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第16回 コブクロ「桜」
 「小渕(こぶち)と黒田(くろだ)でコブクロです」。もはや全国区になった今も、彼らはそう挨拶する。つまり、基本の基本を忘れない。そして彼らのライヴはとことん楽しい。二人の歌が心を震わせるものであるのはもちろんだが、トークも楽しい。その辺の芸人よりよっぽど彼らのほうが面白い。その際、小渕健太郎がボケであり、黒田俊介がツッコミなのだけど、神様はよくぞこの二人を出会わせたものだと心の底から思う。
トークの楽しさを強調し過ぎたかもしれないが、もちろん主体は音楽。当たり前だ。大阪出身らしく、黒人音楽など、ルーツ・ミュージックに根ざした玄人も唸らすこだわりも示す。でもトークの楽しさが加わることで(しつこくてスミマセン)身も心もほぐされ、聞こえてくる音楽が身体に染み込み易くなる、というのが彼らのライヴの最大の特徴なのだ。
 こうしたパフォーマンスは、そもそもは路上で鍛え上げられたものだろう。アマチュア時代の二人は、毎週土曜の午後8時から、大阪・天王寺駅前の路上で歌っていた。傍らにはカセットに録音した自分達のテープ。3曲入りで500円。立ち止まり、歌を気に入ってくれた人達が買ってくれた。500円という価格は、他のストリート・ミュージシャンより高めの設定だ。でも、それが彼らのプライドだった。
このテープには、すでに「桜」が入っていた。小渕健太郎と黒田俊介がコブクロを結成する上で、非常に重要な作品なのだが、ここで時間を少し戻すことにしたい。まだ彼らがそれぞれ別々に路上で歌っていた頃(場所は堺東の商店街)の話。でも意気投合し、一緒に歌う時のレパートリーとして特別に作られたのがこの歌だった。

「桜」は二人に、コブクロとしての最初の“成功体験”をもたらした

 その際、小渕が黒田の歌声に惚れ、そこからインスパイアされた部分が大きい。「イントロの“♪ウ〜ウ〜ウ〜”のハモリのところとか、すでにその頃からあった」。小渕は当時を振り返り、そう話す。
彼はかなり音楽的に正確に人の曲をカバーするのが好きだった。それがもちろん、今の彼の重要な財産だ。「きっと当時は、そのカバーの経験をすべて引き連れて、この1曲に叩きつけるぜくらいのことだったのかもしれない」。
歌は好評だった。当時の彼らはオリジナルというよりカバーを主体に歌っていた。しかし「桜」を歌うと、より多くの人達が足を止めた。僕だってつい足を止めて聞きたくなったはずだ。「桜」は二人に、コブクロとしての最初の“成功体験”をもたらした。ただこの記念碑的作品はリリースされることもなく、ずっと温められていたのだった。
ジャケット画像です。 「桜」
2005年11月2日発売
ワーナーミュージック・ジャパン
歌詞を見る。 コブクロ 小渕健太郎と黒田俊介によるポップデュオ。1998年9月結成。2001年3月「YELL〜エール〜/Bell」でメジャーデビュー。美しいメロディーラインとハーモニーで「蕾(つぼみ)」「桜」「ここにしか咲かない花」などが大ヒット。老若男女に愛される国民的デュオの地位を確立した。
 コブクロがお茶の間でも知られるようになったのは2005年のこと。ドラマ『瑠璃の島』の主題歌「ここにしか咲かない花」をリリースした時だった。歌は大ヒットして、彼らはさらなる自信を得る。
だが、ここからが勝負。そんな時、「“今しかない!”って言ったの覚えてる」。黒田がそう回想するように、「桜」をリリースするなら今しかない、というタイミングが訪れる。年末の紅白歌合戦でも「桜」を披露する。
2003年の森山直太朗の「さくら(独唱)」以来、“桜ソング”というのがひとつのジャンルのようにもなっていた。パッと咲いてパッと散るあの花の切なさに、春を迎える主人公の心境を重ね合わす内容のものが主で、日本人の心情からいって歌にし易いテーマであったのも流行の要因だった。
そのなかでコブクロの「桜」には、どんな特色があったのだろうか?まず言えるのは、通常“桜ソング”というのは冬の終り頃にリリースされるのに、前年秋の11月にリリースされたことである。“季節外れのタイミング”で世の中に出ていった。

「バラバラともいえるし、この順番でしかあり得ないとも言える」

 ここで歌詞を見ることにしよう。この歌は「桜」というタイトルにも関わらず、この花以外のことにも言及しているのが特徴的だ。冒頭に出てくる“名もない花には”からしてそうなのだ。ここが他の“桜ソング”とは異なるところだろう。ほかの歌では主人公の頭上に圧倒的な存在感として桜が在る。
“冬の寒さに”とか“土の中で眠る命”とか、未だ春の兆しすら感じられないフレーズも多い。でも、この歌は秋から冬を経て、春へと歌い続けられることでヒットした。接する季節により、親近感の湧く部分が変化する性質がある。考えてみたら、ユニークな歌なのだ。
最初期の作品であり、その後の楽曲より未完成な部分がある。いや、未完成というか、何の束縛もなく作った結果の自由度が高い。そのあたりは、かつて小渕に質問した時にも自ら指摘していた。フレーズとフレーズに関連性がみとめられない箇所もある。イメージ詩のようでもある。「確かにバラバラともいえるし、この順番でしかあり得ないとも言える」。小渕はそう言いつつ、「でもだからその時々の気持ちでうたえる歌なのかもしれない」と続けた。
「桜」という、限定したテーマでありつつも、様々な角度で様々なイメージが差し込んでくるのがこの歌の魅力である。だから我々は、聴き飽きないのかもしれない。
INFORMATION

ジャケット画像です。
通算8作目のオリジナルアルバム
「One Song From Two Hearts」

2013年12月18日発売
価格:3,150円 (税込)
WPCL-11686
<収録曲>
1. (Are you all set?)
2. One Song From Two Hearts
3. 紙飛行機
4. リンゴの花
5. ダイヤモンド
6. SPLASH
7. 未来切手
8. モノクローム
9. あの太陽が、この世界を照らし続けるように。
10. GAME
11. 流星
12. Blue Bird
13. LIFE GOES ON
14. 蜜蜂
15. 今、咲き誇る花たちよ
アマゾン画像です。
itunes画像です。

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