マーケティングと発想の転換で築き上げてきた“雫流”作詞スタイル!

 2020年12月16日に“ポルカドットスティングレイ”が3rd FULL ALBUM『何者』をリリースしました。今作には、過去最多数のタイアップ・コラボ曲を含む全14曲(CDは全13曲)が収録されております。なぜ、このバンドはこんなにタイアップが多くつくのか。なぜ、商品や作品と楽曲がこんなに馴染むのか。インタビューでは、雫(Vo.& Gt.)にその秘密をお伺いしました。自分には書きたいことがない。特別な音楽の才能もない。だからこそ、徹底したマーケティング力、発想力、企画力で独自の制作スタイルを築き上げてきたという彼女。一体、ポルカとは“何者”なのか、是非その答えをアルバムで、インタビューで、確かめてみてください…!

(取材・文 / 井出美緒)
化身作詞・作曲:雫I want you I love you I hate you But I need you
君が好きで嫌いだ ほっといてよ、もう これを愛と呼ぶ気が知れない
I hate you 今夜、逃げなきゃならない
痛いの痛いの、が 飛んでいかないんだ 君が思うほど優しくはない
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みんな、私に結構タイムライン見られていますよ。

―― 雫さんはよく取材などで「求められるものをマーケティングして作る」とおっしゃっていますが、曲作りを始めた頃からそのようなスタイルなのでしょうか。

いや、結成当初は私が留学中だったので、英語の文法練習みたいな感じで、わりと英語で歌詞を書くことが多かったんですよ。あまり意味合いを考えたこともなく。ちゃんと歌詞も中身のあるものにしなければならないと思い始めたのは、デビューを意識するようになってからかな。作品で言うと、ミニアルバム『大正義』ぐらいのときから。

だけど私には書きたいことがなくて。だったらお客さんに喜んでもらえるもの、求められているものを作ったほうが自分的にも嬉しいなと。それでこのスタイルでずっとやらせていただいています。うちはタイアップがすごく多くて、今回も10曲ぐらいについているんですけど、歌詞に自我を出すタイプじゃないからこそ、クライアントさんに「ここちょっとイメージと違うなぁ」とか言われたら、もう2秒で「変えます!」と答えますね(笑)。

―― 求められるものがはっきりしているタイアップ曲のほうが作りやすいですか?

めちゃくちゃ作りやすいですね!逆に、タイアップなしってなったときが大変で。とくに今年はコロナの影響でクライアントさんたちも動きが止まっていたから、夏ごろとかタイアップのお話がほとんど来なかったんですよ。で、ちょっとこれ…何書く?みたいな。それでタイアップなしで出したのが、アルバム3曲目の「FREE」なんですよね。

―― 今までにないタイプの制作スタートだったんですね。

photo_01です。

そう。しかもいつもなら歌詞作りのときって、みんなにTwitterで質問をして何を書いてほしいか訊いたりするんですね。だけど、うちもツアーが中止になったりしたから「ポルカに会いに行きたい」とか「生存確認がしたい」とか「雫さんが今何を考えているのか知りたい」みたいなツイートが非常に多くて。今回に限ってはみんなに訊くのも違うなと。それで「FREE」だけは、私の考えていることを歌詞にさせてもらいました。超貴重です。恥ずかしかったー。

―― では、コロナ関係なく、タイアップも何もない状態で「好きに書いてください」と言われたら、どんなときに曲が生まれると思いますか?

…書けないかもしれない。私スランプとかはないんですよ。曲は無限に出てくるんです。でも歌詞が書けないんですよね。普段の曲作りでも歌詞はいちばん最後だし、ちょっと苦手で。だからタイアップの話が来ないとなおさら作れないと思います。何も考えてないのかもしれない。自由に書いて、って言われるときがクリエイターとして唯一つまづくときな気がしますね。

―― たとえば「雫さんの恋愛体験を書いてください」とか…。

ぜっったい無理ですね。ポルカって学生のファンが多いから、私がJ-WAVEでレギュラーをやっている番組にも恋愛相談がめっちゃ来るんですけど、もう…知らん!って思いますもん。たとえば「クラスの女の子のことが好きで、告白したいんですけど、緊張してできません」とか。告白したらいいやん!別に失敗しても死ぬわけやないんやから!みたいな。私には、人に備わっているべき恋愛の機関が備わってないんですよ(笑)。だから歌詞全般苦手だけど、ラブソングが圧倒的に苦手ですね。ラブソングを書かなきゃいけないときには、Twitterでとにかく細かくみんなにアンケートを取って書きます。

―― でもポルカは素敵なラブソング多いじゃないですか。

いやまぁ…やっぱりラブソングは受けるし、みんなが喜んでくれるからかなり頑張るんですよ。今回も「阿吽」という告白ソングを書くとき、Twitterでみんなにアンケートを取ったんですね。好きなひとへの告白のセリフとかシチュエーションとか。私としては「知らんがな!」「何これ!」とか思いながら(笑)。多かった声をバーッと並べてみたりして、なるほどなぁ…ってなんとか歌詞を書きました。結果「阿吽の歌詞が良い!」って言ってもらえたので、嬉しかったです。そうやって毎回ラブソングは苦しみながら書いていますね。

―― Twitterでアンケートは取っても、やはり雫さんのフィルターを通すので、ちゃんと雫さんの言葉になるというか、誰かの経験のままではない気がしますね。

そう。ままではないし、たくさんの人間が回答した内容を、誰にでも当てはまる“一人”に見えるようにペルソナを構築しなきゃいけないわけで。さらにサウンドのコンセプトやMVのシナリオもあるので、文体にもこだわらないといけないわけじゃないですか。たとえば「阿吽」は普通のラブソングになりすぎないように、ちょっと文学的な表現も入れたりして、告白しきるまでのセリフを一曲にした感じなんです。だからもちろんアンケートは大事なんですけど、アンケートを取ってからも結構長くて大変なんですよね。その“一人”を仕立て上げることがうまくいったと思う曲は歌詞の評判が良いですね。

あと、こっちは「これを書いたつもりなんです」って思っていても、聴き手に伝わってないことってアーティストには多々あって。でも、ちゃんと歌詞が伝わってほしいという気持ちで書いているのであれば、自己満足で終わってはダメだと私は思っているんですね。だから、私としては「わかりやすすぎるかな?」「趣深くなくなってしまうかな?」って感じていたとしても、自分が思っているより直球の表現をすることも心がけていますね。歌詞はかなり客観的に作り上げていきます。少しでも「あー、これは意味が伝わりづらいかな」と思ったら、すぐに変える。ばんばん変えます。

―― マーケティングのために結構エゴサーチもなさるのですか?

めっちゃくちゃします!「ポルカ」でも「雫」でもするし、ハッシュタグも見るし、おもしろかったツイートはすぐファボする。新しいグッズのラインナップを発表したときに「これ買うか迷うけどお金ないからどうしよう」とか「これ高いからさすがに買わないかなぁ」みたいなツイートを見つけたときも、ファボして「買え!」って後押しします(笑)。そして、やっぱり歌詞にはファンの方のTwitterやInstagramがいちばん大事です。超反映している。私にあてたツイートじゃなくても見ています。この子は高校生で、ポルカ以外にこんな曲を聴いていて、今何が悩みなのか、みたいなところも。だから自覚してなくてもみんな、私に結構タイムライン見られていますよ。

―― たとえば歌詞だと、ポルカはどんなタイプのものを求められることが多いと感じていますか?

最近だと、クライアントさんがよく歌詞も曲も例として出してくるのが、アルバムの1曲目「トゲめくスピカ」なんですよね。スピカみたいなポップめな感じで、と言われることが多いです。ファンの方からもこの曲は人気があるので、歌詞がストレートでわかりやすいポップロックみたいなものが、今は求められているのかーって思いますね。

―― 初期でいうと、やはり「テレキャスター・ストライプ」っぽいものを求められることが多かったりしましたか?

そうですね。あれは歌詞単体というより、その当時の邦ロックの流行を取り入れた、繰り返しフレーズのサビと四つ打ち裏打ちのサウンドという曲全体で受けている感じでした。うちはもう本当にデビュー当時から“テレキャスのバンド”ってずっと言われていたので「うるせぇな!絶対にテレキャスより人気の曲を出してやるからな!」って思っていました(笑)。でも今、うちでいちばん人気なのが、映画『スマホを落としただけなのに』の主題歌として書いた「ヒミツ」で、なかなか「トゲめくスピカ」も伸びてきていて、良かったぁ!と思っています。やっぱり代表曲が更新されていくと嬉しいですね。

―― ポルカドットスティングレイの結成から5年間で、歌詞面の変化を感じるところはありますか?

代表曲の変化にも表れているように、だんだん歌詞がわかりやすくなっていますよね。昔はまだその塩梅がわからなかったから、格好つけたい曲なら、全然意味がわからないけどなんとなく響きが格好良いだけの歌詞とか書いていたんですね。でも最近、格好つける曲だとしてもちょっとはメッセージが伝わったほうが良いなって思い始めて。デビュー当時なら、今作の「FICTION」みたいな曲に対して、もっとわけのわからない歌詞を書いていたと思うんですよ。でも今回はなんとなく意味が伝わる歌詞にしてみまして。より受け手の気持ちを考えるようになったのはひとつの変化ですね。

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