この腕はアナタを正しく守れない。

私のように平気で人を殺す人間は
脳の仕組みがどこか普通と違うのでしょうか。

 異様な一文から始まるノート。映画『ユリゴコロ』(2017年9月23日公開)の物語は、ある家族の息子・亮介(松坂桃李)がそのページをめくるところから幕を開けます。そこには、一人の女性・美紗子(吉高由里子)のおぞましくも切ない半生が“私”の告白文として綴られておりました。「私は私のユリゴコロを必死で探しました」…。ユリゴコロとは、ヨリドコロのこと。みなさんも、生きてゆく上で欠かせない、自分の支えになるものってありますよね。たとえば、恋人や友人、家族、仕事、音楽、いろいろでしょう。それが、美紗子にとっては【死】でした。

 殺人という“ユリゴコロ”でしか、自分を保つことができない絶望の日々を送っていた彼女。しかし、ある夜、一人の男性・洋介(松山ケンイチ)に出逢ったことをきっかけに、ヨリドコロが【死】から少しずつ【愛】に変わってゆくのです。ただ、その先にはあまりに非情な運命が待ち受けていて…。美紗子、洋介、殺人鬼の告白文を読み進めてゆく亮介。過去と現在が交錯してゆくなかで、ラストに突きつけられる驚愕の真実とは…?そして、そんな激しく心を揺さぶる物語を、最後に大きな愛で包み込むのが、主題歌のRihwa「ミチシルベ」です。

ただそこに貴方が居て
ただここに私が居る
縺れ合う赤い糸
纏わり付いた
「ミチシルベ」/Rihwa

 この曲は、Rihwaが『ユリゴコロ』のために書き下ろした楽曲であり、9月20日にシングルとしてリリースされました。おそらく、ずっと愛など知らずに生きてきた<私>にとって<赤い糸>は、恐怖だったことでしょう。もつれあって身動きが取れなくなって、まとわりついて苦しくて、ひとりで生きていたなら、気づかなくてよかった心の痛点を知ってしまったのです。それは同時に、今までの自分の暗やみを思い知ることでもあったのだと思います。光なんて知らなければ、暗やみにも不幸にも世界にも、鈍感でいられたのかもしれません。

それでも愛してる
終わらない夢を漕ぐ
貴方だけがこの闇の中で
ミチシルベの光

張り裂けてゆく痛みも
初めて愛しさと知った
永遠はきっと私の中にある
分かち合える喜びも
涙が辿る温もりも
欠けてゆく月に気付けない
「ミチシルベ」/Rihwa

 しかし<私>は<貴方>という<ミチシルベの光>に出会ってしまいました。ゆえに<この闇>の深さに気づき、ここから抜けられるかもしれない一筋の希望を抱き、初めてちゃんと心で世界を見た。それは、とてつもない苦しみを伴ったはずです。でも、<それでも愛してる>のです。そして、容赦のない優しさに触れて、<張り裂けてゆく痛みも>愛しさだと知って、<分かち合える喜びも 涙が辿る温もりも>知って…。ただし、その一方で<欠けてゆく月に気付けない>というフレーズからは、どんなに愛し愛されても闇は消えるわけではないという残酷さも伝わってくるような気がしますね。

手離した“当たり前”が
何度も“今”を引き寄せた
この腕はアナタを正しく守れない
静寂の風の中で
果てしない旅を進めた
霞ゆく先を見つめてる
「ミチシルベ」/Rihwa

 映画『ユリゴコロ』では、まさに<手離した“当たり前”>が、何度も何度も絶望の“今”を引き寄せます。最も皮肉なのは、ヨリドコロが【死】から【愛】に変わった美紗子が、本当に引き寄せたかったのは、手離したはずの“当たり前”の“今”だということではないでしょうか。だけどもう、当たり前を手離してしまった<この腕はアナタを正しく守れない>…。ちなみに歌詞に注目してみると、これまで<貴方>という表記だった人称が、ここだけは唯一<アナタ>と綴られております。もしかしたら、このフレーズの<アナタ>は、ベクトルが今までとは異なるのかもしれません。

 というより、ベクトルがいろんな方向へ向いているのです。たとえば、自分自身を<アナタ>と呼んでいるとします。そう考えると<この腕はアナタを正しく守れない>とは、自分を正しい方法で守ること、保つことができず、殺人という術を選んでしまった美紗子の想いを表しているのでしょう。また、美紗子を愛した洋介の立場になれば、閉ざされた魂を救えない葛藤や痛みも含まれているように感じられます。さらに、映画を観ていただければわかると思いますが、美紗子の周囲の人々、ノートを読んだ亮介、それぞれの気持ちがこのフレーズに当てはまり、それぞれの<アナタ>が想像できるのです。

何処にも居場所なんて無かった
自分が誰かも見失った
貴方に見つめられた日から
弱さを知ったの

ひとりが怖くなるのは
貴方のくれた優しさが
いつまでも胸に刻まれているから
この世界に溺れても
貴方と出会えた奇跡が
遠ざかる二人を繋いでる
明けてゆく空に帆を立てる
「ミチシルベ」/Rihwa

 こうして幕を閉じてゆく主題歌。容赦ない愛の<ミチシルベの光>が、弱さを、恐怖を、優しさを、奇跡を、繋がりを、すべてを包み込みます。さて、あなたには映画『ユリゴコロ』のラストでこの歌がどのように響くでしょうか…。決して優しいだけではない、でも絶望だけでもない物語を是非、Rihwa「ミチシルベ」と共に、胸に刻んできてください…!
 
◆New Single「ミチシルベ」
2017年9月20日発売
TFCC-89626 ¥1,200+税
M1.「ミチシルベ」
M2.「羽」
M3.「THE GATE」(JRA札幌競馬場2017 CMソング)