“しない”優しさって相手に伝わりにくいじゃないですか。

―― 4曲目「絶対」はデビュー前からあった曲なんですよね。何故、今のタイミングでリリースしようと思ったのですか?

私にはストックってあまりないんですけど、この曲だけはインディーズの頃からずっとあって、ライブでもほとんど歌っていなくて。だけどいつかはCDにしたいなと思っていたんですね。で、そのままここまで来ちゃったというだけで、そんなに深い意味はないんです(笑)。やっと出せたなぁ!って思っています。

―― <絶対に私は平気よ 間違った事はしない そう思っていた私も くだらない事で 人を殺してた>というフレーズは印象的であり、鋭い言葉を使っていますね。

今だったら<人を殺してた>とか書かないと思います。20歳くらいの若いときだからこその歌詞なんだろうなぁって。実はこれを書いたのは完全に、失恋がきっかけなんです(笑)。「あんなに一緒にいるって言っていたのに!」みたいな気持ちが込められている。先ほど、人を信用していないという話をしましたけど、逆にこの失恋をするまではすごく信じていたんですよね。いろんなことを。

―― 人のことも。

うん。信じられないというより、人の心はどうにもならない事があるんだと知ったから。そうしたら自分に対しても「絶対」なんてないなぁと思うようになって。たとえば、絶対にそんなことしないって思っていた自分が浮気をしちゃうとか。本当に大事なひとを殺されたら、もしかしたら自分も…とか。今、世の中にある事件とかも「なんでこんなことに?」って思うけど、自分が当事者にならないと、そのひとの気持ちなんてわからないんだなぁって感じます。そういう気持ちも「絶対」には込められていますね。

―― では、今回のアルバムでご自身が一番「書けてよかった」と思うフレーズはどの曲ですか?

photo_01です。

う~ん、やっぱり1曲目「鞄の中のやきもち」かな。この曲の<あなたの部屋に置いた寂しさも あなたの鞄に入れたやきもちも>というフレーズは、もうこれが言いたくて作ったぐらいなので気に入っていますね。あと、ただ“あなたに会いたい”だけじゃなくて<私を好きな あなたに会いたい>って言うことで、より切なさを出せたかなと思います。

―― 華子さんは、歌詞を書くときによく使う言葉はありますか?

先ほどもお話しした“否定形”の言葉。あと<優しさ>というワードがかなり多いかもしれません。デビュー曲も「やさしい花」というタイトルですし、私自身<優しさ>についてよく考えるんですね。本当の優しさって何だろうなって。たとえば、何かをしてあげることじゃなくて、何かを“しないこと”も優しさだと思うんです。連絡しないとか。あえて言わないとか。だけど、その“しない”優しさって相手に伝わりにくいじゃないですか。だからそういうところこそ、歌で表現できたらいいなって。

―― 逆に、使わない言葉というと。

多分数回は使っちゃったんですけど<永遠>とかですかね。さっきの<約束>とか<絶対>もそう。だから「永遠に君を愛するよ」みたいなことはあんまり書かないです。自分が「いや、嘘だろ」って思うから(笑)。

―― 最近「この歌詞が良い!」と思ったアーティストや楽曲を教えてください。

最近だと、平井大先生をよく聴いていますね。私は今まで、音楽って歌詞でしか聴いていなかったんですよ。歌詞がすべて。歌詞が一番。だったんですけど、平井大先生はもう、音楽が気持ちいい上に、パッと聴こえてくる日本語がすごく刺さったりするんですよ。普通のことを歌っているのに、やたら染みる感じがして。すごく好きですね。

あと、もう相変わらずマッキー(槇原敬之)さんは大好きすぎます。歌ネットさんのインタビューも読ませていただいたんですけど、本当に素晴らしかった。私はいつもマッキーさんのCDを買ったら、まず歌詞カードだけ読んで泣くんです。なんて優しいひとなんだ!って。2月に出されたニューアルバムだと、とくに「2 Crows On The Rooftop」が好きで、歌詞の<こんな自分で生まれてくると 自分で決めたと思いたい 何か訳があると>というフレーズ、涙が出ました。

―― 槇原さんとは、先日ラジオで共演もなされていましたよね!

そうなんですよ~!もう全く冷静になれなくて。感動しちゃって、喋っていても涙が出そうで、ファン全開でした。しかもマッキーさんが奥華子の曲を知っていてくれて嬉しかったですね。本当に同じ時代に生まれてきてよかったです。

―― ありがとうございました!最後に、華子さんがこれから挑戦してみたいのはどんな歌詞ですか?

自分の実体験を100%そのまま歌詞にしたようなものとか。今日お話しした「主人公=私ではない」という面もそうですし。もちろん全部フィクションである必要はないし、それが良いときもあるけど、どこかでなんかすごく自分を守っているように思うんですね。だから、今の歳の自分だから歌える、もうこれを歌って引退するくらいの曲を書いてみたいなと思いますね。思いっきり身を削って、ドン引きされようと、真の実体験を書く。いつかそんな曲が書けたらもう怖いものはないです (笑)!


前のページ 1 2 3