僕がいちばん救われたのって“メンバーの嘘”だったんですよね。

―― ここからは新曲「素晴らしき嘘」についてお伺いしていきます。ドラマ『知らなくていいコト』主題歌として書き下ろされたこの曲ですが、制作するにあたり、ドラマサイドの方から具体的な希望などはありましたか?

とくになかったかな。ドラマのストーリーを教えていただいて、この作品で伝えたいこととか、今の時代だからこそこういうドラマを作る理由とか、そういうものをいろいろディスカッションしました。物語は、週刊誌の記者が主人公で、いろんな真実を暴いていくわけですけど、実は自分自身も暴かれたくない真実を抱えていて、その葛藤とともに成長していく女性で。僕は、週刊誌や暴かれたくない真実というところから“嘘”というものに対して、すごく向き合って歌詞を書きましたね。

―― その“嘘”というワードを核にどのように広げていったのですか?

まず今の世の中はとても表層的だと思って。面と向かって話したり、電話で話したりすることが少なくなってきて、文字でのコミュニケーションが多くなってきているじゃないですか。そして表面上、SNSでいろんな文字が飛び交うなか、その言葉の奥にある想いまではなかなか汲み取りづらい。相手の本心や意図をわかろうとする気持ちもかけてきている気がする。じゃあ僕にとっては、その“言葉の奥にある想い”とか“嘘”って、具体的になんだろうというところを考えていきました。すると、僕がいちばん救われたのって“メンバーの嘘”だったんですよね。

―― どんな“嘘”だったのでしょうか。

活動休止していたとき、お医者さんには声は休めば治ると言われていたので半年くらい休んで、それから久しぶりに4人でスタジオに入ったんですけど、前以上に声が出なかったことがあるんですね。それで僕としては「休めば治るって言われたのに、むしろ悪くなっているということは、これはもう治らないんだろうな」って絶望的な気持ちになってしまって。でもそのとき、メンバーがどうだったか思い出してみると、みんな不安や焦りがあっただろうし、家庭を持ったやつもいるから「30代も後半に向かっていくのに、どうやって食わしていこう」って悩んだりもしているはずなのに、まったくそういうものを見せずにひょうひょうとしていたんですよ。「大丈夫か?本当に続けられるのか?」って突き詰めるわけでもなく…。それがすごく優しい違和感だったんですよね。

スタジオも2時間取っていたんですけど、もう10分とか15分ぐらいで「じゃあこれぐらいで!今日は終わろうぜ!」みたいな。で、最近観ているテレビの話とか、他愛ない話をしてくれて。なんか…救われました。もう30年も友だちとして付き合っているから、それが嘘で、こいつらの優しさなんだなって僕にはわかるんですよ。僕を傷つけないようについてくれている嘘。そこにこれまでの絆を感じたし、目の前の事実だけが真実じゃなくて、その奥にある想いも真実なんだなって。だから自分たちが活動休止中に見つけた“誰かを救う嘘があること”や“表面的なものだけが真実じゃないこと”を、この『知らなくていいコト』というドラマとともに世に伝えていけたらいいなという気持ちで作った曲ですね。

photo_02です。

―― ドラマのなかでは、主人公の過去を知り「無理」だと本音を告げて別れた元カレ(野中)と、過去を知りながらも優しい嘘をついていた元カレ(尾高)、二人の男性が登場しますが、隆太さんはこの対照的な二人をどのように捉えますか?

難しいですよね。これはそれぞれの価値観の問題なので、どちらが良い悪いっていうのはないと思うんですけど…。でも僕もやっぱり正直に言っちゃうかなぁ。ドラマの場合は、主人公の父親が犯罪者で捕まっていたわけですが、そこはあまり気にしないと思うんですね。ただ、自分が本当に嫌だなと思う事実を知ってしまったら、引き下がれないというか。自分の気持ちを優先するタイプかも。本当はね、バンドのボーカリストとして尾高さん(柄本佑)のように「優しい嘘で守ります」とか言いたいんですけどね(笑)。でも、野中さん(重岡大毅)の「ごめん、無理だ」と言ってしまう人間臭さも好きだなと、僕は思います。

―― 歌詞の面では、まず冒頭の<絵に描いたような月に 雲のインクがこぼれた>という描写で、映像が頭に浮かんでくるのが素敵です。

あ!そうだそうだ、そこはドラマサイドの方にひとつ「幻想的、抽象的」というリクエストをいただいていました。僕も最初はわりと具体的な言葉を書いていたんですけど、たしかに幻想的な歌詞のほうがこの曲の雰囲気にも合っているなと思って。言葉で理解するというよりも、おっしゃるとおり、まず光景を頭に浮かべてもらえるように作ったんですよね。意外とこういう表現ってしてこなかったので、書いていて面白かったですね。

―― 2番に綴られている<正直さばかりが 正しいわけじゃないこと みんな分かってるのに 正論を求めるんだ モラルでさえ押し付ければ ナイフのように誰かを傷つけるんだ>というフレーズは、まさに、毎日SNSなどで正論が飛び交っている現代社会の状態ですね。

そもそも僕はSNSがあまり好きじゃないかもなぁ。というより、コメント欄かな。そういうところに正論や批判を書き込むこと自体が恥ずかしいと思うんですよ。陰で書いているのと同じことを、表で堂々と言えないのであれば、本人もきっとわかっているんですよね。あんまり良いことをしてないって。だから、世の中に飛び交う言葉であろうと、結局はそのレベルのものだろうと捉えています。価値がないというか。でもそういう何気なく書いたコメントが、いろんなメディアを通して正論としてピックアップされることには違和感を覚えますね。とはいえそれが重要視されているのも時代の流れだし…。難しいなぁ。

―― 隆太さんはご自身のエゴサーチとかなさりますか?

結構するほうですね。良い意見ばっかり見る(笑)。でもやっぱり自分に対するネガティブな声っていうのは気にしますよ。もちろんそれを大多数の言葉としては捉えないですけど、一人にでも嫌われるのって辛いじゃないですか。たとえばクラス内でたった一人、自分のことを陰で「めっちゃ嫌い」といっているひとがいたら、気になって学校に行きたくなくなったりもするじゃないですか。それと一緒ですね。どうしても「こう書かれるのは自分が悪いのかなぁ」って思っちゃうし。

―― でも嫌な言葉を目にして辛くなるとわかりつつ、エゴサできるのは強さでもある気がします。

まぁ…辛くはなるけど、あんまり繊細じゃないからな(笑)。あと、よくそんなことまったく気にしてないように勘違いされるんですけど、僕はやっぱり好かれたいんですよ。でもそれは“嫌われたくない”とも少し違って。僕の周りで本当に好かれているひとって、どちらかというと僕が「それ言ったら嫌われるんちゃう…?」って思うようなこともちゃんと言えるんですよね。だから僕自身も、音楽のなかでそういう言葉を発したいし、飾らない言葉でいたいなと思っていて。その自分を好かれるとすごく嬉しいんですね。で、そういう自分が好かれているかっていうのを、エゴサーチするわけです(笑)。

―― そしてサビ部分ですが、1番では<素顔と仮面を 無意識にすり替えてゆく>と綴られていたのが、終盤では<素顔も仮面も 二人にとっては真実>と希望的に響くフレーズに変わっていますね。

そうそう。ここはもともとどっちも同じフレーズを繰り返していたんですけど、たしかレコーディング中に歌いながら変えたんですよ。やっぱり歌詞のなかにも葛藤があって、たとえば1番のサビでは<この世界を敵に回しても 奪えはしない>と言いながらも、まだどこか主人公のなかで確固たる想いはなくて。でも、本当に大切なものを確かめて確かめて、歌が進むにつれどんどん熱を帯びていくというか。成長している姿がわかるようにしたくて言葉を変えたんですよね。

あと1番は、世の中に向けて<素顔と仮面を 無意識にすり替えてゆく>と歌っているんですけど、最後はより二人の世界にフォーカスさせたかったのもあります。さっきお話した、活動休止中のメンバーの嘘も、僕ら4人にだけわかる真実なんですよね。世の中にどう思われようと、僕らにとっての真実があればそれで良い。そういう想いを強く伝えたいなと思って<素顔も仮面も 二人にとっては真実>というフレーズを書きました。

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