幸せの形はひとつではないのだ。

 2021年3月3日に“関取花”がメジャー1stフルアルバム『新しい花』をリリースしました。今作には、タイトル曲「新しい花」のほか、「太陽の君に」や「逃避行」「今をください」「あなたがいるから」、2014年に発表された「私の葬式」のバンドバージョンなど、ボリュームたっぷりの全13曲が収録されております。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“関取花”による歌詞エッセイを4週連続でお届け!今回はその第1弾。綴っていただいたのは、新曲「新しい花」に通ずるお話です。最近、AirPodsを初めて購入したという彼女。そこで得た意外な気づきとは…? 自分はもう変わるところなどない、と思い込んでいる方も、是非このエッセイと歌詞を受け取ってみてください。

~歌詞エッセイ第1弾:「幸せの形はひとつではないのだ」~

最近、AirPodsを買った。Bluetoothのイヤフォンを使ってはいたが、何かとものを落っことしがちな私なので、これまではコード付きかつマグネットで止められて、使わない時はネックレスのように止められるタイプのものを愛用していた。音や使い勝手にこれといって不満はなかったのだが、マイク機能が搭載されていなかったのでリモートでのラジオ出演や打ち合わせの際には使えず、周りに勧められてこのたびついにAirPodsを購入したのである。

正直、AirPodsを使うのにはかなり抵抗があった。今でこそ当たり前になっているが、みんな最初は思ったはずだ。「なんだこれ」と。イヤフォンの形はそのままに、綺麗にコード部分だけがなくなっているあのデザイン、なんというか、ウソみたいじゃないか。本当にそれで音楽が聴けるのか? 聴いている風アクセサリーじゃないのか? そもそも落っこちないのか? いろいろと新しすぎて、最初はとても思考が追いつかなかった。見慣れないうちは街中であれをしている人を見かけるたび、「ちょっと、コードぶった切られてますよ」と言いたい気分に襲われた。

そして何より怖かったのは、人とすれちがう時である。私は最初AirPodsにマイク機能が搭載されているなんて知らなかった。音楽を聴きながら何か口ずさんでいるようにはとても見えなかったし、ひとりごとにしては大きいし、夜道で誰かと通話している人とすれ違うたびびっくりさせられた。

ある日、そういう人の多くが耳からあの白いしめじ=AirPodsを生やしていることに気付き、あれはハンズフリーで通話しているのだと知った。あのしめじのせいで私は何度も夜道でびっくりさせられたのか。そう思うとなんだかしゃくに触ったので、どんなにスタンダードになって行こうと、相当な理由がない限り私は使わないぞと心に決めていた。

しかし、ここ一年での世の中の状況の変化もあり、ついに私もAirPodsを必要とする時がきたのである。インターネットで購入し、家に届いてすぐに箱を開けると、正直その素晴らしさに感動した。まず、かわいい。何あの絶妙に角の取れた丸っこいケース。ずっと触っていたくなるツルスベの手触り。蓋を開け閉めする時の感触も実にいい。

とはいえ、すぐに落っこちてしまうんだろうと思いながらいざはめてみたら、これまた驚きのフィット感。首を縦に振っても全然落ちやしない。コードがないからピアスに引っかかったりもしないし、絡まるストレスもない。もちろん、Bluetoothの反応も問題なし。なんだこれ、めちゃめちゃ便利じゃないか。

イヤフォンにはコードがあってなんぼ、通話する時は電話を手に持つのが決まりだと思い込んでいたが、いざ使ってみたらそこには新しい世界が広がっていた。これしかない、私はこのやり方でしか生きられない、と思い込んでいることも、案外一歩踏み出せばそうでもなかったりする。

人というのは変わりやすい生き物で、時というのは流れて行くものだ。過去にとらわれて変化や新しさをただ拒絶するのではなく、柔軟に受け入れながら自分に合ったものをどんどん見つけて行けばいい。思っている以上にきっと世界は広いし、新しい発見で溢れている。好奇心を絶やさず、自分にとって本当に必要なものや似合うものが何かを少しずつ見つけていく過程で、その人らしさというのは育って行くのだろう。「新しい花」という曲は、まさにそんな歌である。


あなたしかいないと 思い込んでいたけど
そんなことないって ようやく気付いたの

思い出はたしかに うしろ髪引くけど
時が経ってしまえば 笑い飛ばせるはず

幸せの形は ひとつではないなら
今からでも遅くはない

何度でも 何度でも 何度でも花は咲ける
もう一度ここから始めるの



歌詞の言葉をそのまま受け取ると、失恋ソングというか過去の恋に別れを告げて新たに歩き出す人の歌に聴こえるが、これは何も恋に限った意味で書いた歌詞ではない。ここで言う<あなた>に当てはめるのは、何も人じゃなくたっていい。学校、職場、人間関係、これまでの自分、コード付きイヤフォン、なんだっていい。

何にしたって、「これしかない」なんてことはきっとないのだ。ずっとそこにいるからそう思うだけで、案外そうではないかもしれない。違う場所に挑戦してみたいとか、なんだか居心地が悪いとか、新しい自分と出会いたいとか、もしいつか「今だ」と思うその瞬間が来たのなら、思い切って飛び出してみるのもいいじゃないか。想像以上の世界が、まだ誰も知らない自分が、きっとあなたを待っている。

<関取花>

◆紹介曲「新しい花
作詞:関取花
作曲:関取花

◆ニューアルバム『新しい花』
2021年3月3日発売

<収録曲>
1. 新しい花
2. はなればなれ
3. 恋の穴
4. ふたりのサンセット
5. あなたがいるから
6. 逃避行
7. 太陽の君に
8. まるで喜劇
9. 女の子はそうやって
10. 今をください
11. スローモーション
12. 美しいひと
13. 私の葬式(バンドver.)全13曲収録