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LIVE REPORT

THE PINBALLS ライヴレポート

【THE PINBALLS ライヴレポート】 『Acoustic session Live “Dress up 2 You” 【1部】』 2020年10月3日 at Motion Blue YOKOHAMA

2020年10月03日
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“こんなにしゃべるのは初めてかもしれない(笑)”ーーコロナ禍以降、久しぶりのライヴだったことに加え、観客もバンドも着席というリラックスした雰囲気だったということももちろんあったのだとは思うが、そんなふうにアンコール直前に振り返った古川貴之(Vo&Gu)は、あふれる想いをこれまでにないくらい饒舌に語り続けた。その姿に『Dress up』というアルバムや、そのリリースライヴであるこの日のパフォーマンスに対する古川の並々ならぬ情熱を改めて感じ入ると同時に、そんな古川を彼と同じ熱量で支えるメンバーたちのプレイを目の当たりにして、筆者はTHE PINBALLSが持つロックバンドならではの美しさに胸を打たれたのだった。

THE PINBALLSが9月16日にリリースした『Dress up』は自分たちのレパートリーをアコースティックかつジャジーにセルフカバーした古川曰くリブートアルバムだった。そのお披露目の場所にバンドが選んだのがテーブル席でバンドの演奏のみならず、料理やドリンクも楽しめるライヴレストラン、Motion Blue Yokohamaだ。赤レンガ倉庫という立地も含め、THE PINBALLSが普段ライヴをやっているライヴハウスとは違う大人っぽい雰囲気が漂う中、サポートに迎えた鍵盤奏者とパーカッション奏者がセッション的に繰り広げる軽やかな演奏をBGM代わりに、石原 天(Dr)、森下拓貴(Ba)、中屋智裕(Gu)、そして古川と、いつもの黒いスーツではなく、ボヘミアン風のカジュアルなファッションに身を包んで順々に登場。そして、《What a wonderful world!》という古川の伸びやかな歌声がいきなり観客の気持ちを鷲掴みにしながら、ジャジーにアレンジした「欠けた月ワンダーランド」で本公演は始まった。そこから原曲のスリリングなムードを踏襲したアップテンポの「劇場支配人のテーマ」につなげ、演奏の熱を一気に上げたところで、“めちゃめちゃ気持ち良い!”と古川が快哉を叫ぶ。その瞬間、古川をはじめメンバーたちが完全にペースを掴んだことを確信。さぁ、あとはじっくりと曲を披露していけばいい。“ライヴももちろんだけど、ひとりで練習して気持ち良かったっていうのが一番好き。それをこの美しい場所に持ってこようと思います。堅苦しくならず、リラックスして楽しんでください”と古川がこの日の心構えを語ったあと、バンドはジャジーなアレンジがキマった「沈んだ塔」「DUSK」を披露。“(セルフカバーするなら)絶対カッコ良くしなきゃ嫌だった。でも、(原曲のアレンジを)変えたくなくて。俺の曲、カッコ良いから(笑)。でも、試行錯誤してアルバムを作って、めちゃめちゃカッコ良くなったと思います”と語る古川は自信満々だ。

ライヴは早くも佳境に! アルバム同様、サックス奏者、バイオリン奏者をゲストに迎え、『Dress up』の大きな聴きどころである基本編成以外の楽器とバンドの共演を見事に再現してみせる。もちろん再現だけで終わるTHE PINBALLSじゃない。“バイオリンでロックをやりたかった。その夢が叶った”(古川)とバンドはバイオリン奏者とともにOasisの「Wonder Wall」をカバー。アウトロで繰り広げたバイオリンと中屋のギターのソロの応酬は、この日のハイライトのひとつだったと言ってもいい。また、「way of春風」からつなげたジプシージャズ風のアレンジがすこぶるカッコ良い「毒蛇のロックンロール」では、古川とパーカッション奏者によるツインドラムの熱演も飛び出す! “楽しいね。気持ち良くてしょうがない”という古川の言葉は、観客の気持ちも代弁していたはずだ。続く「アダムの肋骨」で石川が叩いたカホンもそうだが、森下のアコースティックベース、中屋が曲ごとに持ち替えたフルアコースティックギター、セミアコースティックギター、スティール弦のアコースティックギターといった普段とは違う楽器を演奏する3人の姿と、その音色も観どころ、および聴きどころだったことも付け加えておきたい。

“たくさんのミュージシャンの力を借りたので、一回、4人でやらせてください”と古川が言った本編最後の「ワンダーソング」は、古川、中屋、アコベの弦が切れたためエレベに持ち替えた森下、カホンの石原の4人のみの演奏となった。“バンドを思い出した時の気持ちを思い出しています”と古川は語ったが、そのココロは基本編成以外の楽器の音色を、自分たちの楽曲に入れてみたいという動機から『Dress up』を作った結果、この4人にしか鳴らせないアンサブルがあることに改めて気づいたということらしい。それは副産物というにはあまりにも大きな『Dress up』の成果だろう。“いつもメンバーに頼りきって、甘えてしまうんだけど、今日はメンバーがいる中で1人で歌ってみようと思います”とアンコールの1曲目で、『Dress up』に入っていない「片目のウィリー」を古川が弾き語りで歌ったのも何か気づきや心境の変化があったからだったはずだ。“不安がたくさんある中、ここに来てくれたことはすごく嬉しく思います。この気持ちを無駄にしないで生きていきます!”と語った古川をはじめ、THE PINBALLSが『Dress up』を通して得たものを、どう今後の活動に生かしていくのかが楽しみだ。しかし、それはまだこれからの話。今は最後の最後にサポートおよびゲストミュージシャンをもう一度迎え、賑やかに演奏した「あなたが眠る惑星」と、それに対する観客全員の手拍子が作った華々しいエンディングの余韻を味わうことにしよう。

これを1回限りで終わらせてしまってはもったいない。観逃した人も決して少なくなかったはずだ。THE PINBALLSはあくまでもロックンロールバンド。それは重々承知の上だが、機会があったらまた“Dress up”したアレンジのライヴ、ぜひやってほしい。

撮影:かわどう/取材:山口智男

THE PINBALLS

ザ・ピンボールズ:2006年埼玉で結成された4人組ロックバンド。『SUMMER SONIC』など数々のフェスやイベントにも出演し、アニメ『ニンジャスレイヤーフロムアニメイシヨン』第3話エンディングテーマ『劇場支配人のテーマ』が大きな話題に。17 年12 月のミニアルバム『NUMBER SEVEN』をもってメジャー進出。収録曲「七転八倒のブルース」はTV アニメ『伊藤潤二『コレクション』オープニングテーマとして抜擢。18年11月には待望のメジャー1stフルアルバム『時の肋骨』をリリース。荒々しくも歌心あふれる古川貴之のハスキーヴォイスとキャッチーで勢いのあるメロディー、物語のようなファンタジックで印象的な詩世界でロックシーンを揺らす。