サヨナラは間違いじゃなかった、そう言ってくれないか。

残酷な現実や、大きすぎる敵に対して
戦う方法があるとしたら、それは
じぶんたちの甘やかな想像力なのかもしれません。
(今日マチ子『cocoon』より引用)


 苦しいとき、空しいとき、悲しいとき、度々わたしたちは【想像力】というものに救われていますよね。たとえば、遠く離れた誰かの現在を想像して「きっと今頃、あの人も頑張っているだろうから、自分も…」と思えたり。もう会えないであろう誰かとの未来を想像して「もしかしたら会えるかもしれないその日まで踏ん張ろう…」と思えたり。今日のうたコラムでは、そんな【戦う方法】に通ずる新曲をご紹介いたします。

「忘れないから」「忘れないでね」
扉の向こうに手を振った 遠い昔話
「全部このままさ」「なにも変わらない」
振り返るけど 僕らはもう 他の誰かだった

若葉が光受けるような 淀みない心で触れ合った
浮かんでくるのは 眩しすぎる日々
「GreenGreen」/ゆず

 2019年7月7日に“ゆず”が配信リリースした新曲「GreenGreen」です。伊藤園の商品・お~いお茶のCMソングとして使用されているこの曲は、大切なひととの別れを歌ったミディアムナンバー。しかし、主人公にとってまだ<扉の向こうに手を振った 遠い昔話>は、前述したような【戦う方法】=【甘やかな想像力】には繋がっておりません。
 
 過去は美化されるもの、とはよく言いますが、まさに<僕>は自分自身にそう言い聞かせているように思えるのです。つまり「忘れないから」「忘れないでね」「全部このままさ」「なにも変わらない」なんて言って別れたけれど、結局はすべて綺麗ごとで、現実では<僕らはもう 他の誰か>だし、どんどん忘れていくし、変わっていくのだと。

 それはまだ<僕>が【残酷な現実や、大きすぎる敵に対して戦う方法】を見つけられずにいて、むしろ<眩しすぎる日々>に傷ついてしまいそうだからではないでしょうか。あの頃は<若葉が光受けるような>希望や可能性に溢れていて、お互い<淀みない心で>触れ合えていた。だけどその輝きのなかには二度と戻れない。比べれば、今の自分が嫌になる。だからこそ<遠い昔話>を少し冷めた目で見ようとしているのでしょう。

グリーングリーン
丘の上寝そべって見てた空 夏の匂いがすぐそこまで
憧れも不安も ぼんやりと過ぎてった
どうにかなるさと笑いながら
君とだったら無敵と思っていた
叶わぬ願いはないと信じた
風の中で揺れている
グリーングリーン
「GreenGreen」/ゆず

 サビでは<グリーングリーン>というフレーズが、緑を揺らす風のように爽やかに響きます。ただし、そのなかに綴られているのは何もかも“過去形”なんですよね。憧れや不安がぼんやりと過ぎていっても<どうにかなるさ>と笑えていたこと。<君とだったら無敵と思っていた>こと。<叶わぬ願いはないと信じた>こと。そんな眩しすぎる日々。

「似たもの同士」「分かり合えるんだ」
言葉なんて必要ないさ そんなおとぎ話
「元気でいてね」「きっとまた会えるよ」
サヨナラは間違いじゃなかった そう言ってくれないか
「GreenGreen」/ゆず


 それらは同時に、どうにもならない、無敵なんかじゃない、叶わないことばかりの“現実”を際立たせるのです。ゆえに回想シーンからふと我に返ると、あんなものはぜんぶ<おとぎ話>だったと“美化された過去”を自嘲せざるを得ないのでしょう。でも、それでも、どうしたってあの<眩しすぎる日々>は<僕>にとっての宝物なんですよね。
 
 本音を言ってしまえば、胸の内にあるのは「あの頃はよかった」「あの頃に戻りたい」「別れなければよかった」という後悔なのでしょう。だけど選んだほうの人生を否定して、大切な思い出の宝物まで濁らせてしまいたくない。その切実な想いが<サヨナラは間違いじゃなかった そう言ってくれないか>というワンフレーズから伝わってきます。

見渡す景色
今もどこかで どんな風に暮らしているかな
時々悩んだって 幸せに包まれ
変わらない君がいるだろう

グリーングリーン
丘の上寝そべって見てる空 夏の匂いがすぐそこまで
教えてくれたんだ 道に迷うときは
ここから また始めればいいんだ
ずっと言えずにいた「ありがとう」
小さく呟いて歩き出す
風の向こうに手を振る
グリーングリーン
「GreenGreen」/ゆず


 そして、このように幕を閉じてゆく歌。終盤で<僕>は【戦う方法】=【甘やかな想像力】を手にしたことがわかりますね。だって<時々悩んだって 幸せに包まれ 変わらない君がいるだろう>と“君の明るい今”を想像できているから。その変化のきっかけとなったのは、やはりあの<丘の上>の景色と<グリーングリーン>とそよぐ風でしょう。
 
 前半のサビでは<丘の上寝そべって見てた空>と過去形だったフレーズ。それがラストでは<丘の上寝そべって見てる空>と今を表すフレーズになっています。<僕>は<サヨナラは間違いじゃなかった>ことを確かめに、あの場所へ行ってみたのではないでしょうか。そこで原点を思い出し、綺麗ごとではなく、本当に綺麗だった<君>との記憶を前向きなエネルギーへと変えることができたのではないでしょうか。
 
 ずっと言えずにいた「ありがとう」を呟き、新たなスタートを切った<僕>。たとえこの先【残酷な現実や、大きすぎる敵】にぶつかったとしても、あの景色や思い出をお守りに、想像力を味方に、ぐんぐん進んでいくことができるはず。ゆずの「GreenGreen」が、あなたの心にも前向きなパワーを与えてくれますように。ぜひ<グリーングリーン>と口ずさんでみてください…!

◆紹介曲「GreenGreen」/ゆず
2019年7月7日配信
作詞:北川悠仁
作曲:北川悠仁