さよならだけが人生だったとしても。

この杯を受けてくれ
どうぞなみなみ注がしておくれ
花に嵐のたとえもあるぞ
さよならだけが人生だ
(井伏鱒二『勧酒』より)

 さよならだけが人生だ。だからこそ、今この時を楽しみつくそうじゃないか。そんな開き直った前向きな想いが綴られた詩です。一方、作家・寺山修司さんはこの言葉を受け「さよならだけが 人生ならば また来る春は 何だろう」という一行で始まり「さよならだけが 人生ならば 人生なんか いりません」という一行で終わる詩を作ったんだそう。こちらからは、長い目で人生を見つめての痛切な気持ちが伝わってきます。

 さて、今日のうたコラムではその「さよならだけが人生だ」という言葉にも通じる新曲をご紹介!2018年6月30日に“フジファブリック”が配信リリースした「手紙」です。この歌は、ふるさとへの想い、支えてくれた仲間や家族への感謝など、メンバー・山内総一郎が今だから伝えられる声を綴った、あたたかな1曲となっております。では、あなたなら<元気でやってますか>というひと言を、どなたに届けたいですか…?

元気でやってますか 笑えてますか
思えば遠く ふるさとの人たち

変わらない街はもう 日焼けする頃
太陽みたいな 君にまた会えます

通り雨 ふざけあう帰り道 今でも覚えていますか
「手紙」/フジファブリック

 全然、会うことがなくなった人だけれど、ふと<元気でやってますか 笑えてますか>と気になるときってありますよね。とくに“盆暮れ正月”は、帰郷するタイミングでもあるため、尚更ではないでしょうか。またこの歌には<変わらない街はもう 日焼けする頃>というフレーズも綴られており、ふるさとは<僕>が暮らしているところと少し天候が異なる離れた地域であることも伝わってきます。
 
 つまり<思えば遠く>な“時間”も“距離”も越えて、想いを馳せているんです。それに今、きっともう<僕>はいい大人で<通り雨>が降ったって、誰かと<ふざけあう>ような時代は過ぎているはず。たとえば、仕事帰りなら(ああ最悪…)と独りため息をつくだけでしょう。でも、だからこそ“あの日々”が眩しいのです。色あせない記憶。変わらない<太陽みたいな君>。変わらない街。改めて“あの場所”を恋しく想うのです。

上手くいかない時は 君ならどうする
弱いぼくらは 一体どうする
百万回も生きた 猫のように
大切な人と 寄り添ってたいのさ
「手紙」/フジファブリック

 ただ、大人になったって、頻繁には会えなくたって、思い出や<君>がどこかで生きているということ自体に支えられることも多いんですよね。実際に手紙を書くわけじゃなくても、心の中で<上手くいかない時は 君ならどうする>と、問いかけたりしながら生きているのだと思います。そして、まるで<君>に手紙を書くかのように<大切な人と 寄り添って>丁寧に日々を紡ぎながら生きていこうとしているのだと思います。
 
さよならだけが人生だったとしても
部屋の匂いのようにいつか慣れていく
変わってくことは誰の仕業でもないから
変わらない街でもずっと笑っていてほしい

何もかもがある街に住んで 一体何をなくしたんだろう
何もない部屋でひとりきり 情けない僕は涙こぼしてた

さよならだけが人生だったとしても
きらめく夏の空に君を探しては
ただ話したいことが溢れ出て来ます
離れた街でも大事な友を見つけたよ
じゃれながら笑いながらも同じ夢追いかけて
旅路はこれからもずっと続きそうな夕暮れ
「手紙」/フジファブリック

 さてサビにはついに、冒頭でご紹介した「さよならだけが人生だ」という印象的な言葉が登場します。<僕>は、このワードに対して、開き直っているわけでも、否定しているわけでもなさそう。というより、どちらの気持ちも抱いているように感じられます。まず「さよならだけが人生だ」とは、淋しいけど事実であり<部屋の匂いのようにいつか慣れていく>ものであって<変わってくことは誰の仕業でもない>ものだと。

 一方で「さよならだけが人生だ」とは、事実だとわかってはいるけど受け入れがたくて<きらめく夏の空に君を探しては 話したいことが溢れ出て>来るものなのだと。そして<何もかもがある街に住んで><何もない部屋でひとりきり>だと感じる夜はいっそう、その淋しさが増すのでしょう。でも<僕>には“何もない”わけではありません。この<離れた街でも大事な友を見つけ>て、あの<変わらない街でもずっと笑っていてほしい>仲間がいます。
 
 「さよならだけが人生だ」ったとしても、いろんなものを失くしていったとしても、あの街やこの街で生きる大切な人を想いながら進んでゆこう。たとえもう二度と会えない人との思い出だって、宝物として生きてゆこう。そんな気持ちが描かれているのが、フジファブリック「手紙」ではないでしょうか。是非、みなさんにとっての大事な友達、家族、恋人、身近な人々を思い浮かべながら、この歌を聴いてみてください…!