赤城山

「幾百千里離れても、
俺の命を庇(かば)ってくれた、
赤城のお山と手前たちのこと、
忠治は生涯、忘れはしねえぞ。」

やむにやまれず 長脇差(ながどす)抜いた
俺を御用の 提灯(ひ)が囲む
これが運命(さだめ)か 裏街道
落ち目くだり目 涯(はて)ない首途(かどで)
さらば赤城山(あかぎ)の
さらば赤城山の 月灯り

「関(かん)八州に身のおきどころ、
追われ追われて仮寝(かりね)の枕。」
今日があっても、明日はねえンだ。
いいってことよ、泣くんじゃねぇ。
あと振り返って背伸びをすりゃあ
赤城のお山は、拝めるんだ。」

義理の盃(さかずき) 男の意地も
勝てぬ浮世に 腹が立つ
どこへ飛ぶのか 雁の声
こんど逢う時ァ あの世じゃないか
風が身にしむ
風が身にしむ 秋しぐれ

「親子づれか、兄弟か。
――雁が鳴いて飛んでゆく。
やっぱりあいつも、
故郷(こきょう)の空が恋しいんだろうなあ。」

木綿角帯(もめんかくおび) 堅気(かたぎ)の姿
夢にまでみて 捨ててきた
どうせ戻れぬ 旅がらす
こころ故郷(こきょう)へ 草鞋(わらじ)は西へ
泣かぬ忠治の
泣かぬ忠治の 目に涙
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