なんで、バカみたいだなぁ、だから嫌いだ。

 2018年9月19日に“藤原さくらが”が3rd EP『red』をリリースしました。今日のうたコラムでは今作の最後に収録されている新曲「クラクション」をご紹介いたします。【クラクション】は、自動車の警音器。日常でもよく耳にしますが、少なくとも穏やかなイメージがある音ではありませんよね。ではそのクラクションが、歌の中ではどのような役割を果しているのでしょうか。

時々 深く溺れて
甘いキスなんて要らない
どこがよかったの?こんな僕の
君は変わってるよな

日曜の午後は晴れて
「出かけよう」の声を聞き流しても
相変わらず笑ってる君は
あぁ、あぁ
「クラクション」/藤原さくら

 タイトルに反して、どこか懐かしく温かく切ない音色のオルガンで幕を開ける曲。さらに、歌詞からは<君>への愛おしい気持ちが伝わってきます。きっと<僕>は、恋愛に対してマメなタイプではなく、甘い言動も苦手で<時々 深く溺れて>みるくらいがちょうど良い人。それを自覚しているからこそ<どこがよかったの?こんな僕の>と、自虐的に訊ねているのでしょう。

 でも、照れ隠しの<君は変わってるよな>というフレーズに滲むのは、嬉しさです。本当なら、日曜の晴れた午後には「出かけよう」と言ってくれる相手のほうが<君>は幸せになれるかもしれない。それなのに<こんな僕>を選んでくれて<相変わらず笑ってる君は>…。そのあとに続く感情は上手く言葉に出来ず、だけど<あぁ、あぁ>と、声になって溢れ出すのです。

君はさ 僕の「ごめん」は
カンに障ると笑った
いつもそうだね 損してんだよ
どうも変われない人

「これ美味しい」ってそうこぼすと
飽きるまでそれだけ買ってくるよなぁ
相変わらずしょうがない君は
あぁ、あぁ
「クラクション」/藤原さくら

 さらに、次々と綴られてゆく<君>のエピソード。ちょっと捻くれ者の<僕>なので、ストレートなノロケでもなく、直接的に相手を褒めているわけでもありませんが、ただただ毎日<君>のことをちゃんと見つめていたことはわかりますね。そして“好き”や“愛している”という言葉は使っていなくとも<相変わらずしょうがない君は あぁ、あぁ>というフレーズには、やはり強い愛が表れております。

きっと 全部 わかってたんだなぁ
愛は優しいだけじゃない
なんで なんで バカみたいだなぁ
だから嫌いだ
「クラクション」/藤原さくら

きっと 全部 わかっていたいんだなぁ
愛は悲しいだけじゃない
なんで なんで バカみたいだなぁ
だから嫌いだ
「クラクション」/藤原さくら

 ただしこの歌、サビには解釈の“余白”が残されているのです。印象的な<なんで なんで バカみたいだなぁ だから嫌いだ>というフレーズ。これもまた<僕>のあまのじゃくな愛情表現だと捉えることもできるでしょう。つまり<君>に対して“なんでこんな僕を選んでくれたんだろう。バカみたいだなぁ”と言いながらも、愛する気持ちを<だから嫌いだ>という真逆の言葉で伝えているということ。

 しかし一方で、歌声やサウンドに含まれている切なさが、別の想像もさせるのです。このフレーズは<僕>自身に向けられているものだという解釈です。たとえば“なんでこんな僕がこんなに君を好きになっているんだろう。これだから愛なんて嫌いだ”と照れているのかもしれません。もしくは“なんで僕は君にもっと素直になれないんだろう。だからこんな自分は嫌いだ”という自己嫌悪的な想いが込められているのかもしれません。

窓の外 クラクションが鳴る
街はもう あの日を忘れてる
喉の奥 伝う水の音が
聞こえてきたの

きっと いま 笑ってるんだろう
君が居ないと 僕はさ
なんて なんて バカらしいんだろう
だから嫌いだ
「クラクション」/藤原さくら

 そして、歌の終盤に登場するのが<クラクション>です。これはかなり深読みになりますが…、もしや<クラクション>は心を現実に呼び戻す合図なのではないでしょうか。かつ、街が忘れてる<あの日>とは<君>が居なくなってしまった日のことではないでしょうか。すると、これまで現在進行形で綴られてきた様々なエピソードは実は“回想”であり、先ほどの<なんで なんで バカみたいだなぁ だから嫌いだ>とは、大きな後悔であったとも捉えられるのです。

 ゆえに、最後は<きっと いま 笑ってるんだろう>と、笑っている姿を想像することしかできません。<君が居ないと>こんなにも思い出に溺れてしまっております。そう考えると、冒頭の<時々 深く溺れて 甘いキスなんて要らない>というフレーズさえ、違う意味を持ってくる気がしませんか? 甘いキスなんてもう“出来ない”から<君>に“回想”で<時々 深く溺れて>いる…。

 そんな切な過ぎる物語も想像できてしまうのが、藤原さくらの「クラクション」です。みなさんはこの歌をどのように捉えるのでしょうか…。是非、歌詞をじっくり読みながら曲を聴いて<僕>の気持ちを感じてみてください。

◆紹介曲「クラクション」
作詞:Sakura Fujiwara
作曲:Sakura Fujiwara

◆3rd EP『red』
2018年9月19日発売
初回限定盤 VIZL-1431 ¥2,700+税
通常盤 VICL-65038 ¥1,800+税

<収録曲>
01. Lovely Night
02. また明日
03. NEW DAY
04. Dear my dear
05. うたっても
06. クラクション