あぁ、大丈夫になれないままの僕を憎んだ。

告げられた別れから
もう随分経ってるのに
夜が来るとまだ思い出してしまうんだ
「Fade out」/松室政哉

 2018年10月31日に“松室政哉”が1st Album『シティ・ライツ』をリリースしました。今日のうたコラムでは今作から新曲「Fade out」をご紹介。歌の冒頭から見えてくるのは、もう随分前に恋人にフラれてしまった<僕>の姿です。眠れぬ夜、とりあえず暗闇のなか横たわっていると、悶々と負のスパイラルに陥ってしまうことってありますよね…。

僕に足りないものを
今更 頭に浮かべたら
君が欲しがった物ばかりだった

気づけば君の面影探して
最終バスに揺られていたんだ
君に会いに行くあの日のように 身体はまだ覚えてても
フェードアウトは速度を上げて
二人の季節 飲み込んでゆく
あぁ、大丈夫になれないままの僕を憎んだ
「Fade out」/松室政哉

 そして<君>のことを思い出すと同時に、脳内では“どうしてこうなってしまったのだろう”という原因探しが始まります。そばにいる時は、考えなかったであろう<僕に足りないもの>。それは<君が欲しがった物ばかり>で、だけど叶えてあげられなかった物ばかりで、その結果<君>の心に<僕>への“落胆”が積み重なって、別れにたどり着いてしまった。

 音がだんだん聞こえなくなってゆくように、画面がだんだん真っ黒にかわってゆくように、<君>の愛情は【Fade out(フェイドアウト)】で徐々に薄れていったことが伝わってきますね。しかし、きっとそんな曖昧な失い方だったからこそ<僕>はまだその<フェードアウト>を受け入れられていません。ゆえに【真夜中のラブレター現象】が起きるのです。
 
 【真夜中のラブレター現象】とは、深夜に感情が高ぶり、思っていることをすべて吐き出したくなる衝動のこと。同様に<僕>も、真夜中に<君の面影>で心を揺さぶられ、たまらず<最終バスに揺られて>あの街へと向かっております。<大丈夫になれないままの僕を>憎みながらも、どこかで<フェードアウト>を止められる期待を捨てられずに…。

駅前のバスターミナル
見覚えのないオフィスビル
何度も来たはずの映画館は無かった

大きく変わってゆく
街並みに君が重なった
僕はたった独り立ち止まっていた

気づけば遠くの空が白んで
始発のバスまであと1時間
君と過ごしたすべての日を輝く思い出にするため
フェードアウトに耳を澄ませて
二人の季節 胸に仕舞うんだ
あぁ、君のいないまだ見ぬ方へ進み出さなきゃ
「Fade out」/松室政哉

 でも、懐かしいはずの<駅前のバスターミナル>に着いてみて、改めて<僕>が思い知るのは悲しい現実でした。無かったはずの場所にあるオフィスビル。あったはずの場所に無いあの映画館。もう<二人の季節>が刻まれていた<街並み>は大きく変わっていたのです。<君>の心と同じように。変われないのは<たった独り>だったのです。
 
 そうやって打ちのめされて、気づけば朝。真夜中のラブレターを翌朝、冷静に読み返して恥ずかしくなるように、昨夜の<僕>の期待もみるみるしぼんでいることでしょう。ただし“悲しい現実”によって、必ずしも心のベクトルが負に向くわけではありません。むしろ逆。やっと<僕>は<フェードアウトに耳を澄ませて 二人の季節 胸に仕舞うんだ>と、<君のいないまだ見ぬ方へ進み出さなきゃ>と思える段階に変わっております。

もう、帰ろうか。
届かない手紙を書くように
言えなかったサヨナラ呟けば
少し軽くなった

気づけば僕なりの結末は
ほろ苦い旅に落ちていたんだ
振り向く気持ち抑え込んで 戻らない日 後にしたら
フェードアウトは終わりむかえた
僕はバスをゆっくり降りたんだ
“もう大丈夫”って言える気がした 明けてゆく街
「Fade out」/松室政哉

 こうして幕を閉じてゆく歌。終盤の<届かない手紙>とは、まさに前述した【真夜中のラブレター現象】にも繋がる気がしますね。衝動的に手紙を書くように<最終バスに揺られて>会いに来たものの、結局ダメだった。それでもこの行動は無駄じゃなくて<言えなかったサヨナラ>を呟くことができたからこそ<僕なりの結末>を迎えられそう…。
 
 ラストの<フェードアウトは終わりむかえた>というフレーズからは、もう<僕>もちゃんと“恋の終焉”を受け入れていることがわかります。さらに歌の冒頭では<大丈夫になれないままの僕を憎んだ>けれど、最後には<“もう大丈夫”って言える気がした>と歌われているところが、希望的です。ほろ苦い旅を終えて、バスを降りた<僕>は<明けてゆく街>で、ほんの少し変われた今日を歩んでゆくのでしょう。
 
 失恋から立ち直れない方、フェードアウトした恋を受け入れられない方、是非、松室政哉の「Fade out」を聴いてみてください。あなたにもいつか“もう大丈夫”って言える朝が、やってきますように…!

◆紹介曲「Fade out」
作詞:松室政哉
作曲:松室政哉

◆1st Album『シティ・ライツ』
2018年10月31日発売
初回限定盤 UMCA-19058 ¥3,800(税抜)
通常盤 UMCA-10061 ¥3,000(税抜)

<収録曲>
M1.毎秒、君に恋してる
M2.Fade out
M3.アイエトワエ
M4.きっと愛は不公平
M5.午前0時のヴィーナス
M6.衝動のファンファーレ
M7.Matenro
M8.群像どらまちっく
M9.今夜もHi-Fi
M10.海月
M11.息衝く