誰にも期待されてないくらいが丁度いいのさ。

つばさではないと言われたことがある
羽ばたくようにしてみせたのに
(笹井宏之・歌集『てんとろり』より)

 こちらは歌人・笹井宏之さんの短歌です。自分がつばさだと信じてきた何か。いつかそのつばさで羽ばたいて向かおうとしていたどこか。いつかそのどこかで出会えたかもしれない誰か。しかし、その“可能性”を認めてほしくて、期待してほしくて「羽ばたくようにしてみせたのに」周りの人から「つばさではない」という言葉を放たれたとき、あなたならどうしますか? つばさを恥じて、たたんでしまいますか…?

 さて、今日のうたコラムでは、この短歌の主人公にも届けてあげたい新曲をご紹介いたします。2018年5月30日に“高橋優”がリリースしたニューシングルのタイトル曲「プライド」です。尚、この歌はNHK Eテレのアニメ『メジャーセカンド』のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲。野球という道で戦う主人公・茂野大吾へ、それぞれの今で戦うわたしたちへ、高橋優が綴ったのは一体どのようなメッセージなのでしょうか。

君ではダメだと言われてしまったか?
君じゃない人の方がいいと諦められたか?
そんな言葉を本当だと思うのか?
まだやれるのにチキショーと叫ぶ心はあるか?
「プライド」/高橋優

 歌の冒頭で放たれるのは<君>への4つのクエスチョンです。真正面から激しい言葉で発破をかけてくれているようでもあり、隣に座ってそっと問いかけてくれているようでもあり、聴く人によっていろんな受け取り方ができますね。ただ、いずれも“事実”と“本音”にちゃんと<君>が向き合うためのクエスチョンであることに間違いはありません。

 まず1つ目の<君ではダメだと言われてしまったか?>という問い、2つ目の<君じゃない人の方がいいと諦められたか?>という問い、これらは起こった“事実”に対する言葉ですね。先ほどの短歌なら「つばさではないと言われたこと」でしょう。その“事実”で傷ついたのに、目を背けて逃げている。高橋優はそんな<君>に改めて起こった“事実”を確認させるのです。

 なんのためにそんなことをするのか。それは、その“事実”がただ単に“誰かの言動”でしかないのだと気付かせるため。だからこそ3つ目に続くのが<そんな言葉を本当だと思うのか?>という問いです。これはクエスチョンというより、反語。そんな言葉を本当だと思うなよ、事実と本当は違うんだぞ、という叱咤激励です。そして<まだやれるのにチキショーと叫ぶ心はあるか?>と、起こった“事実”に<君>が抱いている“本音”を揺さぶり、立ち上がる意志に火を灯すのが4つ目の問いなのでしょう。

挑んで失敗して繰り返す人よりも
何もしないでそれをあざ笑う人ばかりなんだ
他人の間違いという名の甘い蜜を
貪り続けていくことは幸せなんだろうか?

心から君と何度も笑い合っている
瞬間を思い描きながら今日を生きているよ
叶わないと信じてりゃそりゃ叶わないよ
叶うと信じるところから夢は始まるのだろう
「プライド」/高橋優

 また、譲れない何かに<挑んで失敗して繰り返す>ことを、誰かの言動なんかで諦めることが、いかにバカらしいかを教えてくれるのもこの歌。世の中は<何もしないでそれをあざ笑う人>や<他人の間違いという名の甘い蜜を貪り続けていく>人ばかり。そんな奴らの言葉に耳を傾けて、それを<本当>だと思っていたら、それは自分に自分で<叶わない>と言い聞かせて信じているのと同じこと。負のおまじないをかけているのと同じことです。

立ち上がれその心よ
焼き尽くせ命の火を
どこまでもいけるよ君が望むのならば
なにもかも叶えにいこう
そしてまた笑い合おう
その真逆を煽る風が吹いているとしても
誰にも期待されてないくらいが丁度いいのさ
ここにいる意味を刻み込むのさ 何度倒れても
生きていく意味を作り出すのさ 何を失っても
「プライド」/高橋優

 それなら<誰にも期待されてないくらいが丁度いい>から、誰に何を言われたって、すべてに<チキショー>と叫びながら、立ち上がり、命の火を焼き尽くし、自分だけは<叶うと信じ>て進むのみでしょう。また<誰にも期待されてない>のだから、うぬぼれや高慢や思い上がりなど、無駄な「プライド」も生まれることはありません。孤高に<生きていく意味を作り出す>一歩一歩。その積み重ねだけが、唯一の“誇り”となってゆくのではないでしょうか。

君ではダメだと言われてしまったか?
君じゃない人の方がいいと諦められたか?
そんな言葉を本当だと思うのか?
まだやれるのにチキショーと叫ぶ君が主役の
明日を さぁ始めよう
「プライド」/高橋優

 こうして幕を閉じてゆく歌。一見、冒頭と同じフレーズのようで、少し異なるのがわかりますね。クエスチョンは4つではなく3つ。これはもう“事実”と“本音”にちゃんと<君>が向き合うための問いではないのだと思います。この歌を聴いて、もうすでに“事実”とも“本音”とも、ちゃんと向き合った<君>が明日から<チキショー>と叫びながら生きてゆくための、最終チェック。背中を押すための言葉なのです。
 
 「君ではダメだと言われてしまった」方。「君じゃない人の方がいいと諦められた」方。そんな言葉で、自分がつばさだと信じてきた何かや、いつかそのつばさで羽ばたいて向かおうとしていたどこかや、いつかそのどこかで出会えたかもしれない誰かなど、あらゆる“可能性”を失うのはもったいない!どうか、高橋優の「プライド」を聴いて、自分だけの“誇り”を胸に、もう一歩前へ、進んでみてください…!

◆19thシングル「プライド」
2018年5月30日発売
通常盤 WPCL-12881 ¥1,200(税別)
期間生産限定盤 WPZL-31468 ¥2,000(税別)
グッズ付き数量生産限定盤 WPCL-12882 ¥2,500(税別)

<収録曲>
1.プライド
2.僕の幸せ
3.昨日の涙と、今日のハミング 
4.メガネツインズのテーマ/メガネツインズ(高橋優&亀田誠治)