忘帰行

冬の海辺を走る列車は
思い出さえも とじこめて
ひざのコートを 胸にあげても
こころの寒さは とまらない
あなたのもとへ帰りたい
女がひとりで 行く先は
粉雪 ちらちら 舞う街か

空と海とが 色もないまま
とけてる中に とぶ鴎
未練がらみの こころさすよに
汽笛が長めの 糸をひく
あなたのもとへ帰りたい
昨日にさよなら するために
あしたは 見知らぬ 港町

街のはずれに にじむ灯りの
小さな酒場で きく霧笛
雪がとければ 傷もいえると
誰もがだまって 酒をのむ
あなたのもとへ帰りたい
こごえる指先 ほゝにあて
つかのま 忘れる 酒に酔う
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