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椎名林檎

ねえせめて愛されてみたかった。ひと度でも。

 2019年5月27日に“椎名林檎”がデビュー20周年のラストを飾る、5年ぶりオリジナルアルバム『三毒史』をリリースしました。今作には、番組やCMのテーマ曲を含む全13曲が収録。テーマは、人間の内面に巣食う三つの煩悩【貪(貪り)・瞋(怒り)・癡(愚かさ)】です。今日のうたコラムでは、そんな【三毒】溢れる新曲「TOKYO」をご紹介いたします。

同じ夢で目覚めた。なぜ今また昔の男など現れる。
眉や目でさえ憶えていない相手じゃ遥か朧の月。
曖昧模糊。そんな顔を見て過ごしていた、妙な場面。
夢は十中八九晴れ模様清々しく。精々願望を映し出しているようで、
莫迦に幸せそうに燥いでいたっけ。
ああしんどいわ。頭のみ冴えている。
どことも誰とも繋がらないこの命。ああ重いわ。
持て余した自我。急いで夢の途中に戻して。起きていたくない。
「TOKYO」/椎名林檎


 夢からの目覚めで幕を開ける歌。ここから徐々に主人公の【三毒】が明らかになってゆくのです。まず“<同じ夢>を見る”という現象には、心の奥に抱えている想いや叶えられない願いが反映されていることが多いんだとか。つまり強烈な【貪(貪り)】の表れ。そして、その“求めているもの”は、今さら夢に現れる<昔の男>が象徴しております。

 夢占いにおいて、必ずしも“昔の恋人が夢に出てくること=相手への未練”ではありません。この主人公にとっても<昔の男>は<眉や目でさえ憶えていない相手>であり<曖昧模糊>であることから、彼に特別な感情を抱いているわけではなさそう。そうではなく“昔の恋人が夢に出てくること=恋愛の象徴・理想”である場合があるのです。

 だからこそ<夢は十中八九晴れ模様清々しく><莫迦に幸せそうに燥いでいた>主人公。そんな恋愛を強く求め続けてきた証でしょう。しかし、現実にあるのは<どことも誰とも繋がらないこの命>と<持て余した自我>のみ。もはや夢でもいいから幸せでいたい。起きていたくない…。<同じ夢で目覚め>るたびに、手に入らぬものを思い知り、現状を拒絶する姿から、いっそう【貪(貪り)】が際立ちます。

微熱を帯びた瞼が居直ると、現の世界は荒れ模様忌々しく。
傘も携え用意周到だった。だのに濡れている自分。不幸なんだって。
まあしんどいよ。しとどに泣く足。どこへも誰へも続いていないこの道。
まあ酷いよ。踏み外した過去。行けども帰れども責められて
失せてしまいたい。そう当座凌ぎに必死の人生。
悲しくてもう耐えられない。ねえせめて愛されてみたかった。ひと度でも。
「TOKYO」/椎名林檎

 さらに【瞋(怒り)】と【癡(愚かさ)】も色濃く描かれてゆきます。怒りの矛先は<現の世界>です。<傘も携え用意周到だった>のは、自分を護るため。いつか隣を歩く誰かを護るため。平凡に幸せに進んでゆくため。でも、そのどれも叶っておりません。日々を一緒に行く人も、たどり着くべき場所もない。傘なんて意味がないほど荒れた自分の人生の<不幸>を痛感する。そして「どうして?」という怒りが湧いてくるのです。

 また【癡(愚かさ)】のひとつは<踏み外した過去>にあるのでしょう。それはきっとどんなに月日が立っても逃げられないような、逃げても逃げても誰かに見つかって指をさされるような出来事。主人公はその【癡(愚かさ)】を<責められ>るたび必死に<当座凌ぎ>をして、いつだって「もう許してください」という気持ちだったのではないでしょうか。神様や世間に。

 だけど「どうして?」と「許して」の人生は<悲しくてもう耐えられない>という限界まで今、来ているのです。溢れ出す<ねえせめて愛されてみたかった。ひと度でも。>という【貪(貪り)】の声。ひと度でも、ということは、夢に現れた<昔の男>とのかつての恋愛でも“愛されていた”とは感じられなかったということでしょう。すがる“愛された思い出”さえ見当たらない、深い深い孤独が伝わってきますね。

どんな最期を迎えて死ぬんだろう。変わらず誰にも甘えず、
ずっとひとりなら長いわ。高が知れた未来。
短く切上げて消え去りたい。飲み込んで東京。
「TOKYO」/椎名林檎


 こうして幕を閉じてゆく歌。ここでさらなる【癡(愚かさ)】が綴られている気がします。希望を放棄し<高が知れた未来>と自分を見限ってしまう愚かさです。人生を放棄し<短く切上げて消え去りたい>と願ってしまう愚かさです。しかし、この主人公のように【三毒】にジワジワと侵されて“東京に飲み込まれてゆく”人間は、少なくないのでしょう…。

有難う
果てしのないこの世に宙ぶらりん
醜いも甘いも全部知り尽くしたい
愛そう愛し愛されて食べて飲んで
きもちいいおいしい頓知
生きていりゃもう御の字
「ジユーダム」/椎名林檎


 尚、そんな「TOKYO」と相反するアルバム収録曲が「ジユーダム」です。どうか「TOKYO」の主人公が、ドン底の今をもう少しだけ踏ん張って<食べて飲んで>生きてゆけますように。そして、いつかは<生きていりゃもう御の字>と思える日がやってきますように。

◆紹介曲「TOKYO
作詞:椎名林檎
作曲:椎名林檎

◆紹介曲「ジユーダム
作詞:椎名林檎
作曲:椎名林檎

◆ニューアルバム『三毒史』
2019年5月27日発売
初回限定生産盤 UPCH-29327  ¥3,600(税抜)
通常盤 UPCH-20513 ¥3,000(税抜)