、すごく心強いです。でもこんなに大切に思っているのに、アルバムの物語としては、この恋に待っているのは終わりなんですね…。

だからこそ、ここに「未来図」を入れることは、ひとつの皮肉でもあるんです。こんなに「未来図」でこっちは思っていたのに、<君>はいなくなっちゃったんだね…って。自分も後悔しているんですけど、相手に対しても、「ちょっとは後悔してよ」みたいな気持ちが含まれていますね。そしてその怒りと悲しみが混じった気持ちを、次の「最低最悪」と「牙」に落とし込んだんです。

―― なるほど!だから、ここからまた怒りと悲しみブロックなんですね。9曲目はどうして「牙」というタイトルなのでしょうか。

この曲は、感情の伝え方に棘があるんですよ。たとえば落ちサビの<終わってしまえば 0になるなんて 注いだ全てが水の泡だね>とか。2番の<化けの皮もすぐに剥がれる 見せかけの優しさに注意してね>とか。それこそ<怪獣>の“牙”が出てしまっている状態ですよね。その牙で相手の首筋を噛んでやろう、というイメージで「牙」とつけました。

―― このアルバムでは、いろんな角度から主人公の切なさが描かれておりますが、ご自身が書く主人公には何か共通する特徴などありますか?

photo_01です。

主人公はやっぱり基本、僕自身だなと思います。女性目線の歌詞でも、女性側の目線に立ってはみるけど、元にあるのは自分の経験とか感情ですし。まず、想いが強いのと、失ってから気づくことが多い。あと不安がすごく大きい。心配しすぎるのも、相手にとっては重荷になっちゃうからよくないとわかってはいるんですけどね。もうちょっと想い抑え気味で恋をしたほうがいいかなと思っています。みなさんも、歌詞の主人公どおりに事が運ぶと、ちょっと危険かもしれません(笑)。

―― 右京さんご自身、いろんな経験を重ねていくなかで、恋愛観で変わってきた部分ってありますか?

昔はそれこそ、「閉じ込めておきたい」くらいの重たさが全面に出ていました。自分だけのものにしたいみたいな。それはもう自分の性格なので、今も変わらずあると思うんです。でもそれを必要以上に表に出すと、よくないと学びました。

―― 束縛することと、大切にすることって、紙一重だったりしますもんね。

そう、本当に難しいんです。なるべく自由でいたいひともいるじゃないですか。だから自分の不安な気持ちはあるけど、それでも相手を尊重したほうが、結果的には長く一緒にいられるのかなって思うようになりました。ただ、実際にやるとなると、難しいんですけどねぇ…。

―― では、このアルバムのなかで、右京さんがとくにお気に入りのフレーズを教えてください。

まず「君のこと」のBメロ、<さっきもっと触れておけば 良かったなんて考えてる 明日も明後日も分からないのに>ですね。ここはまさに僕なんですよ。裸の感情というか、それが素直にポンッと出た歌詞なので気に入っています。

「最低最悪」の<足りないもの数えたって 満ち足りる日は来ないのに 求め合い絡み合い切ないね どんな日々より色づいてた>も。僕は卑屈になりがちなんです。自分が持っているものもあるはずなのに、ないものとか、できないこととか、嫌な部分にばかり目を向けて、心が貧しくなる。それを努力するエネルギーに変えられたらいいんですけど、なかなかできない。そのままでは心が満たされることはないなと思っていて。その考えをここに入れ込めたことが、自分的にはよかったです。

あと「ピリオド」は、聴いていて自分でも悲しく切なくなるんですけど、聴き終えたあとにちょっと違う感情が残る女性目線の歌詞が書けました。Dメロの<ねぇ 君は色んなものを守るのが苦手だったね 約束も時間も私のことも>のセクションとか好きですね。

―― 「ピリオド」と「花びら」は対になっているように感じました。「ピリオド」は振った側の<私>、そして「花びら」は振られた側の<僕>のアンサーソングのような。

すごい、そこ気づいてもらえて嬉しいです。「ピリオド」には<涙が止まらないけど もうこれ以上泣きたくないの>って<私>の気持ちがあって、「花びら」にはその姿を見た<僕>の<どうして泣いてたの あなたが選んだのに>って気持ちがあって、やっぱりひとつの軸のなかの物語なんですよね。そういう意味でも、みなさんに一度、アルバムを最初から順番に通して聴いていただきたいですね。そして一周まわって、最後はまた「ラブストーリー」を聴いて終わってほしい。そういう思いがあります。

―― 歌詞を書くときに大切にされることは何ですか?

自分の心から出た言葉であることですね。難しい言葉とか簡単な言葉とか関係なく、取ってつけたような言葉は使いたくない。自分のなかで、「これは表面的なことしか言えてないな」とか「もっと深いところがあるかな」と思ったら、妥協せずに心のなかにまた潜って言葉を探すようにしていて。まず自分が刺さるかどうかを常に意識していますね。

―― 右京さんが好きでよく使う言葉、逆に使わないようにしている言葉はありますか?

どうだろう…。よく使うのは<君>かな。マルシィの楽曲はふたりの物語で、いつも相手のことを思って歌っているから、<君>がいちばん多い気がします。他に、「このワードがよく出てきたな」みたいなのありました?

―― やっぱり“記憶”がテーマのアルバムなので、<あの日>というワードは印象的でした。

あー!たしかに。今気づきました。もう後悔とか、反省の<あの日>しかないですから(笑)。使わないようにしている言葉はないかもしれません。自分が描きたい物語や、伝えたい感情を表現するために必要な言葉だったら、多分どんなものでも使いますね。普段、自分がよく使うワードとか考えたことがなかったのでおもしろいですね。何年後かにはきっとまた変わっているんだと思います。

―― ありがとうございます!最後に、これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

いつか恋愛じゃない歌を書いてみたいですね。自分が納得できるものを、いつ書けるかわからないので、出せるかどうかわからないんですけど。恋愛じゃなく、もっと広い歌というか。そのひとの日常にグッと近くなれる曲を作ってみたいなと思いますね。


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