バンドマンの僕から、あの子へ。

 2023年3月15日に“ヤングスキニー”が1stフルアルバム『歌にしてしまえば、どんなことでも許されると思っていた』をリリースしました。配信シングル「東京」「コインランドリー」「本当はね、」「好きじゃないよ」、これまで会場限定シングルに弾き語りデモが収録された「ごめんね、歌にして」「ヒモと愛」を含む全10曲を収録。インディーズ時代の楽曲から最新曲まで、ここまでの勢いを凝縮した代名詞となる1枚です。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“ヤングスキニー”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。最終回はかやゆーが担当。綴っていただいたのは、アルバムの最後を飾る収録曲「ごめんね、歌にして」にまつわるお話です。あの頃には戻れない今、“あなた”に伝えたい想いは…。さらに今回も音声版がございます。かやゆー本人による朗読でもエッセイをお楽しみください。


かやゆーの朗読を聞く

僕は恥ずかしがり屋だから、自分の気持ちを目を見て伝えるなんていうことはできなかった。もっと言葉で気持ちを伝えてたら、もっと言葉で想いを伝えてたら、今はもっと変わっていたのかな、なんてね。でも歌にすれば、自分の気持ちも届くと思っていたし、届いていると思っていた。言葉では、目を見て気持ちは言えなかったけど、せめて歌う時だけは目を見て歌っていた。でも気持ちが伝わってる気がしただけで、その瞳には、「歌にしないで」なんて映っていたことは、これっぽっちも気づけなかった。
 
全部僕の勘違いだった。
 
あの時は、新曲ができるたびに聴かせていたし、あなたのことだけを考えて、あなたのことだけを歌っていた。でも唯一あの子に歌えなかった歌が一つだけあった。だって君は“今でもあなたは私のことを元カノとか言って歌にしてくれてたらいいな”なんて思ってないだろうし、それも全部僕の願望だってわかっていたから。
 
“歌えなかったあの歌と”
 
僕は今も忘れずに鮮明に覚えてる。寝る前に弾いてあげたギターとか、二人でイヤフォンを分け合った夜とか、早起きして出かけた日も、あなたが作ってくれた美味しかった炒飯も、換気扇のうるさい七畳の狭いワンルームで、単身者専用って書いてあったけど、バレないようにこっそり二人で同棲、夜中には家に洗濯機があるのに、わざわざコインランドリーまで行っちゃったりして、2人の汚れた心まで綺麗になったらいいねって。あの日常も、あの幸せも全部あなたがくれたものだった。
 
結局僕は愛想を尽かされた。何回も引き止めたけど、あなたはどこか遠くへ行ってしまった。正直言えば、戻りたいって思うし、あの日々を忘れられない。でも僕は“忘れられないのは、あなたではなくて二人の時間”なんだと自分に、言い聞かせている。戻れたとしても結局僕は、どうせまた同じことをしてしまうだろうし、愛想を尽かされてしまう。だっていまだに思いは伝えられず、歌にしているのだから。
 
“今でもあなたを元カノとか言って歌にしてごめんね”
 
ごめんね。

<かやゆー>



◆紹介曲「ごめんね、歌にして
作詞:かやゆー
作曲:かやゆー

◆1stフルアルバム『歌にしてしまえば、どんなことでも許されると思っていた』
2023年3月15日発売
配信サービス一覧:https://jvcmusic.lnk.to/ys_1stAL

<収録曲>
1. ヒモと愛
2. ゴミ人間、俺
3. 本当はね、
4. 美談
5. コインランドリー
6. 好きじゃないよ
7. 夜のままで
8. 東京
9. らしく
10. ごめんね、歌にして