距離(ディスタンス)

君の住む故郷では もう季節が
海峡をゆらゆら 渡り始める頃
僕は都会の電車の中で ふと君の
懐かしい横顔 思いだせなかった
ドアにもたれ 人と人との間で
踏みつけるのは 自分の影ばかり
赤い文字の スポーツ新聞の
向う側で 誰かため息をついた
もうそろそろ 帰ろうと
帰らなくちゃ いけないと
思いはじめていたんだ
改札口抜けた処で 立ち止まっている僕に
誰も気づかない そんな街角

君はまだ「愛」や「夢」や「希望」そういった
懐かしい言葉を 笑いはしないだろう
僕はもう コップ一杯の水と引換えに
「嘘」なんて言葉を 飲み込める様になった
誰も彼も 網棚に笑顔を
置き忘れたままで 足早に歩く
それもこれも まるで街がすべて悪いと
圧しつけているけれど
都会はけっして 人を変えてはゆかない
人が街を変えてゆくんだ
人と人との距離が 心に垣根を
静かに刻みはじめる

もうそろそろ帰ろう 帰らなくちゃいけない
僕が僕でいるうちに
もうそろそろ帰ろう 帰らなくちゃいけない
君が君でいるうちに
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