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LIVE REPORT

THE PINBALLS

『 「さよなら20世紀」 リリースツアー』

2015年12月04日
@代官山UNIT

1回1回、命を削るようにステージに立ち続けていると言ったら、言いすぎかもしれない。だけど、常に理想を追い求めながら、どこかでこれで最後かもしれないと考え、毎回、自分たちの限界に挑み、ステージの上で完全燃焼しようとしてきたようなバンドだから、ツアーファイナルであるワンマンライヴがこういうライヴになることは当然と言えば、当然かもしれない。それは薄々分かっていたことだった。

しかし、ここまで鬼気迫るライヴになるなんて! ちょうど1年前の1stフルアルバム『THE PINBALLS』のツアーファイナルではライヴをもっと楽しんでいたように見えたが、この日は悲壮な覚悟とともにステージに臨んでいるように見えた。THE PINBALLSというバンドが持つ凄みとロックンロールバンドらしい刹那主義とも言える美学に改めて驚かされながら、古川貴之(Vo&Gu)が終始放ち続けるピリピリとした緊張感が心地良かった。

アニメ『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』に提供した「劇場支配人のテーマ」をきっかけに吹き始めた追い風を感じながらリリースした4thミニアルバム『さよなら20世紀』を引っ提げ、東名阪のワンマン公演を含む全国7カ所を回ったリリースツアー。そのファイナル公演は、『さよなら20世紀』からつんのめるリズムがロカビリーっぽい「ママに捧ぐ」でスタート。そこからは“待たせたな東京! 最高の夜にするぞ!”と森下拓貴(Ba)が雄叫びを上げたきり、ほとんどMCを入れず、ダブルアンコールを含め全19曲を、1時間10分ちょっとでぶっ飛ばした。

THE PINBALLSはTHE PINBALLSだ。他のバンドと比べることにそれほど意味があるとは思わないが、ツアーの集大成とも言えるツアーファイナル、それもワンマンライヴが1時間ちょっとというのは、今の日本のロックシーンの常識から考えると、短いと言えるかもしれない。しかし、常識なんてクソくらえだ。ライヴは長けりゃいいってもんじゃない。演奏にどれだけ熱量を込めるかという意味では最高のライヴだった。

それは客電が付き、終演を知らせた時、観客の間から“えぇ~”という不満の声が上がらかなかったことからも明らかだったが、この日のライヴが観応えあったのは、ゆるんだところがこれっぽっちもなかった演奏の勢いもさることながら、ガレージロックのひと言には収まりきらない多彩なレパートリーを並べたセットリストが起伏に富んだものだったことも大きい。

激しいロックナンバーをたたみかけた序盤。「20世紀のメロディ」「沈んだ塔」、イントロをヘヴィなブルースにアレンジした「漁船の唄」を挟んで、さらに「(baby I’m sorry) what you want」「way of 春風」と、古川が洗練とポップな味わいをロックンロールに溶かし込むことに長けたソングライターであることをアピールする曲の数々を立て続けに演奏した中盤。そして、「劇場支配人のテーマ」からラストスパートをかけるように昔からのファンにはお馴染みのロックナンバーの数々をたたみかけた終盤。古川、中屋智裕(Gu)、森下、石原天(Dr)の4人が繰り出すローと歪みを際立たせたソリッドなバンドサウンドにゾクゾクしながら、爆音に負けずに浮かび上がるメロディーとノスタルジックだったり、シュールリアリスティックだったり、ファンタジックだったりしながらビビッドに情景を浮かび上がらせる閃きに満ちた言葉の数々を聴き、それこそが他のロックンロールバンドやガレージロックバンドにはないTHE PINBALLSならではの魅力と再確認した。

アンコールを求められ、ステージに出てきた中屋がいきなりマイクに向かい、“今日は俺も喋っていいんだって”と恐らく初めてステージで言葉を発し、ファンと他のメンバーを驚かせたが、結局“言うことはないんだけどね”と、何を喋るんだろうと興味津々になっていた観客に思いっ切り肩透かしを食らわせた(いや、期待通りだった?)。しかし、ズシリと重い手応えを残したこの日の彼らのライヴに余計な言葉は必要なかったんだからそれで良かったと思うし、何も言うことがないと言うことは、メンバー自身も大いに満足していたということだ。