「こんなにスカートっぽい歌詞がまだ書けるんだ!」って。

 2019年6月19日に澤部渡によるソロプロジェクト“スカート”がニューアルバム『トワイライト』をリリースしました。今日のうたコラムでは、そのインタビューを第1弾~第4弾に分けてお届けいたします!第1弾ではスカートの軌跡と音楽性について、第2弾&第3弾ではニューアルバム収録曲について、第4弾では澤部さんの作詞論についてお伺い。本日は、第2弾をご堪能ください!

― ニューアルバムのタイトル『トワイライト』とは“薄明かり”を意味する言葉なんですよね。

あと“夕暮れ”や“黄昏”の表現で使われることも多いみたいで、今回はそういう意味合いでも使いました。これは収録曲のタイトルにもなっているんですけど、すごく迷ったんですよ。僕は毎回タイトルで苦労するんですけど、「トワイライト」はとくに苦しみましたね。

夕暮れを切り取った内容なので、それにふさわしい言葉を考えて考えたんです。でも日本語にするなら、そのまんま「夕暮れ」とかにせざるを得ないし、それだと直接的すぎるなぁって。そんななかでちょっと自分にとって不思議なワードのひとつだった「トワイライト」という言葉が浮かんで。日常の会話では使わないんだけれども、結構みんな聴いたことがあって、なんとなくほの明るい雰囲気も想像できる。そこが良いなぁと思って、決めましたね。


― 今作には映画『そらのレストラン』主題歌「君がいるなら」と挿入歌「花束にかえて」も収録されております。映画を観ましたが、どちらの曲も流れるシーンにピッタリ寄り添っていて心地よかったです。

あ~よかった!実は最初「花束にかえて」をエンディング(主題歌)にできないかなと思っていたんですよ。まだ歌詞をつける前だったんですけど、すごい良い曲ができたから。でも3分半ではエンドロールに時間が足りないという話になりまして(笑)。とはいえこの曲はもう完全に3分半で出来上がっている作品だから「新しい曲を書きます」と新たに「君がいるなら」を書いたんです。

何もなくても 君がいるなら
僕はまだ歩いてゆける
はじまりなら いつでも傍に
転がるような気がするよ
「君がいるなら」


― この2曲の歌詞は正反対の性質である気がします。まず「君がいるなら」はこのアルバムでもっとも明るく響き、<君>が絶対的な希望ですよね。

そうそうそう。多分、普段の自分だったら<君がいるなら 僕はまだ歩いてゆける>なんて歌えてないんですよ。ここはもう作品に歌わせてもらったという感じがしましたね。物語に寄ったというか、ここで楽曲が前を向かなくてどうする!って思って。その感覚は結構おもしろかったですね。タイアップだからこその明るい言葉が引き出されました。

防波堤の影に腰おろす二人
せめて波は私の味方でいてよ
「花束にかえて」

― 一方で「花束にかえて」は<君>が隣にいるのに<せめて波は私の味方でいてよ>と、強い孤独感が伝わってきます。

はい、行く当てのない、感情の拠り所のない二人を俯瞰で描きました。どちらも言いあぐんでいる感じが良いなぁと思います。なんかどちらかというと「君がいるなら」より「花束にかえて」のほうがスカートらしくて、出来上がったときに「こんなにスカートっぽい歌詞がまだ書けるんだ!」ってビックリしたと同時に、大きな手ごたえを感じたんです。逆に「君がいるなら」のほうは完全に『そらのレストラン』があったからこそ生まれた曲ですね。

ちょっと今回のアルバムの場合、この2曲が全体の性質を決める宿命を背負っていた気がします。とくに「花束にかえて」が出来たとき、次のアルバムは全体でこの歌が最も暗く響くような構成の作品にしないといけないなって、直感的に思ったんですよ。そして結果的に、うまくそういう流れを作り出すことができたんじゃないかなと。


― アルバムの入り口である「あの娘が暮らす街(まであとどれぐらい?)」は、歌詞に<あの娘が暮らす街まであとどれぐらい?>というフレーズがありますが、タイトルではなぜあえて“( )”を使っているのでしょうか。

これは、僕が好きなビーチ・ボーイズの曲に「Don't Talk (Put Your Head On My Shoulder)」ってタイトルがあるんですけど、昔のロックだと結構そういう括弧書きが多くて。なんかそれ…良いなぁって。主題としては「あの娘が暮らす街」だけでも十分なんですけど、そのあとに(まであとどれくらい?)ってつけたら、急に情緒が出る気がするんですよ。僕は2つ前ぐらいのアルバム収録曲でも同じことをやっていて「想い(はどうだろうか)」っていうタイトルがあるんですよ。それも完全に同じ理由ですね。味をしめました(笑)。

なにかが変わる予感は今はしないけど
間違っててもいい 果てまで行こうよ
「ずっとつづく」

― 2曲目「ずっとつづく」はここがキラーフレーズですね。

先ほど「自分が思っていることなんて、1曲のうちに1割も入っていない」と言いましたけど、この曲は珍しく僕の感情がわりとない交ぜになっていて、とくにここのフレーズはそうなんですよ。今31歳なんですけど、そういう年齢感がふいに出ましたね。

僕はマンガが大好きで、歌詞を書くときは結構、参考にするために読み返したりするんですね。なぜか少女マンガ中心に。で、あるときにそれをワーッと読み切ったあと「なんで僕はこの世界(マンガの世界)にいなくて、この世界で結婚していないんだろう。これはおかしなことだ!」と思って書いた歌詞なんですよ(笑)。

― なぜマンガの主人公じゃないのかと(笑)。

多分、現実だったらうまくいかないこともあるし、不安なことしかないんだろうけれども、マンガの世界だったらそういうのを乗り越えて、どんな逆境も二人で手を取り合ってやっていけるのに…!みたいなね(笑)。そんなリアルと理想が入り混じった気持ちで書きました。だからすごくナードな歌詞なんですよね。

― この<なにかが変わる予感は今はしないけど>というフレーズもそうですが、澤部さんはあまり大きな希望を与えるような言葉をお書きにならないですよね。ザ・応援歌のような。

うん、絶対に嫌です(笑)。なんでなんだろうな。やっぱり無責任って思っちゃうんでしょうね。自分が責任を持てるのは、架空の世界を描くことだけなんだろうな…っていう悲しい事実にまたぶち当たるわけです。となるとやっぱり、スカートの音楽なんて必要なひといるのかな!?とか思っちゃうんですけど(笑)。がんばろ。

― いやいや、必要なひといます。わたしは「ハローと言いたい」も好きです。

嬉しい!結構ね、自分でもこの歌詞はうまく書けたと思えるんですよ。何か<君>と気さくにやり取りをしたいという気持ちなんだろうけど、それをいろいろ考えてみたところで「ハロー」としか言えないみたいな。そういうもどかしさもあるんだろうなって。この歌における「ハロー」は言葉というより記号ですね。主人公が頭のなかで描く親しさの象徴みたいなね。

いつからか僕ら 口数も減って
歩く速さも変わってしまったのかな
「ハロー」「ハロー」
気休めに問うばかり
「ハローと言いたい」

あと、個人的には<そこから僕を見てて 何か見えなくなりましたか?>というフレーズも気に入っています。パッと書いてみて、言いたいことが言えた感じがしました。まぁこの歌って悪く言うと、関係性を強いているんですけど、そういう<僕>をみてどう思うかということを知りたいんでしょうね。あと“僕はちゃんと変わっていけているのか?”とか。変われていないんじゃないかと思っている自分を誤魔化している部分もあるかもしれない。

― うまく言語化できない想いを「ハロー」というワードに託しているところといい、言葉にできない部分の余白があるのもこの歌の魅力ですね。

ありがとうございます。本当にどの主人公も、言葉に出来なかった、言葉にしなかったなりの“何か”が必ずあると思います。あと僕は歌詞における余白ってすごく大事だと思っていて。あまり言葉にしすぎず、ある程度は曲に任せたいなという気持ちが大きいですね。

【第1弾】はコチラ!
【第3弾】はコチラ!
【第4弾】はコチラ!

(取材・文 / 井出美緒)

◆Major 2nd Album『トワイライト』
2019年6月19日
初回限定盤 PCCA-04799 ¥3,200+税
通常盤 PCCA-04800 ¥2,600+税

<収録曲>
01.あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?)
02.ずっとつづく
03.君がいるなら(映画『そらのレストラン』主題歌)
04.沈黙
05.遠い春(映画『高崎グラフィティ。』主題歌)
06.高田馬場で乗り換えて
07.ハローと言いたい
08.それぞれの悪路
09.花束にかえて(映画『そらのレストラン』挿入歌)
10.トワイライト
11.四月のばらの歌のこと

【アルバム歌詞一覧】