あなたか、あなた以外か。

 2021年3月3日に“関取花”がメジャー1stフルアルバム『新しい花』をリリースしました。今作には、タイトル曲「新しい花」のほか、「太陽の君に」や「逃避行」「今をください」「あなたがいるから」、2014年に発表された「私の葬式」のバンドバージョンなど、ボリュームたっぷりの全13曲が収録されております。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“関取花”による歌詞エッセイを4週連続でお届け!今回はその第3弾。綴っていただいたのは、収録曲「美しいひと」に通ずるお話です。自分は自分、そう言い聞かせても、どうしても誰かと比較してしまうとき。自分のすべてが嫌になってしまうとき。少しでも気を楽にさせたいとき。是非、このエッセイと歌詞を読んでみてください。

~歌詞エッセイ第3弾:「美しいひと」~

私は基本的にポジティブな方なのだが、それでもどうしようもなく落ちこんでしまう時はある。自分としては上手くいっているつもりでも、同じような時期にせーので走り始めた仲間たちがものすごい速さで輝きを増していくのを目にすると、ハッとさせられる。自分自身の満足のレベルの低さ、過ぎてゆく時のシビアさ、生まれ持った才能のなさ、かと言ってそれほどの努力をしてこなかったという現実。いろんなものが一気に押し寄せてきて、夜に心の全部を支配されてしまうのだ。

やっと受け入れられるようになった過去も、さっきまで肯定できていた今も、なんだかんだ明るいと思っていた未来も、途端に真っ暗闇に包まれてしまう。もうダメだ、やっぱり私は輝けるタイプの人間ではないのだと、行き場のない悲しみと怒りと虚しさが押し寄せてきて、気付けば涙がこぼれ落ちている。

そういう時は何をしたってダメだ。自分のすべてを否定したくなってくる。鏡を見ればその醜さに辟易とし、余計に涙が溢れてくる。これはこれでいいなと思っていた奥二重も、コンプレックスではあるけれど母に似ているからと愛せていたエラの張った輪郭も、豪快に笑えて好きだった大きい口も、もうすべてが嫌になる。なんだその顔、誰だお前。こっちを見るなと言いたくなる。

でも、最近はそうやって落ち込んでもあまり引きずらなくなった。とにかく一旦全然違うことを考えるのだ。というか、考えるということから完全に逃げるのだ。自分と普段関係のない世界の、比べても仕方がない人たちの世界にちょっとだけお邪魔する。じゃあ具体的に何をするか。私はYouTubeを見る。ホストの方々のYouTubeを見る。

私はお金もないのでブランド物にもあまり興味がないし、シャンパンよりはビール派だし、少女漫画に出てきそうなキラキラとした人よりは、もう少しいなたい感じの人の方が安心するタイプである。だから夜の世界というのは、本当にまったく知らない未知の世界だ。でも、興味はある。

実際に行ってみたいかと言われると恐れ多くてとても踏み入れられないのだが、東京都内、電車にちょっと揺られれば着いてしまう新宿は歌舞伎町で、聞いたことのないコールやとんでもない額のお金が飛び交っていると思うと、なんだか覗いてみたくなる。現実でありながら現実でないような、すぐそこにあるのに漫画の世界のような、この絶妙な距離感がいい。

どうせ現実逃避をするなら、アニメや映画、動物の動画なんかを見る方がいいんじゃないかと思う方もきっといるだろう。でも、それじゃダメなのだ。それだとあまりにも自分から遠い世界すぎて、「現実逃避をしているという現実」と対峙せざるを得ない。程よいリアルさがある方が、よっぽど真剣にその世界観に入り込める。あくまでも私の場合だけれど。

ホストの方々のYouTubeを見ていると、はじめのうちは華やかな部分ばかりに目が行ったが、その裏では彼らなりの努力や闘いがあるということに気付く。着飾るのもちょっと派手な発言も自己プロデュースの内の一つであり、自身の見せ方が上手な人がのし上がって行く世界だ。

誰かの真似事や他者との比較ばかりしていても意味がない。「だから私はあなたを選ぶ」と言わせるためには、その人にとって替えのきかない、唯一無二の存在にならなくてはならないのだ。そのためには焦ってもいいことはない。自分の強みは何か、多少時間がかかってもそれを見つけ出すことがきっと大切なのだ。

そしてこれは自分自身に置き換えて考えることもできる。星の数ほどいる同業者の中でいつの日か輝くためには、誰かにとっての一番星になるためには、自分だけの輝き方を知らなければならない。それはどんな環境にいたって、どんな仕事をしていたってきっと同じだ。でも自分の知っている世界だけを見ていると、どうしても比較対象が近くにいすぎてどんどん考え込んでしまう。誰かになろうとしてしまう。余計に落ち込んでしまう。だから私はホストの方々のYouTubeを見ては、程よい距離感で客観的に自分を見つめ直すようにしているのだ。


あなたはあなたのままでいい
誰かになろうとしなくていいんだよ
あなたがあなたを愛せた時
夜空は優しく微笑んでくれるから



これは私の「美しいひと」という曲のサビの歌詞である。そう、時間がかかってもいいから少しずつ自分を愛して、自分だけの輝き方を知って行けばいい。気付けば私たちを包み込んでいた真っ暗闇はいつの間にか消え、夜空も微笑んでくれているはずだ。

あなたはあなたのままでいい。誰かになろうとしなくていい。あなたか、あなた以外か。まあつまりそういうことです。

<関取花>

◆紹介曲「美しいひと
作詞:関取花
作曲:関取花

◆ニューアルバム『新しい花』
2021年3月3日発売
1. 新しい花
2. はなればなれ
3. 恋の穴
4. ふたりのサンセット
5. あなたがいるから
6. 逃避行
7. 太陽の君に
8. まるで喜劇
9. 女の子はそうやって
10. 今をください
11. スローモーション
12. 美しいひと
13. 私の葬式(バンドver.)全13曲収録