今朝、新聞を読んだ。あの本屋がなくなるらしい。

 2018年8月1日に“ペンギンラッシュ”が1stアルバム『No size』を全国リリースしました。彼らは名古屋発、2014年結成の4人組バンド。FUNKやJAZZを核とした独自のサウンドが中毒必至で、じわじわ人気を広め続けているんです。さて、今日のうたコラムでは今作から収録曲「Eien」をご紹介いたします。

今朝、新聞を読んだ
あの本屋がなくなるらしい
「Eien」/ペンギンラッシュ

 みなさんも、大好きだった“何か”が<なくなる>ことを、知らされた経験ってありませんか? この歌の主人公にとっては<あの本屋>の閉店。他にも、よく聴いていたバンドの解散。アーティストの引退。読んでいたマンガの打ち切り。お馴染みだったお菓子の販売終了。などなど、これまで“当たり前”にあったものがなくなる時は、ある日、突然にやってくるんですよね。

 しかし、それまではその存在すら忘れてしまっていて、なくなると知って初めて「残念」「どうして?」「大好きだったのに」という想いが胸に広がることも多々。きっとこの歌の主人公も同じです。もし最近<あの本屋>に通っていたとしたら、閉店の予兆にうすうす気付いたはず。でも知ったのは、今朝の新聞でした。そして、ニュースを目にしたことでやっと、忘れていた光景や大切な気持ちがブワッと蘇ってくるのです。

触れて欲しかったんです
ほんとうは
何も考えなくてよかったのに

ページをめくる音が、ひしめき合っている
中でさまよう一冊、手に取った重さは
ほんの少しだけ大人になった気がした
「Eien」/ペンギンラッシュ

 <触れて欲しかったんです>。まず、このひと言からは<あの本屋>の店主さんの痛切な想いが伝わってくるような気がします。お客さんにいろんな本に触れて欲しかった。知らない世界に触れて欲しかった。そんな想いが通じていた大切なお客さんの一人が、主人公だったのではないでしょうか。かつては<ページをめくる音が、ひしめき合っている中でさまよう一冊>に自分の心に<触れて欲しかったんです>。

 そこにいる間は<ほんの少しだけ大人になった気が>して、<何も考えなくて>よくって、大好きな居場所だったのでしょう。でも、もう<あの本屋>は閉店してしまいます。だからこそ、今は<あの本屋>を愛していた一人として、店主さんと同じように“もっと多くの人にあの本たちに<触れて欲しかったんです>”という本音を零しているようにも思えます。ただ残念ながら、その「好き」な気持ちを届けるのはひと足遅かったのです。

誰よりも早く夜に追いついて
そのまま抜かせればよかったな
うまく届かなかった 清らかな気持ち
逃しちゃいけない
「Eien」/ペンギンラッシュ

誰よりも早く信じられてれば
失うものなどなかったもしれない
忘れてしまっていた とうめいな気持ち

誰よりも早く夜を追い越して
しまうくらいの速さで走れたら
夜を見渡せるあの場所に
今すぐに行くから
「Eien」/ペンギンラッシュ

 本屋、音楽、マンガ、お菓子、どんなものでも、存在している時は誰もが当たり前に、それらは【Eien(永遠)】に在ってくれるものだろうと思ってしまいがち。しかし、何かが在り続けるためには、誰かの「好き」が必要不可欠です。「まぁ他の誰かが好きでい続けてくれているだろう」と、その存在を忘れている間に、大好きだった場所やモノや人は<夜>に飲み込まれ、あっという間に【Eien(永遠)】ではなくなってしまいます。
 
 つまり、何かに【Eien(永遠)】に在り続けてほしいと思うのなら、主人公が<あの本屋>で感じたような<清らかな気持ち>や<とうめいな気持ち>を逃しちゃいけない。いつまでも忘れちゃいけないのです。もちろん、この世に【Eien(永遠)】のものなんて存在しないのかもしれません。それでも“【Eien(永遠)】で在ってほしいという気持ち”から続いていくものはある。そうやって主人公は、ふいに訪れた“喪失”から、大切なことを学んでいるのです。

 そんな心模様が描かれているのが、ペンギンラッシュ「Eien」なのでしょう。みなさんも、なくなってほしくないものは、愛することをやめないでください。目に見えるものだけではなく、愛や夢や希望、目に見えないものも誰より信じ続けてください。想うだけでなく、想いを行動にし続けてください。そうすることで、その大切なものは少しずつ少しずつ【Eien(永遠)】に近づいていくはず。どうか心が<清らかな気持ち>や<とうめいな気持ち>を忘れてしまいませんように…!

◆1st Album『No size』
2018年8月1日発売
NCS-10187 ¥2,300+tax

<収録曲>
1.Under (repetition)
2.ルサンチマン
3.街子
4.Nib
5.奈落
6.installation
7.マタドール
8.Dolk
9.Eien
10.雨情
11.ユイメク
12.RET