アレグロ

三日月降る夜には
窓越しきみに触れていた
こびりつく笑顔と声と匂いが
ぼくの朝も昼も夜(よ)も夢も
侵してくんだ

叫び散らしても
消せやしないんだよ
空仰ぎ波間(なみま)走ってく
焦がれる夜の隣へ

ほら もつれる足で探す
たとえきみが見えなくても
ふるえる指で願う
たとえきみに触れなくても
ただ あふれる喉で祈る
たとえきみに言えなくても

星すりぬけ
三日月かすめ
走れ
「きみに あいたい」

こころ零(こぼ)す 夜には
窓越しきみと奏でてた
ひからびる記憶と熱の欠片で

ぼくの歌も音も詞も嘘も
千切れてくんだ

声を嗄(か)らしても
此処にはいないんだよ
星の海呑まれ走ってく
さまよう夜の終わりへ

ほら ゆらめく足で探す
たとえきみが見えなくても
こごえる指で願う
たとえきみに触れなくても
ただ かすれる喉で祈る
たとえきみに言えなくても

星追い越せ
三日月遥か
走る
「きみが こいしい」

見上げてごらん
同じ夜の
同じ空の
同じ月を

さらさらゆらぐ砂にぼくらは
ぶくぶくと沈んで
きらきらひかる星がぼくらを
ふわり誘(いざな)うよ

もつれる足で探す
ふるえる指で願う
ただ あふれる喉で祈る
こぼれる声で告げる
「ぼくは ここだよ」

さあ速く
星消える前に
走れ
きみへと

さあ速く
月消える前に
伸ばせ
きみまで
手を
×