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GLAY ライヴレポート

【GLAY ライヴレポート】 『HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost of GLAY-』 2023年6月11日 at 東京ガーデンシアター

2023年06月11日
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いつだったか、どの作品だったかは忘れてしまったけれど、以前にGLAYの音源を聴かせてもらった時、その作品内にとても良いメロディーの楽曲があって、“何でこれをシングルにしなかったんだろう?”と少し訝しく思ったことがある。それをインタビューでリーダー、TAKUROにストレートにぶつけてみると、彼は力強く、以下のように言い放った。“曲はなんぼでもできる!”。こちらからは満点に近い出来栄えに思える曲も作者にとっては及第点。音楽制作のプロフェッショナルとしての飽くなき探求心、その凄まじさをまざまざと感じたものである。

実はGLAYの作品にはしばしばそういうことがある(冒頭で“忘れてしまった”と書いたのは、そういう体験を何度かしてきたので、最初にそう思ったことを忘れてしまった...というのが正しい)。近いところでは最新シングル「HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-」もそうだ。ここに収録されている「海峡の街にて」も相当に秀でた楽曲ではある。表題作であっても何らおかしくないほどにポピュラリティーは高いと思う。しかしながら、タイトル曲でないだけにメディアで流れることはあまりないだろう。埋もれてしまったと思わないまでも、ファン以外が手軽には聴けないのは個人的にはちょっともったいないと思っていたりするのが正直なところだ。

来年デビュー30周年。ここまでシングル61作品、オリジナルアルバム16作品を世に送り出してきたGLAYだけに前述したような楽曲は、それこそなんぼでもある。『HIGHCOMMUNICATIONS TOUR』はこれまでライヴであまり演奏されてこなかった楽曲を披露するツアーであると言ってもいい。TAKUROはMCで“光が当たらない曲、影のような存在の曲に出てきてもらった”と言っていた。“The Ghost of GLAY”のサブタイトルは、もちろん新曲「THE GHOST」にもかかっているが、TAKUROが語ったような意味も含まれており、メンバーは過去にも増してマニアックなライヴにしようと考えたと伝え聞いている。最終日のセットリストを見返しても、新曲「THE GHOST」「限界突破」以外のシングル表題曲は「JUSTICE [from] GUILTY」「BEAUTIFUL DREAMER」「SOUL LOVE」。「恋」「黒く塗れ!」「DOPE」もシングルで発表された楽曲だが、それぞれ順に「G4」「BLEEZE 〜G4・III〜」「G4・2020」の収録曲であって表題作ではない。それ以外の楽曲は「pure soul」と「THE FRUSTRATED」はオリジナルアルバムのタイトルチューンでもあるのでそれなりに知名度があるかもしれないが、他はマニアックと言ってもいいナンバーばかりだ。

一般的にはあまり知られていない、マニアックな楽曲が多いとは言っても、楽曲の本質がマニアックというわけではない。TAKUROの言った“光が当たらない曲、影のような存在の曲”は、即ち一般リスナーが見向きもしない地味な楽曲でも、マニア向けの凝り過ぎた楽曲でもないのである。先に述べたとおり、“どうしてこの楽曲にこれまで光が当たってなかったのだろう?”と、改めてちょっと不思議に思うものばかりだった。その意味で振り返ると、聴きどころは中盤だったように思う。とりわけM7「恋」とM8「氷の翼」。正直に告白すると、筆者はタイトルを見てもどういう楽曲だったか思い出せなかった。だから、新鮮に聴けた...というところもあろうが、ともに良いメロディーを持ったナンバーであることをしみじみと感じた。M7は大らかで柔らかく、M8は切なさ、寂しさを感じさせつつも広がりを持った旋律。それでいて、どちらもしっかりと力強さを内包している。まさに隠れた名曲であった。間違いなくロシアのウクライナ侵攻を意識した選曲であったであろうM9「CHILDREN IN THE WAR」を挟んで、M10「I will~」からM11「pure soul」という流れも実に良かった。とにかく歌詞がいい。TERUが歌い上げるM10、軽快でポップなメロディーのM11と、タイプは異なるけれど、ヴォーカルの主旋律にちゃんと言葉が乗っているから、手元に歌詞カードなどがなくてもおおよそ内容が掴める。久しぶりに聴いたが、口ずさめたフレーズも結構あった。
《身を以て いつか知る 永遠に続く道はない/泣いたって 戻れない 人生に 微笑みを》(「I will~」)。
《賽を振る時は訪れ 人生の岐路に佇む》《ずいぶん遠くへずっと遠くへ》(「pure soul」)。
恋愛を描いた歌詞はもはやノスタルジーでも何でもなくなり、まったくと言っていいほどピンとこなくなった自分だが、こうした人生を綴った歌詞は心に染みるようになってきた。M11は初出から15年以上、M10に至っては4半世紀前の楽曲。今になって思えば、GLAYは若い時分から随分と渋い楽曲を世に送り出してきたとも思うが、時間が経ち、楽曲がいい具合に熟成されてきたのだろう。バンドの表現力が楽曲に追いついたという見方もできるかもしれない。その観点から言っても、『HIGHCOMMUNICATIONS TOUR』は十二分に意義深い。リスナー、バンドがそれぞれに積み重ねた日々を実感できるツアーでもあるのだと思う。

...と、ここまでの物言いだと、このツアーはファン向けの回顧的なものだったと思われかねないような気もしてきたので、断固としてそれだけではなかったことを強調しておく。この日、GLAYが新たなバンドグルーブを手に入れたと実感するシーンが多々あった。それは、新曲「THE GHOST」の効果と言っていいものだろう。「THE GHOST」は作者のJIRO曰く“J-POPの概念を捨てた曲”だという。近代ディスコミュージックの要素も取り込んだ、GLAYにとっては明らかに新種と言えるナンバーである。JIRO以外のメンバーはこの曲を初めて聴いた時に絶賛し、シングルのタイトル曲に推したという。TAKUROは“圧倒的にこれからのGLAYを感じる”と言ったそうだ。そうした彼らにとって新たなアンサンブルを、この日まで32本積み重ねることで、バンドは確実にビルドアップしていたのは間違いない。

その「THE GHOST」はオープニングで披露された。ブラックミュージックのノリが新鮮で、とりわけJIROのベースのスラップは、まさにバンドアンサンブルが新たな局面を迎えたことを端的に示していた。注目したのはそのノリがそれに続く既存曲でも継続されていたことである。M2「THE FRUSTRATED」からして、ベースの音がヘヴィになった印象だ。もともとサビまではベースラインが引っ張るようなナンバーでもあるので、相対的にベースが目立っているだけかとも思って聴いていたのだが、そういうことではなかった。M3「Lovers change fighters, cool」でそれを確信する。8ビートの中に独特のうねりがある。 M4「嫉妬」も同様。わずかだが、しかし確実にノリが加味されたということになろうか。古い言葉を使うなら、8ビートの“縦ノリ”に対する“横ノリ”と言って良かろう。それは目視もできた。JIROの身体の動きが違うのだ。肩を交互に前に振り出すような動きがところどころで見られる。もしかすると筆者の勘違いかもしれないと思って、後日、昨年のライヴの映像を見返してみると、この日ほどには揺らいではいなかった。

また、ベースが生み出すノリが変わることで、そこに乗るTERUのヴォーカル、HISASHIのリードギターがより鮮明になったようにも思う。M4「嫉妬」はキャッチーなサビがさらに気持ち良く聴こえるようになり、M5「華よ嵐よ」は艶やかなメロディーがより鮮やかな広がりを見せる。エッジーなギターはいい意味で完全に浮きまくっている。ざらついてはいるがキラキラもしている。ともに存在感がどっしりとしているという言い方もできるだろう。TAKUROのギタープレイもそうだ。ここ数年、ソロワークの成果がGLAYにも反映されてきたが、それがさらに味わい深いものになっていた。中でもM9「CHILDREN IN THE WAR」でのアコギが良かった。前述したような意味合いで披露されたナンバーであろうが、戦争を糾弾するだけでなく、戦争が生み出す悲哀を的確に表現するシアトリカルなアプローチだったように思う。

そんな4つの音が重なり合って生まれる強固なバンドグルーブを、ライヴ終盤まで見せつけられた。ハードでシャープなM14「黒く塗れ!」とM15「DOPE」。メロディアスさとスケール感の大きさを兼ね備えたM16「BEAUTIFUL DREAMER」。ドラマチックかつスリリングなM17「Satellite of love」。タイプが異なるナンバーを並べながら、それらが乖離しないのは、GLAYがGLAYにしかできないロックを堂々と鳴らしているからに他ならない。“50歳をすぎてもバンドってうまくなる”とMCでTAKUROは言っていた。この日の演奏を見れば、その言葉は偽らざるものであったことが分かる。

最後に、GLAYから少し離れた雑感かもしれないが、この日、感じたことをひとつ。コロナ禍で禁止されていた声出しが、このツアーから解禁になっていた。しかしながら、JIROもMCで言っていたとおり、声出しができるかどうか分からない時期にセットリストを組んだため、観客が歌える楽曲は少なかった。本編では、はっきりとそれと分かったのはM6「FAME IS DEAD」くらいだったろうか。そんな中、アンコール2曲目「SOUL LOVE」は完全にオーディエンスと一緒になって歌うことを意図した楽曲だった。コロナ禍でライヴ自体がままならない時、HISAHIがYouTubeで“ドームで歌おう!”とメッセージした楽曲が「SOUL LOVE」であったことを、知らないファンはいないだろう。実際、TERUはサビのほとんどを客席にマイクを向けていた。マスク越しのためか、最初はそれほど観客の声も大きくなかった様子だったが、やはり尻上がりに盛り上がっていく。客席の歌声にTERUがコーラスを重ねるのも良かったのだろう。大いに盛り上がった。個人的に少し驚いたのはその後のことである。明らかに声援が多いし、声量も大きい。本編でもそれなりに“TERUーっ!”とか“JIROーっ!”とか聞こえたが、“今日イチ”は「SOUL LOVE」のあとだった。念願の「SOUL LOVE」がライヴ会場で歌えて嬉しかったとか、ツアー最終日もアンコールとなって一抹の寂しさが込み上げきたとか、その要因はあれこれ考えられるが、しっかりと歌えたから...ではないかと思う。歌ったことが呼び水のようになって、それまで以上に声援が出るようになったではないか。そんな気がする。やはり声出しこそがライヴの肝なのだ。

そのアンコールのMCで11月から再び全国ツアーが開催されることが発表された。『GLAY HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost Hunter-』。声出しも解禁になったことで、“光が当たらない曲、影のような存在の曲”が豊富な『HIGHCOMMUNICATIONS TOUR』と言えども、セットリストには今回以上に皆で歌える曲が増えるだろう。今度はアリーナツアーだ。声援は確実に多くなる。一時期は“不要だ”と非難されることもあった音楽ライヴが、完全に通常モードとなるはずだ。GLAYらしいスケールの大きいエンターテインメントライヴの復活を心待ちにしたい。

撮影:岡田裕介、田辺佳子/取材:帆苅智之

GLAY

グレイ:北海道函館市出身のロックバンド。1988年にTAKURO(Gu)とTERU(Vo)を中心に結成。94年のメジャーデビュー以降、CDセールス、ライヴ動員数など常に日本の音楽シーンをリードし続け、数々の金字塔を打ち立ててきた。21年10月に約2年振りにオリジナルアルバム『FREEDOM ONLY』をリリースし、21年11月〜22年2月にはアルバムを提げた全国アリーナツアー(7箇所14公演)を敢行。22年7月にはGLAYオフィシャルFan Club『HAPPY SWING』の発足25周年を記念したスペシャルライヴ『We♡Happy Swing』の第3弾を、大阪・仙台・幕張の3会場で開催。また、2010年6月に“GLAYがもっと音楽に対して真っすぐである為に”という想いを掲げ、自社レーベル『loversoul music & associates』(16年に『LSG』と改名)およびECサイト『GLAY Official Store G-DIRECT』を発足、17年には公式アプリ“GLAY app”を立ち上げるなど、音楽を通してGLAYがあらゆる可能性にチャレンジしていけるよう、常に独自のスタンスで高みを目指し、邁進を続けている。