君に何を伝えよう、生きる喜びそれ以外に。

 2022年4月13日に“THE BACK HORN”がニューアルバム『アントロギア』をリリース。アルバムタイトルの“アントロギア”は、古代ギリシャ語で<花を集めること>を意味し、今日では詩文を集めた詩集を表すことに由来。様々な花が持つ色彩のように4人の“今を生きる希望”が描かれた作品となっております。今作には、これまで通りメンバー全員が作詞作曲で参加し、様々な組み合わせにより制作された全12曲が収録。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“THE BACK HORN”による歌詞エッセイを4週連続でお届け。最終回は松田晋二が執筆。綴っていただいたのは、収録曲「JOY」にまつわるお話です。アルバムのなかで最後に歌詞が書かれたというこの曲。どのように物語の舞台が立ち上がり、広がっていったのか…。ぜひ、歌詞と併せて、エッセイをお楽しみください。



「JOY」は今作『アントロギア』の中で1番最後に書いた歌詞です。
 
「瑠璃色のキャンバス」をクライマックスに置きながらも、最後にもう一曲その先を照らすような楽曲でアルバムを終えたいとメンバーに伝え、山田作曲、松田作詞のペアで制作に挑む事になりました。当初は歌詞を先に書いてそこに曲を付ける想定でしたが、イメージがなかなか具体的な言葉にならず、先に山田がこの曲を持ってきてくれました。まさに自分がイメージしていた以上の曲だったので、あとは何がなんでもこの曲にふさわしい歌詞にしようと、夜な夜なこの曲の事だけを考えていました。
 
作詞の進め方としては、まず何度も曲を聴いて、コードの持つムードやメロディーの温度を感じ取るところから始めていきました。そこからイメージを広げ、曲自体が向かおうとしている方向に寄り添っていく中で、自分の言いたい事も鮮明になっていったように思います。最近は“いかに曲と一体化した歌詞を書けるのか”というのを作詞のテーマにしているので、曲が歌いたがっているムードと、歌詞の言いたい事を合わせていく作業が大事だと思い、そこに時間を費やしました。
 
この「JOY」の冒頭は<世界の音が鳴り止んだ静かな夜>というフレーズから始まります。冒頭のシンセのフェードインを繰り返し聴きながら、歌詞を考えていた深夜の公園でふと出てきた言葉です。コロナ禍で、賑やかだった街がひっそりと静まり返って、まさに世界から音が消えてしまったような感覚を覚え、何気なく空を見上げた時にすっと浮んできました。そこからこの物語の舞台が出来上っていったと思います。
 
自分では、サビの<君に何を伝えよう 生きる喜びそれ以外に>というフレーズが気に入ってます。その公園から帰ろうと歩き出した時に気づいたら口ずさんでいました。“生きる喜び”を今伝えたい、という想いをこの歌詞に変換できたのは、まさに曲と一体になれたからなのかなと思います。歌詞は話し方にも似てる気がしていて、このサビにぴったりな言い回しが見つかったと、スマホに文字を打ち込みながらテンションが上がったのを覚えています。自然にすっと出てきた言葉達を最後まで信じられたのも、曲の持つ力のおかげなんだと思います。
 
「JOY」というタイトルは歌詞が出来上がる最後の方に付けました。歌詞のテーマにしようと考えていた“生きる喜び”をワンワードで収められるようなタイトルにしたくて、いろいろな角度から探していく中で「JOY」という言葉にたどり着きました。意味の収まりと曲に感じていたイメージがこのタイトルでビシッとハマった感じでした。
 
コロナ禍で、改めて感じた人と人の繋がりの大切さ、人に会いたいという気持ち、困難な状況だからこそ生きているという喜びを分かち合いたい。そんな想いを込めたこの「JOY」が、皆さんの心に少しでも染み渡ってくれたら嬉しいです。
 
<松田晋二(THE BACK HORN)>


◆紹介曲「JOY
作詞:松田晋二
作曲:山田将司