多分“プライド”って、自分で作っている一番デカい壁なんですよ。

―― ここからはさらにニューアルバム『SICK(S)』についてお伺いしていきます。まず今回は、ニュースリリース用のみならず、公式HPでとても長いコメントを出されていましたね。

あれでもまだ足りないくらいでしたねー。あの声明が、良い予告編になればいいなと思いまして。誰かに書いてくださいと言われたわけではなく、もともとアルバムを作っていた時点でメモ帳に綴っていた想いではあったんです。それをみんなにどこかで話せればよいなと思っていたんですけど、リリースを発表した3月から5月まで意外とライブの予定がなかった。じゃあコメントで出せばいいのか!と。でもニュースサイトに掲載させていただいたのは“From田邊俊一”と言い切れる感じのものではなかったので、少し時間をおいて、オフィシャルHPからもより語り尽くしたものを出させていただきました。

―― あのコメントから、ファンの方への田邊さんの誠意をひしひしと感じました。

今回は、楽曲に詰まっていることはもちろんなんですけど、ちゃんと自分たちの血が通っていることをよりみなさんにお伝えしたいと思ったんですよね。そこはチームでも共有していました。それなら言葉に勝るものはないんだろうなって。なんかひとつひとつ、Twitterのセルフレビューもそうですし、長い声明文もそうなんですけど、自分の中ではもう歌詞の一部であり、もっと言えば“あなた”という存在に向けて書いた恋文のような感覚です。

ブルエンにとってはそういうことが大事なのかなって。ちゃんと膝を突き合わせて言葉を届けることを、僕らが忘れたらダメだって思うんです。もちろんそうじゃないけどカッコいいバンドもいっぱいいます。雲の上の存在で、手が届かないからカッコいいとか。でも僕らは、朝4時に酒を呑んでベロベロになっているときの本音を大事にしているみたいなバンドなので(笑)。そして、それをこの大きな規模でやらせてもらっているということが、ありがたいんですよね。大きいフェスでもデカい会場のワンマンでもブルエンらしく言葉を届けられる。そういう自信がついてきたからこそ、今回はいっそう大事に想いを伝えたいなぁという気持ちがありますね。

―― また、コメント内では「誰かのナンバーワンとして死ねればそれでいい」という考えが「このままじゃ死ねない」という考えに変わったという本音も印象的で。

photo_02です。

うん、もったいないなぁ!って。僕らは今年で活動15周年なんですけど、何よりも今バンドの状態が一番良いんですよ!言いたいことを言い合えるようになったし、4人ともお互いがそれぞれの弱さを理解できるようになったし、それぞれの弱さをちゃんと受け止めたいし、なんとかしてあげなきゃって思えるようになったから。そうしたら不思議と、ありえないような素晴らしい体験をさせていただいたりとか、いろんな良いお話をいただけるようになって。あと曲もめちゃくちゃ出来ているんですよ。もう昨年12月からの3~4ヵ月の間で200曲ぐらい。

―― 200曲!

しかもどの曲も主力クラスなんです。きっと今年はすごい1年になるだろうなって思っています。だからこそ「こんなにも良い状態のバンドにもっと出逢ってもらいたい!」と、いてもたってもいられなくなって、今回の6曲が生まれたんですよね。僕らは相当疲弊しましたけど、その分、アルバムが出来上がったときの喜びはひとしおでした。今、一番の状態のまま召し上がれ!という気持ちでいっぱいですね(笑)。

―― そんなアルバムの入り口となるのは「PREDATOR」です。歌詞にはこれまでのブルエン楽曲より鋭い言葉が使われていますね。

そうですね。これは昨年の夏に出来た曲で。僕らは同じ年の10月から放送されていた『BANANA FISH』というアニメの主題歌を担当させていただきまして。それが「FREEDOM」という曲だったんですけど、実はその双璧だったのが「PREDATOR」なんです。アニメの世界観も投影しつつ、自分のなかで「自由とは何か」「今、自分が置かれているこの現状を抜け出したい」と思って同時に作ったのが「FREEDOM」と「PREDATOR」だったんですよ。

そしてその2曲を向こうの制作スタッフの方に聴いていただいて、めちゃくちゃ悩んでいただいて、最終的に「FREEDOM」が選ばれたんです。一方で「PREDATOR」も、絶対に近いタイミングで出したいよね、という話はチームでしていて。だから、今回は満場一致でアルバムの入り口を飾る曲に決まりました。あと、冒頭でちょっとブルエンの新章に向けた感じもありますね。でも、1曲目の鋭い感じでみなさんに「あれ!?こういう新しい感じなの!?」と思わせつつ、2曲目の「ワンダーラスト」で「あ、やっぱりこれこれ!」みたいな(笑)。

―― タイトルの「ワンダーラスト」とは“旅心”を意味する言葉ですか?

そうそう。いつだって僕らは旅人である、みたいなことを歌いたかったんです。これは自分がランニングをしているときに思いつきました。ひたすら走っていて、なんかもっとテンションを上げたいなぁ…と考えていたら、このメロディーが浮かんできまして。ダッシュで家に帰って録音しましたね。

―― 歌詞に<プライド捨てても 夢は捨てるな>というフレーズがありますが、3曲目「ハウリングダイバー」にも<やつれた不眠症のプライドを 奮い立たせる言葉探した>というフレーズがあり“プライド”というワードで通じていますね。

そうなんですよ。実はブルエンの曲って結構ね、サブリミナル的に大事にしているワードをいろんな曲に散りばめていたりするんです。だから1曲の歌詞で完結するというよりかは、こうやっていろんな歌詞が繋がっているものが多くて。その手掛かりとして「ワンダーラスト」と「ハウリングダイバー」はカタカナのタイトルで並べてみたり。そして「ワンダーラスト」もこのアルバムの先の何かに繋がっているかもしれないし。そういう面白さもあるんですよね。今回、どちらの歌でも綴っている“プライド”は、自分が固持しているものでありつつ、それが邪魔をするときもあるものだなと思います。

―― 田邊さんにとってはその“プライド”とはなんだと思いますか?

やっぱり“経験”という名の“プライド”ですね。俺らはメジャーに5年もいさせてもらっているし、バンドとしては15年もやっているし、どうしたってもう新人じゃない。だけど、まだここから進まなきゃいけない。だけど、ここまでやって来たことを捨てて、新たな要素に手を出すのはどうなんだろうか。そういう葛藤がすごくあったんですよね。とくに昨年の1年間は。だからこそ「ワンダーラスト」でも<プライド捨てても 夢は捨てるな>というフレーズが自然と出てきたんだと思います。

まぁそれを歌詞に書けたということは、ある程度は吹っ切れたのかもしれないですね。多分“プライド”って、自分で作っている一番デカい壁なんですよ。でも「意外とこの壁、低いじゃん」とか「ほんの少しハードルを下げるだけで、飛び越えられるんじゃん」とか俯瞰で思えるようになって。あと、周りはそこまで気にしてないというかね。そんなことで悩んでたの!?くらいの感覚だったりするわけですよ。そう気づけたときに「そうか、俺ってもっと楽に考えてよかったんだなー」って、今回の曲の歌詞も出てきましたし、バンドの状態が良くなっていきましたね。

―― なるほど。歌詞面でも、これまで支持されてきた“ブルエンらしさ”という“プライド”を守ろうとすると、縛られてしまう面もありそうですね。

それが結構ありました。ブルエンの代表曲とかは「とにかくアツく行こうぜ!俺がついているから!」みたいな感じだったので。でも昨年の「FREEDOM」からやっと辛辣なものを歌ったり、冷たい言葉を使ったりできるようになって。今回だと「幻聴」の<本当は知っている「手の鳴る方へは何もない」>とか。あえて<何もない>という絶望を書いたんです。それによって、それでも何かを信じて一緒に<暁光>に向かって歩いていこうというメッセージを際立たせるというか。

―― 闇を濃くしたからこそ、これまでの「とにかくアツく行こうぜ!俺がついているから!」という“ブルエンらしさ”の光も伝わってくる気がします。

改めてそう思いますね。あとブルエンは「こっちに道があるからおいで」じゃなくて「こっちに道があるかもしれないから、一緒に行ってみないか?」なんだろうなって。「こっちに道あるよ!」なんて言っちゃったら無責任にもなりますからね。そうじゃなくて、もしそこに道がなかったとしても「あー、ダメだったね。じゃあまた一緒に戻ろうか!」って言えるのが俺らだなって。その芯さえブレなければ大丈夫だと思えたとき、僕はすごく楽になれました。

―― 闇が強くても、光が強くても、ブルエンの楽曲はいつも“あなたの味方でありたい”という気持ちが強いのではないでしょうか。

ですね。支えになりたいんです。悲しい話ですけど、現実って助けられないことのほうが多いじゃないですか。人は死んでしまうし、人を死なせてしまう。そういうことをバンドマンとして体感して、無力な発信者であることも実感して。でもだからこそなんか…自分はこのままじゃ死ねないという想いでいっぱいですね。もちろん今でもブルエンの音楽を励みにしてくれているひとはいると思うんですけど、もっと僕らの音楽でなんとかして救われてほしいし、報われてほしいんです。そう考えるとより伝える術を変えていきたいし、今あるものを増幅していきたいし、歌も上手くなりたい。正直今、メジャーデビューのときよりすごく練習しているし、いろんなことをちゃんと考えて活動していますね。

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