五感の全てを別物に変えてくれた。

 2018年8月29日に“sumika”がニューシングル『ファンファーレ/春夏秋冬』をリリースしました。彼らは、9月1日から公開の劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』のオープニングテーマ、劇中歌、主題歌の制作を担当。シングルにはオープニングテーマ「ファンファーレ」と主題歌「春夏秋冬」が収録されております。今日のうたコラムでは、その主題歌をご紹介。まず、物語の始まりは、春。まだ遅咲きの桜が咲いている4月のこと。

 他人に興味がなく、常に一人で読書をしていた高校生の<僕>はある日、病院で本を拾います。手書きで『共病文庫』と綴られたその本は、クラスの女子・桜良の日記帳でした。そして、日記の中身を目にした<僕>に、彼女は自分が膵臓の病気で余命少ないことを告げ、最期の日が訪れるまで精一杯、人生を楽しみ尽くそうとするのです。そんな彼女の奔放な行動に振り回されながらも、少しずつ変化してゆく<僕>の心。二人の距離…。

桜の予報も虚しく
大雨が花を散らせた
4月の風
少し寒くて
夜はまだ長くて
「春夏秋冬」/sumika

 その<僕>の気持ちや二人の思い出、物語にそっと寄り添うのが、主題歌の「春夏秋冬」です。歌の冒頭に綴られているのは、少し寒い<4月の風>が吹く春。描写からは、どこか“虚しさ”や“淋しさ”が伝わってきますよね。<君>の存在も描かれておりません。ここはもしかしたら、まだ<君>に出会う前の<僕>の心、もしくは<君>を失ってしまった後の<僕>の心を表しているフレーズなのではないでしょうか。

湿気った花火の抜け殻
押入れで出番を待った
煙たがっている
でも嬉しそうな
君を浮かべた

本を読み込んで
君は真似しだして
いつの間にか膝の上で眠って居た秋

寒いのは嫌って
体温分け合って
僕は凍える季節も
あながち嫌じゃなくなって
「春夏秋冬」/sumika
 
 続く歌詞には、春の先の“夏秋冬”が描かれてゆきます。こちらではどの場面にも<君>の存在が感じられますね。つまり<君>と<僕>が出会い、一緒に過ごした時間の回想なのです。また、季節が進むにつれ二人の距離感がどんどん近づいているのがわかる気がしませんか? 二人で“肩”を並べて花火を楽しむ姿を思い浮かべた夏。二人で本を読んでいたら、いつの間にか“膝の上”で<君>が眠って居た秋。

 そして<寒いのは嫌って>抱き合って<体温分け合って>凍える季節さえも愛おしく想えた冬。こうして<僕は凍える季節も あながち嫌じゃなくなって>変化していったのでしょう。この“冬”の次にやってくる“君と一緒の春”も待ち遠しかったことでしょう。四季に<君>との思い出が刻まれてゆくことで、初めて<僕>は春夏秋冬、一瞬一瞬を大切に想うようになったのです。

ご飯の味
花の色
加工のない甘い香り
人肌を数字じゃなく
触覚に刻んでくれた
鼓膜にはAh
特別なAh
五感の全てを別物に変えてくれた
「春夏秋冬」/sumika

 さらに<君>が変えてくれたのは、春夏秋冬の価値だけではありません。一緒に食べると<ご飯の味>が特別になって、一人じゃ見過ごしていた<花の色>に気づかせてくれて、隣り合うと<甘い香り>に癒されて、触れ合って<人肌>を教えてくれて、何より<鼓膜には>言い表し尽くせないくらい、たくさんの声を、言葉をくれて。<五感の全て>と同時に<僕>の心に生まれる“喜怒哀楽”も<別物に変えて>くれたのだと思います。

ありがとうも
さようならも
此処にいるんだよ
ごめんねも
会いたいよも
残ったままだよ

嬉しいよも
寂しいよも
置き去りなんだよ
恋しいよも
苦しいよも
言えていないんだよ
「春夏秋冬」/sumika

 しかし、やがては訪れてしまう最期の日。かけがえのない<君>への想いが痛切に溢れ出すのがサビ部分です。こちらは前半のサビ。ありがとう、さようなら、ごめんね、会いたい、嬉しいよ、寂しいよ、恋しいよ、苦しいよ…。もう<君>はいなくなってしまったとしても、<君>への想いは消えることなんてありません。到底、忘れることなんてできません、ただし、歌の前半と後半では、少しフレーズだけが異なるんです。

ありがとうも
さよならも
此処にいるんだよ
ごめんねも
会いたいよも
育っているんだよ

嬉しいよも
寂しいよも
言葉になったよ
恋しいよも
苦しいよも
愛しくなったよ
「春夏秋冬」/sumika
 
 こちらは後半のサビ。前半のサビでは<残ったままだよ><置き去りなんだよ><言えていないんだよ>と、まだ何ひとつ前に進めずに俯いている<僕>の姿が見えてくるかのようでした。でも後半では、同じ感情を抱きながらも<育っているんだよ><言葉になったよ><愛しくなったよ>と、一歩一歩、心が歩き出しているのです。何故なら<君>は、いなくなってもなお<僕>に教えてくれることがあるから。

また風が吹いて
君が急かしたら
そろそろ
行かなきゃ
僕の番

何千回
何万回でも
思い返してもいい
何千回
何万回
次の季節の為に
「春夏秋冬」/sumika

 きっと<君>は春の風になって“私がしっかり生き切った分、次はあなたの番だよ”と教えているのでしょう。だから<僕>は<そろそろ 行かなきゃ 僕の番>だと、想いを背負いながらも進んでいく決意ができたのです。1曲のなかでそんな<僕>の様々な変化が描かれているのが、sumikaの「春夏秋冬」。劇場で『君の膵臓をたべたい』を観る方にも、大切な人とお別れしてしまったという方にも、なかなか次の春へ進めないという方にも、どうかこの歌が届きますように…!

◆紹介曲「春夏秋冬
作詞:片岡健太
作曲:sumika

◆New Single『ファンファーレ/春夏秋冬』
2018年8月29日発売
初回生産限定盤 SRCL-9900~9901 ¥1,600+tax
通常盤 SRCL-9902 ¥1,000+tax

<収録曲>
1.ファンファーレ
2.春夏秋冬
3.ファンファーレ(Instrumental)
4.春夏秋冬(Instrumental)