今「大好きだ 大好きだ」って大声で君に歌ったら…。

もうそろそろ私が屋根であることに
気づいて傘をたたんでほしい
(笹井宏之)


 こちらは歌人・笹井宏之さんの作品。確かにわたしたちは、誰かを必死に守っているのに気づかれなかったり、逆に誰かにずっと守られているのに気づかなかったりということがあるんですよね。心がどしゃ降りなとき、そばにある【屋根】に気がつければ“いいのに”…。さて、今日のうたコラムでは、まさにそんな大切な人にとっての【屋根】のような存在になりたいと願う主人公を描いた新曲をご紹介いたします!

今日髪下ろして
二つ分けているのは
腫れた目のカムフラージュ
偶然聞いたんだ
ちょっとありえないな
僕なら目隠させないのに
「いいのに」/sumika


 この歌は、2018年4月25日に“sumika”がリリースした『Fiction e.p』に収録されている新曲です。どうやら<僕>が恋をしている<君>に昨日、何かツラいことが起こった模様。好きな人に泣き腫らすほど悲しい想いをさせられたのかもしれません。暴力を受けた可能性だって考えられます。それでも<腫れた目>を隠して<君>はなんとか今日を過ごしているのです。悲しみを<髪>という【傘】でしのいでいるのです。

 一方、何があったのかを知って<ちょっとありえないな>と憤る主人公。好きだからこそ尚更、自分が恋人だったら絶対に傷つけたりしないのに…!という悔しさが滲みます。さらに<今日髪下ろして 二つ分けている>ちょっとした変化に気がつくところからも、普段から<君>の様子をよく見つめている恋心の強さが伝わってきますね。それゆえに<君>の傷の深さも痛みも、周りの誰より自分事のように感じているはず。

でも電波に乗れない
言葉にならない
勝手の悪すぎた僕の心
綺麗に畳んでそれを眺めて
満足しているような僕の心

今出来る“なにか”を探り当てて
仲間呼び寄せ君を誘わせる
受付済ませマイク握ったら
昨日の君を薄めるのさ
(4980-609)
「いいのに」/sumika

 しかし<君>には恋人がいるから、これまで自分の「好き」さえ伝えてこなかった<僕>です。今、どんなに心配してもその気持ちは結局<電波に乗れない 言葉にならない>で、一人もどかしい想いをするしかないのでしょう…。そこで<今出来る“なにか”を探り当てて>思いついたのが【カラオケ】という手段。それなら<仲間呼び寄せ>てでもまずは<君>と一緒にいられる時間ができますよね。

 ちなみに、歌詞に綴られている<(4980-609)>とはおそらく、カラオケ本に記載されている曲のリクエストナンバー。この曲が何なのかはわかりませんが、今日の勝負曲であることは間違いないでしょう…!この曲を聴いてほしいがために<君>をカラオケに呼んだのです。では<僕>はどんな想いを音楽に託したのでしょうか…。

「大好きだ 大好きだ」って大声を出して歌ったよ
君の良い所を知らせるように
今「大好きだ 大好きだ」って大声を出して歌ったよ
味方はすぐ傍にいるのに

「大好きだ 大好きだ」って大声を出して歌ったよ
他人の歌に自分重ねるように
今「大好きだ 大好きだ」って大声で君に歌ったら
それを本気ととらえればいいのに
「いいのに」/sumika

 <僕>が歌ったのは応援ソングでも<君>の心を代弁する失恋ソングでもありません。ただただ「大好きだ 大好きだ」って、自分の本音を大声で歌ったのです。そこに<君の良い所を知らせる>気持ちを込めて。そして<味方はすぐ傍にいる>と気づいてほしい願いを込めて。なんだか、芯にある想いが<本気>だからこそ、全てのメッセージがちゃんと<君>に届いているような気がしてきませんか? そういえば「大好きだ 大好きだ」といえば、次のような楽曲がございます。

大好きだ 大好きだって
ずっと思っていた
君は遠くの街に行ってしまうから
何回も 何回も
書き直した手紙は
ずっと僕のポケットの中
「LOVE LETTER」/槇原敬之

 槇原敬之さんの名曲「LOVE LETTER」です。本当に<大好きだ 大好きだって>大声を出して歌いたくなるメロディー。さらに余談ですが、この歌詞にもまた<ずっと言えずの言葉を 託した曲達>というフレーズが登場するんです。どこかsumika「いいのに」の主人公と重なるところがありますよね。もしかしたら<僕>は<君>のために、槇原敬之さんのこの歌を歌った…のかもしれません!

「大好きだ 大好きだ」って大声を出して歌ったよ
腫れた瞼に苛つくように
今「大好きだ 大好きだ」って大声を出して歌ったよ
誰より味方でいるのに

「大好きだ 大好きだ」って大声を出して歌ったよ
他人の歌に自分重ねるように
今、大好きだ大好きだって本心が君に伝ったら
それを本気ととらえればいいのに

僕に寄りかかれば
いいのに
「いいのに」/sumika

 誰より味方でいてくれる人、腫れた瞼に本人より苛ついてくれる人、一番ツラいとき<僕に寄りかかればいいのに>と言ってくれる人。そんな<僕>はきっと<君>の【屋根】になりうる存在です。この歌が<君>に届けば、いいのに。そして、もしもリスナーの方が主人公と同じような状態に陥ったならば、是非是非、その子をカラオケに誘って、sumika「いいのに」を全力で歌ってみてはいかがでしょうか…!

◆紹介曲「いいのに
作詞:片岡健太
作曲:片岡健太

◆New E.P『Fiction e.p』
2018年4月25日発売
初回生産限定盤 SRCL-9756~9757 ¥1,900+tax
通常盤 SRCL-9758 ¥1,200+tax