フィクションってわかっているよ、いや、でもどっかにはあるんだよ。

 2020年2月19日に“edda”がニューアルバム『いつかの夢のゆくところ』をリリース。アーティスト名に“物語を語り継ぐ”という意味を持つ彼女。今作の物語の舞台は、忘れられた夢を追いかけて辿りついた【夢の館】です。そこに集まった、様々な主人公の夢のお話が1枚のアルバムへと描き出されております。全11曲、じっくりとご堪能あれ…!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“edda”のインタビューを【前編】【中編】【後編】に分けてお届けいたします。今回は【前編】に続く【中編】です。とにかく物語を愛し、主人公ひとりひとりを「この子」として語るeddaの言葉を、是非、アルバムと併せて、受け取ってください。よりいっそう物語の世界を楽しめるはず…!

― ここからは、ニューアルバム『いつかの夢のゆくところ』についてお伺いしていきます。まず“夢”をテーマに選んだ理由をお聞かせください。

そもそも眠っているときに見る“夢”というものに関心がありまして。自分で夢日記もつけているし、その夢に対しての考察をするのも好きなんですね。なんか夢って、いちばん身近にあるファンタジーじゃないですか。実際に体験できるファンタジーなんて正直、夢しかないですし。だからそこに焦点を当てたアルバムを作ったら面白いなというところから制作が始まりました。そして1曲目の「こもりうた」はプロローグ的な役割で、聴き手を夢の世界に導いていくというイメージです。

乾いたまつ毛に
うつるや 彼の色
星舞う まぶたに
千の代をのせ
目を閉じて 夢が終わる
バクの声が聞こえたら
おやすみ
こもりうた

― 1曲目「こもりうた」は、夢の世界へ導入する歌ですが、歌詞の<目を閉じて 夢が終わる>というフレーズが不思議でした。“夢が始まる”ではないのですね。

そう、そうなんです。実はこれ、私が初めて見た“明晰夢”のことなんですよ。夢のなかで夢だと気づいて、自分の意志で行動できるっていう。それを人生で一回だけ見たことがありまして。私は中学の同級生とご飯を食べているんですけど、途中で「あ、これ夢だ」って気づいたんです。でもいつもなら気づいた瞬間に目が覚めるんですけど、そのときだけは覚めなくて「どうしよう…!」ってビックリして。

そうしたらその子が「久々やね」と話しかけてきたので、とりあえず私は「でも夢の中では結構会ってるんだけどね、まぁこれも夢なんだけどね」と言ってみたんです。それでも目が覚めなくて!その子も「えぇ!?そうなの!?」ってめっちゃ驚いていて。だけど、目にグッと力を入れて、大きく見開いていないと、目が覚めてしまうんですよ。こう…今まで目を閉じると夢が覚めていく感覚があったから。

― なるほど…!だから<目を閉じて 夢が終わる>なんですね。

そうそう。で、結局その夢は、私がずっと目を見開いていたらその子が「なんでそんな顔しとん?」って言ってきて「だってこうしとかんと目が覚めるー…」って言いながら、目が覚めてしまいました(笑)。だから“夢の世界では目を閉じると夢が覚めてしまうんだよ”というメッセージを、導入にも反映させてみたんです。このフレーズの意味って、言わないとわかんないですよね(笑)。でも、明晰夢は本当にその一回しか見たことがないので、忘れがたい夢でしたし、曲にできて良かったです。

寝ぼけたペン先ため息をなぞる
“2501回目 またダメだった”
憎らしい日差しに おはようを投げて
取りこぼさないよう書き殴った
夢日記

― 2曲目「夢日記」の主人公は、もう<2501回>同じ夢を見ていて、何かを変えようとしている…、という解釈で合っていますか?

はい、ほとんど合っています。同じ夢というか、同じひとが出てくる夢。そのひとはもう夢でしか会えなくなってしまった存在だから、なんとか夢で気持ちを伝えようとしているんです。だけどなかなか上手くいかない。明晰夢にはならない。夢を見て「会えた!」と思っても、自分の意志では動くことができない、という物語ですね。

― この主人公は、eddaさん自身が夢日記をつけていることから生まれたそうですが、どのように物語を膨らませていったのでしょうか。

夢日記って明晰夢を見るために書いているひともいるらしいんですよ。夢を記録しておくことで、見たい夢が見られるようになるとも言われていて。そこから「もしこの子が明晰夢を見るために夢日記をつけていたとしたら、なんでそんなに明晰夢が見たいのか」と考えていきました。で、夢のなかでしか会えなくなってしまったひとって、私にもいるし、多分そういう存在がいるひとって多いだろうなって思ったんですね。そこから、きっとこの子も夢でしか会えない<君>に何か伝えたいからなんだろうな、たとえ夢の中だとしても自分で動いて何かを変えたいんだろうなって膨らましていった感じです。

― 3曲目「ポルターガイスト」の“夢”は、ちょっと異質ですね。

ですね。このアルバムでは一概に“夢”と言っても、いろんな形を描いたんです。そのなかで「ポルターガイスト」は、この子自身が夢になっていくというか、このまま眠りについて夢になっていくというイメージで作りました。このアルバムでとくに好きな主人公は「ポルターガイスト」の<アタシ>ですね。可愛いし、はっきりものを言える子って素敵だなって。あとこの<お前のためじゃない>の<お前>は私のことなんですよ。

観光気分 馬鹿な奴カメラ越し
「なんちゅう絶景!」だって失礼しちゃうわ
嫌気がさす

いつだってきらめいて
居たいのは痛いのは お前のためじゃない
どうしてたって紛れはしないの
ねえ 孤独なガラクタよ
ポルターガイスト


私は廃墟が好きなので、廃墟に行ったときは「あー可愛いー!」とか「絶景だー!」とか言って、気安く写真を撮っちゃうんですけど…嫌だろうなって。やっぱり本人的には綺麗なままでいたいし、ボロボロになった姿を興味本位で撮られるのって「バカにしやがって!」って思うだろうし。それで「ごめんね!」という私の気持ちも込めつつ(笑)、自虐的に書いたのが<お前のためじゃない>というワンフレーズだったりします。

― 4曲目「時をかけ飽きた少女」は“郷拓郎”さんによる作詞作曲です。アルバム曲として収録するにあたり、何か具体的なイメージをお伝えしたのでしょうか。

私は郷拓郎さんのことが好きすぎて、よく「好きにやってください」と言っていて、今回も「夢をテーマにします」ということと「今こういう曲たちが出揃っているので、その間を縫うような夢をお願いします」とだけお伝えしたぐらいですね。あとは郷さんの楽曲のなかから「これ好き!」というものを挙げて、こういう感じのものがあるとアルバムにハマるかもしれないとも言ったかな。そういう感じで作っていただいたんですけど、この曲はもう解釈するのがかなり大変で。レコーディングもすっごい緊張しました。

― eddaさんはこの曲をどのように解釈されましたか?

本当に捉えどころのない女の子がいるというお話だと思っています。これは私が書いていないから、ずっとこの子に語りかけられている目線で聴いていて。なんか…どういうふうに時をかけたのか、時をかけた先で何をしたのか、どうして時をかけているのか、そういうことは一切書かれていないんですけど、とにかくこの子はちょっと疲れていて<私が消えてなくなっても 大丈夫>と言っている、と。

ただ、嘘かもしれないな、とも思いました。突然「未来から来た」とか言ってくる子っているじゃないですか。で、それは嘘かもしれないし、本当かもしれないっていうところを描いた話なのかもなって。だからこの子が本当に時をかけているかは知らないし、姿を消したあとも実は近くにこっそり住んでいるのかもしれない。でもこの子の言葉には、なんだか説得力があって、本当に時をかけてきたんだなと思わされる…みたいな。レコーディングのときは、掴みどころがないけれどすごく掴みたくなる女の子がそこにいて、わけのわからないことを言ってくる、というイメージで歌いましたね。

「約束できないね」「無理だね」って笑う
すべてを忘れたらきっと 逢えるね
時をかけ飽きた少女


私はこのフレーズがとくに好きです。最初のデモを聴いた段階で「あぁ~郷さんっぽいなぁ~」って刺さって。この言葉は、軽くもなるし重くもなる、冷たくも優しくも聞こえる、そこをいちばん良いニュアンスで捉えないといけないなと思っていたので、とくに注意して歌った歌詞ですね。なんか本当に不思議な女の子だったなぁ…と思います。

― 5曲目「Alice in...」は『不思議の国のアリス』…のその後でしょうか。

そうです。このアルバムを通していちばん好きな曲ですね。書いていてめちゃくちゃ楽しかったです。結構ゲームや小説での『不思議の国のアリス』の二次創作って、あのあとアリスが病んでしまったとか、精神病扱いされているとか、そういう設定が多くて。今回は私もそこにスポットを当ててみようかなって。で、アリスは実際はそうじゃないけど<イカれた子>って扱われていて、周りに「この子はちょっとおかしくなってしまったから、治療が必要だ」って薬を投与されたりとか…。

不快な電子音 お薬、紅茶で流し込む
「イカれた子ね こんなの捨ててしまいなさい」

浮かれた三拍子 駆けたワンダーランド
好奇心はあの日のまま 目指すは何処?
手の鳴る方へ
Alice in...

― なるほど…!歌詞の中の<電子音>や<お薬>や<注射>は、治療を意味していたんですね。


そう。で、その治療はキツいもので、アリスに合わなくて、かなり体に無理をさせている状態なわけです。このままでは<ワンダーランド>の記憶も忘れてしまうかもしれない。でもこれはすっごく大事な夢だから、夢を取っておいてくれると噂に聞いた<夢の館>に行こうと。そういう物語ですね。そこに向かうなかで、アリスが心身を薬に侵されながらも頑張る…みたいな曲。

現実と夢の世界が交差していくような感じを表現したかったので、アレンジャーさんともそのへんはすごく話し合いました。現実のことを綴っているパートは、病院の音だったり、ピーッて電子音だったりを入れてもらって、サビの<ワンダーランド>に想いを馳せている部分はちょっとひらけるようにストリングにしてもらって。

きっとこれで最期 咲えワンダーランド
ホンモノじゃないなんて知っていた
穴に落ちたあの日から
Alice in...

― とくに<ホンモノじゃないなんて知っていた>というフレーズが印象的でした。これはどういう意味なのでしょうか。


アリスは「夢だよ!そんなのに没頭するのはおかしい!」って言われ続けてきたと思うんですけど、彼女のなかには「そんなのわかってますけど」っていう気持ちがあるんですよ。私も結構そう思うし。これは昔から言っているんですけど、曲を書いていて、物語があって、それが100%フィクションだってわかっている自分と、100%本当だって思っている自分がいて。50%ずつではなくて、どっちも100%なんですね。フィクションってわかっているよ、いや、でもどっかにはあるんだよって。

多分、アリスもそうだと思うんです。夢だってわかっているけど、体験した自分は確かにいるから。あとこれも私がいつも思っていることなんですけど、夢って記憶じゃないですか。でも、体験してきた現実も今の自分にとっては記憶じゃないですか。ということは夢だって“体験”であり“現実”なんじゃないか…という考え方には無理がありますけど(笑)。でもそういう考え方を「Alice in...」に反映しているんです。だから<ホンモノじゃないなんて知っていた>、でも覚えている以上はホンモノでしょ?っていう想いが含まれているフレーズですね。

― ちなみに、他にも続きが気になっているものや、続きを書きたい物語ってありますか?

この曲を書きたいというわけではないんですけど、スティーヴン・スピルバーグ監督の『A.I.』がすっごく好きで。終わり方がかなりこちらに委ねられていて、毎回「うわーっ!」ってなるからこそ、何回も観ちゃうんですよ。最後「え、これってハッピーエンドで良いんですよね?」って物語、結構あるじゃないですか。そういうものに対しては「じゃあもうこっちでハッピーエンドにしちゃいますよ」って思いますし(笑)、自分のなかで続きを考えます。二次創作的なものは大好きですね。

【インタビュー後編に続く!】

(取材・文/井出美緒)

◆2nd Album
『いつかの夢のゆくところ』
2020年2月19日発売
初回盤 VIZL-1709 ¥3,600
通常盤 VICL-65311 ¥3,000

<収録曲>
1. こもりうた
2. 夢日記
3. ポルターガイスト
4. 時をかけ飽きた少女
5. Alice in...
6. イマジナリーフレンド
7. ルンペル
8. 戯曲
9. 雨の街
10. リブート
11. バク