「さよなら」よりは簡単に言えるはずなのに、言えたはずなのにね。

いつからやろね
「さよなら」って、言われへんようになったん。
昔はもっと「さよなら」とか「バイバイ」とか言って
ちゃんとさよならできたはずやのに。
(映画『ペタル ダンス』より)

 たしかに学生時代には、卒業式などちゃんとお別れできる場があります。でも、大人になるとそのような機会はほぼ無く、しかも「さよなら」が必要なのは、たいてい失恋するときになるんですよね。その場合、傷つけたくないし、悪者にもなりたくないから「さよなら」という言葉を使わずに別れたりもするのでしょう。逆に、本当は他に“伝えたい言葉”があったのに、勢いで「さよなら」と告げてしまうことも…。いずれにせよ「ちゃんとさよならできた」とは言いがたいですね。さて、今日のうたコラムではそんな【ちゃんとさよならできなかった恋】を描いた新曲をご紹介いたします。

一秒でも長くあなたと笑っていたかった
たまにそう思うよ 今でも思うよ
苦しい夜もある
けどそう思えるのは本気で愛し合ったからこそ
涙が嫌いなあなただけど
あの夜やっぱり泣けばよかった
「愛してるよ、さよなら、」/青山テルマ

 この歌は、今年デビュー10周年の青山テルマが、2017年9月6日にリリースしたニューアルバム『10TH DIARY』に収録されている楽曲。まず主人公と“あなた”は、すでに別れてしまっているわけですが、歌詞を読むとこの二人が<本気で愛し合った>時間が鮮明に伝わってきます。きっと主人公にとっては、まだ景色も感情も何もかも、昨日のものであるかのように感じられるのでしょう。だからこそ、今の気持ちもまるで目の前に“あなた”がいるかのように、語りかけられてゆくのです。

今振り返ると本当に色々あったね
それでも不思議と 思い出せるのは
楽しい時ばかり
だから「ヨリ戻そう」その言葉が聞きたい訳じゃない
「本当に好きだった」この言葉が
たまに聞きたくなる 図々しいよね
「愛してるよ、さよなら、」/青山テルマ

 自分よりも相手を想っていたこと、何でもしてあげたいと思っていたこと、朝がくるまで抱き合ったこと、寝顔に何度もキスされたこと…。歌の中には<本当に色々>な<楽しい時ばかり>の思い出が綴られております。そして、それだけ愛し尽くすことができたからこそ、あの恋をしたこと自体に後悔はないし、今さら<「ヨリ戻そう」その言葉が聞きたい訳じゃない>…。ただ、お互い「本当に好きだった」のに<あの夜>のさよならの仕方だけは、間違ってしまったことがサビで明らかになるのです。

「愛してるよ」 これからも
どんな人を愛しても 忘れないよ
「さよなら」から
「永遠」が生まれるなら
永遠なんて最初からいらなかった
「愛してるよ」 あの夜に
強がらずに素直に 言えばよかった
「さよなら」よりは簡単に
言えるはずなのに
言えたはずなのにね
「愛してるよ、さよなら、」/青山テルマ

 あの夜に伝えたかったのは「愛してるよ」という言葉。でも“あなた”は<涙が嫌い>な人だから、主人公は背伸びして強がって勢いで「さよなら」と言ってしまったのでしょう。つまり【ちゃんとさよなら】が出来ていないということです。もしも、素直に泣いて「愛してるよ」と伝えていたら…。そんな“もしも”が皮肉にもこの恋を「永遠」にしてしまっているのではないでしょうか。だから曲タイトルも「愛してるよ、さよなら、」と終わりの【。】を打っていないのです。【、】の先には、どのような言葉が続くのでしょう…。

 時に、意地やプライドによって、伝えるべき言葉を伝えられず、難しくなってゆく大人のさよなら。みなさんは最近【ちゃんとさよなら】できていますか…?

◆ニューアルバム『10TH DIARY』
2017年9月6日発売
初回限定盤 UPCH-7352/3 ¥4,104(税込)
通常盤 UPCH-2136 ¥3,240(税込)

1 tonight
2 doctor doctor
3 一生仲間
4 don't call me
5 愛してるよ、さよなら、
6 only care about you
7 My Only Lover
8 パンケーキ
9 君が君でいてくれるから
10 なんだかんだ