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LIVE REPORT

GLAY ライヴレポート

【GLAY ライヴレポート】 『GLAY HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost Hunter-』 2023年12月3日 at 日本武道館

2023年12月03日
@日本武道館

“19周年もそうだったけど、29周年のGLAYのライヴも変な曲しかやらない”と、リーダーのTAKURO(Gu)は自嘲気味に語っていたけれど、変かどうかはともかくとして、独特なセットリストだったことは間違いない。そこには「HOWEVER」も「BELOVED」もない。多くの人が知る、GLAYを代表するミディアムナンバーは終ぞ演奏されることはなかった。アップチューンにしても「Winter,again」も「生きてく強さ」も「春を愛する人」もなかったし、GLAYライヴの定番と言える「彼女の"Modern..."」も「SHUTTER SPEEDSのテーマ」もない。辛うじて...と言うべきか、アンコールで「誘惑」と「SOUL LOVE」という、GLAYのシングル売上ランキング2位、3位の楽曲は披露されたものの、そのアンコールを隠して、さほどGLAYのことを知らない人に、“このセットリストは誰のコンサートのものでしょうか?”と訊いても、おそらくGLAYの名前は出てこないのではないのではないか。そんなふうに思うライヴであった。M8「Lock on you」、M12「Believe in fate」、M15「Young oh! oh!」などは、いずれもシングルのカップリング曲で、初めてアルバムに収録されたのが『rare collectives』シリーズであることを考えると(それぞれ順にvol.3、vol.1、vol.2に収録)、まさにレアなライヴ、レアな全国ツアーだったと言える。

“レア=rare”。言うまでもなく、“珍しい”“滅多にない”という意味である。確かに前述したM12、M15は初出が1990年代後半だし、オープニングで披露されたM1「3年後」は1998年発表の4th『pure soul』の収録曲であって、発表された当時ならいざ知らず、オリジナル楽曲が優に300を超える今のGLAYでは演奏されること自体が珍しく、滅多にないことは自明である。だが、その珍しく、滅多にないことが、観ているこちら側にいい緊張感を与えてくれたことも、これまた間違いなかろう。とりわけM1は、いい意味で観客の想像を裏切ったと思う。ミドル~スローテンポ。シューゲイザー的ギターサウンド。メンバーの背後のスクリーンにはオーロラと思しき映像。スポットライトは廃され、ステージ上のメンバーは逆光のためシルエットだけが浮かび上がっている。その僅か数分前。場内の灯りが落とされ、SEが始まった時に大きく鳴り響いた歓声はまったく聞こえてこない。そればかりか、約1万人のオーディエンスの動きがピタッと止まっていた。4thアルバム『pure soul』ではラストの「I'm in Love」の前に置かれ、個人的には比較的地味な印象があるナンバーだが、“なるほど、こういう使い方もあるのか!?”と思わず膝を打った。ナイス選曲であり、ナイス位置である。そのM1から、M2「棘」、M3「デストピア」とアッパーロックチューンへとつなげるさまは、優れたDJプレイの如く。TERU(Vo)のシャウト“武道館、アツくいこうぜ!”とともに、一気に会場のテンションを上げていく。さすがに百戦錬磨のライヴバンドである。緩急の使い方を心得ている。

M4「海峡の街にて」を“函館から東京へ出てきた頃の切なさを感じてウルッとくる”とTERU は説明していたが、それに続く、新曲以外のナンバーでは、こちらも少し回顧的になった。M5「Missing You」やM8で、HISASHI(Gu)はエッジーに、TAKUROはワイルドにギターを鳴らす両ギタリストの姿に、“15年、20年経つと当たり前のように貫禄が増すものだなぁ”と思わず目を細めたこともそうだし、スクリーンに映されたM6「生きがい」の歌詞に思わず唸り、その内容を噛みしめた。《許されぬ過ちも どんな出来事も/振り向いたなら 懐かしき日々》から始まって、《愛する事と憎むことは/つまり構成してる物質は同じ事と気づきながら...》や、《満ちたりてゆく事のない人の世は/命くち果ててゆくまでの 喜劇 そのものだろう》と歌われる内容はかなり哲学的。TAKUROの歌詞はむしろ若い頃のほうが老成したものだったことを思い出す。

それは、音源としては未発表のM9「Beautiful like you」のあとで披露されたM10「STREET LIFE」も同様であった。《裏切りや悪意や妬みに 今日もまた誰か晒されている/頼りの神も失業中 人生ってヤツは》。GLAYと同世代のバンド、特にいわゆる“ビジュアル系”と言われるバンドで、歌詞に“人生”という言葉を入れる人たちは、GLAY以外にほとんどいなかったと思う。改めてGLAYのバンドの作風的な特徴を振り返ることができた。GLAYの楽曲には人生を歌ったものがいくつかあるが、これはTAKUROが最も影響を受けたと公言しているThe Beatlesの「In My Life」「A Day In The Life」などが関係しているのだろうか──そんなことも考えた。M10は「BEAUTIFUL DREAMER」と両A面シングルとして2003年に発表された楽曲。しかし、「BEAUTIFUL~」がライヴの定番となっている一方で、M10はそれほど頻繁にライヴで披露されることはなかったように記憶している。そんな楽曲を久しぶりに聴いたから、楽曲に対する想いが浮かんできたのだろう。その意味でも、セットリストにレア曲を多く持ち込む今回のようなスタイルのツアーは、やはり意義深いものであると痛感した。場内のスクリーンに歌詞が映し出される演出には賛否あるようだが、GLAYのような歌詞にも重きを置いているバンドには絶対にあったほうがいい。これからも続けていってほしいものである。

こと演奏面に話を絞ると、最も印象に残ったのはJIRO(Ba)のベースプレイだ。本人曰く“お決まりのフレーズではなく、新しい要素を入れたいと思った”ということで、16thアルバム『FREEDOM ONLY』から、実にいいうねりを伴った演奏を聴かせているのはファンならばご存じかと思うし、その彼の向上心が前回と今回のツアータイトルにも通じる「THE GHOST」という、印象的なベースラインが楽曲全体を引っ張るナンバーを生み出したこともよくご存じだろう。当日、筆者が書き殴っていたノートを見返すと、M4「海峡の街にて」、M7「刻は波のように」、M11「Pianista」で“JIROがいい!”と感嘆符つきで綴られていた。M4はアウトロ近くでギターが比較的おとなしくなるところにおいて、ベースが存在感を出すことで楽曲のテンションを維持。M7では1曲の中でピック弾きと指弾きを使い分けてニュアンスを表していた。そして、M11はベースの音符が細かいため、JIROの両腕は実に忙しなく動くものの、グルーブは決して損なわれてはいない。ベースがリズムとメロディーを支えるバンド内での重要なポジションの楽器であることは言うまでもないが、それを生のステージで実感させられたのはいったいいつ以来だろうと思うほどに、いずれも魅力的なプレイだった。ちなみに、M4はシングル「HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-」、M7とEP『HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-』収録のナンバー。2023年発表のブランニューな楽曲であったわけで、ここからもGLAYは、未だ成長が止まない、現在進行形のバンドであることも分かった。

もっとも心打たれたのは、アンコールのMCでHISASHIがTAKUROに“死ぬまでGLAYをやらないか!”と告げた場面であったことは、この日、会場にいた人たちは全員、同意してくるのではなかろうか。そもそも彼は他のメンバーに比べて、激しくオーディエンスを煽るようなパフォーマンスを見せるほうではなく、どちらかと言えばクールに演奏する姿を見せつけるタイプだという印象があるのだが、それにしてもこの日は動きがおとなしめに見えた。今になって思えば...という話だが、誤解を恐れずに言えば、ちょっと元気がないようにも感じていた。それも、そのアンコールでの彼のMCで合点がいった。アーティストの訃報が多かった2023年。HISASHIは“どんな顔をしてギターを弾けばいいのか?”と逡巡していた。特にこのツアーが始まる直前と始まってから仲の良かった先輩バンドマンが相次いで逝去したことに対しては、相当に戸惑ったことは想像するに難くない。あえて口にしなくとも、ずっとGLAYを続けていくことにHISASHIも、もちろん他のメンバーも疑いはないだろう。だが、今回、1万人のオーディエンスの前で堂々と“死ぬまでGLAYをやらないか!”と言いきったのは、HISASHIの並々ならぬ決意があったからだと思う。グッと来た。そのあとで、観客と一体になって歌われたE2「SOUL LOVE」を含めて、強く記憶に刻まれたシーンであった。

撮影:岡田裕介/取材:帆苅智之