大利根月夜

「あゝ鐘が鳴る
あれは生命(いのち)の送り鐘か
今宵は八月十三夜(や)
抜いちゃいけねえ
義理が絡んだ白刃を抜けば
利根が三途の川になる」

あれを御覧と 指差す方に
利根の流れを ながれ月
昔笑うて ながめた月も
今日は 今日は涙の 顔で見る

「侍がなんだ やくざがどうした
人が住む世の裏街道
命ひとつを手土産に
ここまで落ちた平手造酒
いいってことよ
どんなに愚痴ってみても
昔にかえる 風は吹かねえって
ことなんだ」

愚痴じゃないけれど 世が世であれば
殿のまねきの 月見酒
男 平手と もてはやされて
今じゃ 今じゃ浮世を 三度笠

もとをたゞせば 侍育ち
腕は自慢の 千葉仕込み
何が不足で 大利根ぐらし
故郷(くに)じゃ故郷じゃ妹が 待つものを
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