骨が砕けそうに悲しくて消えてしまいたかった

 デビュー25周年イヤーを迎えた“斉藤和義”が2018年3月14日にニューアルバム『Toys Blood Music』をリリース!今日のうたコラムでは収録曲から、切ない失恋ソング「世界中の海の水」をご紹介いたします。みなさんは、恋人と別れた後も、わざわざ思い出の場所に足を運んでしまうことってありませんか…? この歌に描かれているのは、まさにそんな主人公なんです。

逢いたい気持ちが消えなくて
きみの町へと走る
あの部屋にはもういないけれど
それでもいい いいんだよ

二人で出かけたあのカフェは
今夜も暇そうだよ
いつもの映画流しながら
マスターひとり見てる
「世界中の海の水」/斉藤和義

 あの部屋もあのカフェも、すでに<二人>にとって過去の場所。<きみの町>と綴られているものの、きっと<きみ>はもうその町にさえ住んでいないのではないでしょうか。しかし<それでもいい いいんだよ>と、主人公は消えない<逢いたい気持ち>に突き動かされて<走る>のです。思い出が刻まれている<きみの町>に。記憶のなかの<きみ>に逢うために。

 そして今、主人公はひとりで思い出のカフェにいるわけですが“このカフェ”ではなくて<あのカフェ>と歌われているところが印象的です。身体はココにあるけれど、心は過去にトリップしているかのよう。さらに<今夜も暇そう>や<いつもの映画>というワードからは、変わらない光景を見つめながら“あの日々”と“現在”を重ねているような様子も伝わってきます。それは同時に、関係だけが変わってしまった現実の切なさをも際立たせますね…。 

あの日絵文字が消えて
既読になったまま
あのドアにきみの横顔が
映ったような気がしたけど‥

世界中の海の水でも この火は消せない
おおげさかな 気のせいかな 忘れられないよ
「世界中の海の水」/斉藤和義

 歌が進むにつれ、ますます心に色濃く映るあの日、あのドア、きみの横顔…。ただし、想いの強さだけは“あの火”ではなくて<この火>なのです。過去ではないのです。人はよく『海の広さに比べたら、自分の悩みなんてちっぽけだ』と、言ったりしますよね。主人公の場合、逆です。<この火>の前では<世界中の海の水>さえも無力。もっと言えば<世界中の海の水>なんかよりも<既読になったまま>のLINEに馳せる想いの方が、ずっと不変であり、強く息づいているものなのだと思います。

二人で出かけた公園の
ベンチに座ってみる
日曜日は嫌いだよね 誕生日もクリスマスも

出逢わなければよかったのかな
何度も考えるよ
だけど無理さ とても無理さ
きみのいない世界なんて

あの日きみは震えながら
このままでいいと言った
骨が砕けそうに悲しくて
消えてしまいたかった
「世界中の海の水」/斉藤和義

 さらに続く歌詞を読んでいくと、うっすらと二人の恋愛背景が見えてくる気がしませんか? おそらく主人公と<きみ>は、不倫関係だったのではないでしょうか。だから、家族サービスをしなければならない<日曜日>や<クリスマス>、一番会いたい日なのに会えないときもある<誕生日>が嫌いだった…。また、「出逢わなければよかったのかな」「このままでいい」そんなセリフも報われない恋を表しているように感じられます。

世界中の海の水でも この火は消せない
おおげさかな 勝手だよな きみに会いたいよ

世界中の海の水でも この火は消せない
おおげさかな これが愛かな 忘れられないよ

逢いたい気持ちが消えなくて
きみの町へと走る
あの部屋には見覚えのない
カーテンかかってる
「世界中の海の水」/斉藤和義

 だけど、今はもう何もかも終わってしまい、主人公はひとり<きみのいない世界>におります。勝手でも会いたくて、会えなくても忘れられなくて、心の中の<この火>だけがじわじわと強まってゆくラスト。たとえ<あの部屋には見覚えのない カーテンかかってる>光景を目の当たりにしても、終焉を実感しても尚、想いが消えることはないのでしょう…。

 世界中の海の水でも、誰のどんな涙でも、自分の一生分の涙でも、消せない<この火>が胸の中で燃え続けているというあなた。是非、斉藤和義の優しく切ない歌声に浸りながら、この歌を聴いてみてください。その心の痛みがほんの少しだけ、和らぎますように…。

◆紹介曲「世界中の海の水
作詞:斉藤和義
作曲:斉藤和義

◆ニューアルバム『Toys Blood Music』
2018年3月14日発売
初回限定盤 VIZL-1800 ¥3,800+税
通常盤 VICL-65100 ¥3,000+税

<ニュース提供>
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