私が最後に輝くのは、この舞台から転げ落ちるとき。

鏡に映るのは女優
「女優」/吉澤嘉代子

 そっと息を吸い込む音と、自分自身に魔法をかけるかのようなワンフレーズで幕を開ける歌。2018年11月7日に“吉澤嘉代子”がリリースする4thアルバム『女優姉妹』の収録曲「女優」です。彼女が「このアルバムでは、様々な主人公が織りなす一人芝居をお届けします」と語る今作。では、この歌の<私>はどんな物語を生きているのでしょうか。

左右非対称の目が色っぽいなんて言うから
吸いよせられるように恋に落ちていた

貴方の嘘に鋭くなって心の感度が鈍くなるの
こおりの指を繋いでいたかった
「女優」/吉澤嘉代子

 左右非対称の目が色っぽい。そんな言葉で<私>を恋に落とした<貴方>は、どうやら悪いひと。でも、今までコンプレックスだったかもしれない<左右非対称の目>を褒めてもらえたことは<私>の胸の芯を揺さぶる出来事なのです。一瞬で<吸いよせられるように>好きになるほど。きっと<鏡>を見るたび、そのひと言を思い出すのでしょう。
 
 やがて、好きだから<貴方の嘘に鋭くなって>ゆく。だけど、そばにいたいから嘘に騙される自分を演じる。そして、好きだから<心の感度が鈍くなる>…というより、わざと“鈍くする”のだと思います。いつかは溶けて消えてしまう、触れれば冷たくて火傷のように痛い、ただ美しい<こおりの指を繋いでいたかった>から「女優」になるのです。

貴方に掛かった悪い魔法をといてあげる
私のすがたが変わり果ててしまっても
瞳に宿った微かな光
「女優」/吉澤嘉代子

 こちらはサビフレーズ。ちなみに【演劇】の起源には諸説あるそうですが、呪術や宗教的儀式が発展したものではないかと言われているんだとか。それに関係づけると【女優】も古代の“巫女”的な役割がはじまり。すると、なんだか<貴方に掛かった悪い魔法をといてあげる>というフレーズがいっそう説得力を増して伝わってくる気がしますね。
 
 ただ、これを現実に置き換えて考えると<私>はおそらく「このひとは、今は悪いひとだけれど、いつか変わってくれるかもしれない。いや、私が変えるんだ」という<微かな>希望を抱いている状態です。そのせいで自分が傷ついて、環境も身も心も<変わり果ててしまっても>いいという覚悟で<貴方>のそばにいることを選ぼうとしているのでしょう。

午後の撮影スタジオ 白い天井仰ぎ
視線に囲われながら誰と交じりあう

ただれた恋を優しく抱いて私が最後に輝くのは
この舞台から転げ落ちるとき
「女優」/吉澤嘉代子

 歌詞を読み進めていくと、女優の<私>はこれからベッドシーン。まだ<誰と交じりあう>かもわからないことから、ポルノ女優だとも考えられますね。しかし、気持ちだけ女優になりきっているとしたら<午後の撮影スタジオ>とは、自宅か<貴方>の部屋か。そこで<視線に囲われながら>=“世の中の目を気にしながら”相手を待っているとも深読みできます。<誰と交じりあう>かわからないのは<心の感度>がもうそこまで鈍くなっていることの象徴です。
 
 さらに<ただれた恋を優しく抱いて>の【ただれた】という言葉には2つの意味がありそう。ひとつは、独りだけ想いが燃え上がり【傷ついてくずれている】心の状態を表すもの。もうひとつは【肉体的、精神的に相手に依存した不健全で乱れている】関係を表すものです。どちらもこの<恋>を現実を表すのに相応しい言葉。
 
 そうやって、傷ついて崩れて、不健全に乱れて、世の中の目に晒され批判されて、最終的に<この舞台から転げ落ちるとき>が<最後に輝く>ときだと<私>は歌います。つまり“今の場所を何もかも失うとき”や“社会的な転落をするとき”まで<貴方>に焦がれ続けると契っているのです。最後の最後まで嘘に騙される「女優」でい続けるのです。

貴方に掛かった悪い魔法をといてあげる
私のすがたが変わり果ててしまっても
瞳に宿った微かな
瞳に宿った確かな光
「女優」/吉澤嘉代子
 
 最後はこのように幕を閉じてゆく歌。ラスト<微かな>希望だったはずの光が<確かな光>に変わっていますね。さらに強さを増した「女優」の覚悟が込められているフレーズです。危うくて、不安定で、だけど恋で命を輝かせている<私>の物語。是非、すでに公開されているMVと共にその世界観を楽しんでみてください…!

◆紹介曲「女優」
作詞:吉澤嘉代子
作曲:吉澤嘉代子

◆4th ALBUM「女優姉妹」
2018年11月7日発売
初回限定盤 CRCP-40563 ¥6,463+税
通常盤 CRCP-40564 ¥2,778+税

<収録曲>
1. 鏡
2. 月曜日戦争
3. 怪盗メタモルフォーゼ
4. 女優
5. ミューズ
6. 洋梨
7. 恥ずかしい
8. よるの向日葵
9. 残ってる
10. 最終回